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どれくらい前に世界はこんなにもクソになったのだろうか?

 どれくらい前に世界はこんなにもクソになったのだろうか?

 少なくとも自分はそれを知る方法はなかった。

 娯楽、知識、そして自由……上げていったらキリがないほど自分は制限されていると感じる。

 何故自分は自由ではないのか、それは自分が下級市民だからだった。


 第三次世界大戦。


 いつ起きたのかはわからない。

 核戦争にまでは発展しなかったらしいが、それでもその戦争は苛烈で世界中の国が国としての機能を失うのには十分だった。

 そのまま世紀末の様な世界が続くと思ったが、そんなことにはならず、新しい秩序が現れた。


 各地にコロニーを建設し、秩序をもたらした者たちの祖先を《上級市民》。

 その上級市民を支えるために様々な仕事に就く《中級市民》。

 そして、新しい技術開発や、インフラの維持を担う《頭脳労働市民》。

 最後に様々な行動が制限されており、命の危険のあるミッションを受けなければいけない《下級市民》。


 そんな下級市民に属している自分は外に出てもすることもないので薄暗い自室にあるベットで横になっていた。


『下級市民ジャック、直ちにミッションルームに急行してください。下級市民ジャック、直ちにミッションルームに急行してください。』


 部屋の少ないスペースを占拠する様に置かれてる、鉄板を貼り付けた箱に付いている小さなモニターから声が聞こえる。

 自分の部屋はベットとこの邪魔なモニターで埋められていた。


『直ちににミッションルームに向かわない場合、反乱の兆候ありとして処分します。直ちにミッションルームに向かわない場合……』


 モニターが恐ろしいことを繰り返して言い始める。

 下級市民は自分が住んでいるコロニーの維持する部品と同じような扱いなのだ。

 使い物にならない部品はさっさと取り替えた方が稼働効率も上がり故障の原因も取り除ける。

 ここでは自分の命、というより下級市民の命はとてつもなく軽い。

 急いで部屋を出てミッションルームへと向かう。

何度も通って来た道なのでもはや迷うことはない。

 部屋の外はいつも通り無機質で薄暗い廊下が続いており、気が滅入りそうになる。

 ミッションルームにたどり着くと、自分とは別の人間が二人いた。

 一人は自分より一回り大きく、筋骨隆々という言葉がよく似合う男性で頭髪はなく肌が日焼けのせいなのか元からなのか浅黒い。

 もう一人は背が高く、ヒョロッとしている体型で落ち着きがなく辺りをキョロキョロと見渡している。

 そんな二人に並んでモニターの前に立つ。

モニターは自分の部屋のつぎはぎのオンボロとは違い、大きめのモニターが壁に埋め込まれていた。

 モニターに電源が入り地図が映し出されると聞き慣れた機械音声が流れ始める。


『下級市民ジャック、下級市民ブラッド、下級市民ニック、以下三名にミッションの発注です。今回のミッションは資源回収です。コロニーから3キロ先に燃料資源を確認しました。この燃料資源を回収し、コロニーに持ち帰ってください』


 下級市民の仕事は主に二つである。

 一つは今回の様に資源の回収だ。

 第三次世界大戦で資源が枯渇したせいで周りの人間と分け合うほどの余裕がなくなり、人々はそれぞれのコロニーを作り始めた。

 コロニーはこの世界に数え切れないほどあり、コロニー同士で資源を奪い合っている。

 こんな惨事になっても人間は相変わらず戦争を続けていたのだった。


 そしてもう一つは危険生物や別コロニーの人間の排除といった討伐系ミッションである。

 危険生物とはどこかのコロニーが生み出したのか、それとも突然変異かはわからない。

 どういう生物なのかはクリーチャーやモンスターを想起させるような見た目をしている。

 危険生物の種類は様々だがどれも手強く自分はあまり受けたいと思うものではなかった。

 そして別コロニーの人間の排除。

 このコロニーから資源を奪おうとして来たり、情報を抜き取ろうとして来たりと様々な理由で討伐ミッションが来る。

 まぁ、ここのモニターの機械音声が言っているだけなので本当は別の理由で来たかもしれないが。


『また、今回は別のコロニーの人間が燃料資源を回収しようとしている動きを確認しました。別コロニーに資源が渡らない様に注意してください。リーガルの繁栄のために市民の皆様は労働に励みましょう!』


 リーガル、このコロニーの名前である。

 毎度お馴染みの繁栄のために労働に励めという言葉につい顔が苦虫を潰した様になってしまう。

 それもそのはず、扱いは奴隷以下でその辺にあるネジと同じ扱いをされている状態でこの謳い文句である。

 思うところはかなりあったがそれを口に出すと本気で殺されそうなのでやめておく。

 モニター近くの床が一部せり上がりスキャナーが出てくる。

 スキャナーは円柱状で上には手を通せるぐらいの輪っかがついている。


『腕の端末をスキャナーに通してください。腕の端末をスキャナーに通してください。腕の端末をスキャナー……』


 自分の右腕には、機械製の腕輪が取り付けられていた。

 腕輪は動かないように固定されており外すことはできず、カメラのレンズの様なものがついている。

 皆は端末と呼んでおり、自分はこの腕輪が手錠にしか思えず気に食わなかった。

 自分以外の二人はスキャナーに手を通し終えたらしく自分にも通すように促している。

 おとなしくスキャナーに手を通すとスキャナーから細かい光の粒子が出てきて、そのすべてが自分の腕輪に吸い込まれていった。

 スキャナーから手を離し、腕輪を弄ると腕輪のレンズから映像が浮かび上がる。

 浮かび上がった映像には今回のミッションの評細が書かれている。

 手で触れようとしても触れられず、まるで霧のようだった。


 ――――ガシャンッ――――


 大きな音が後ろから聞こえ、反射的に後ろを振り向く。

 床がせり上がり、棚が露出される。

 棚には背中で背負うタンクが三つあり、タンクには燃料資源を吸い取るためのノズルがついている。

 そのほかには銃とナイフが人数分用意されていた。


 無言で用意されたものを装備し終えると、昇降機が降りてきて扉が開く。

 昇降機は上へ伸びておりどのぐらいの高さがあるかわからない。

 他の二人が乗り込み、自分も乗り込むと昇降機の扉が閉まり上へと上がっていく。

 数分ほどその場にとどまっていると短いベルの音とともに扉が開き始める。

 先ほどの薄暗い空間から一転してまぶしい光が自分の眼球を突き刺す。

 コロニーの外は前文明の名残が残っており廃ビルや廃墟が何件か建っている。

 地面のアスファルトを破り植物があちらこちらに自生しており、離れたビルの一面には茂みが覆いつくしていた。


 外の新鮮な空気を肺にいっぱいに吸い込みながら一息ついていると右腕の端末が鳴り始める。


『ミッション、燃料資源の回収を開始します。ミッション、燃料資源の回収を開始します』


 端末の機械音声が鳴り響く。

 他の二人の端末からも声が聞こえており、せっかく一息ついてたところを邪魔されて顔を歪めてしまう。

 二人に目を向けるとブラッドと呼ばれているほうが筋肉がついている方で、先程からおどおどしている方がニックだということが端末の音声で分かった。


「あの、これからどうすれば……?」

「確かお前はニックだったな! なんだ? ミッションは初めてか?」

「は、はい、そうなんです……それで、その何もわからなくて……」

「ガハハ! そうか、そうか! よし、じゃあ先輩として色々教えてやる前に自己紹介でもしようじゃねーか! 俺はブラッドだ! ミッション歴は5年ってところだな!」

「あ、えと、ニックです。今回が初ミッションです……」

「ジャック、ミッション歴は3年だ」


 お互いに軽く自己紹介を終えると目的地に向かいながらブラッドが話し始める。


「さて、ニック! 今回はクソッタレのコロニーからの命令で燃焼資源の回収しに行っているんだが……」

「ちょ、ちょっと待ってください! ブラッドさん! そんなこといったら……!?」


 ニックがブラッドの話を遮り、驚きが混じったような声で制止する。

 だがそんなニックの様子を笑いながら話を続ける。


「ニック! コロニーが俺たちの会話を聞き取れるのはコロニー内だけなんだよ! つまりはコロニーのことを馬鹿にしても粛清されることはないんだ!」

「えぇ!? で、でも、腕輪から声が聞こえますよ?」

「そいつは一方通行なのさ! 少なくとも俺は外で好き勝手言って殺されたなんて話は聞いたことねぇな!」


 ブラッドの言うことを信じられないのか、ニックは自分に目線を向ける。

 小さくため息を吐き自分も教えてやるとする。


「ブラッドの言う通りだよ。少なくとも外でコロニー側からのアクションを受けたことがあるという話は聞いたことがない。」

「そ、そうなんですか……」

「あぁ、後はコロニーで言われた通りだ。銃の打ち方や各種機材の使い方……教えられた通りにやればいい。後は……」

「誰がリーダーをやるかだ!」


 ブラッドが大声を上げながら話に割り込んでくる。


「基本的にミッションは複数人で行うことが多いんだがその時皆が勝手に動いては生き残れるのも生き残れん! それゆえにリーダーを決めるのだ!」

「え? で、でもどうやって?」

「それはだな! ミッションの経験年数だ! 長く生き残ってるってことはそれだけすごい! つまりこの中では俺が一番すごいのだ!」


 その通りだ、自分も初ミッションの時同じようなことを別の先輩に教えてもらった。

 この死にやすい環境を5年生き残るのは並大抵のことではない。

 3年間生き残った自分ですら何度も死にかけたのだ。

 彼の自信はこの環境下で長く生き残れたというところからくるのだろう。


「さあ! ほかの質問は歩きながら答えようではないか! 腰にぶら下げている拳銃とナイフはいつでも取り出せるようにしておけ! それでは出発!!」


 そういうとブラッドを先頭に歩き出し、その後ろをニックがついていく。

 自分も後方を警戒しつつ、二人についていく。

 さすがにコロニーから離れるころにはブラッドも大きな声で喋るのをやめてくれるだろう。

 今回も生き残れるといいのだが……。



 道中これと言ったトラブルもなく、しばらく市街地を歩いていると、どうやら目的地にたどり着いたようだ。

 燃料資源があるという場所は瓦礫があたりに散乱しており歩きづらい。

 そのなかでもひと際大きい瓦礫の山の上に“それ”はあった。

 それは機械製の二足歩行兵器だった。

 大木のような大きさの脚がついており、その足には銃器や細いアームの様なものが取り付けられていた。

 足の先にはコックピットの様なものがあり、金属製の大きな玉や円柱状のものがついていたりしている。

 言葉にすると二足歩行する背の高い戦車だろうか。


「す、すごい! 外にはこんなものが!」

「シーー……」


 巨大な二足歩行兵器を見て興奮するニックとそれをたしなめるように人差し指を手に当て静かにするようにジェスチャーをするブラッド。

 ブラッドは胸を張って大声を出していた最初と違い、軽く中腰の様な体制で物陰を縫うような動きになっていた。

 その巨体を感じさせないようなスムーズな動きに自分は素直に感心してしまう。


「す、すいません……、初めてこんなの見たもので……」


 ニックはそういうとどこか申し訳なさそうに謝る。

 気持ちはわからないことはないが、自分は興奮より恐怖が勝っていた。

 もし、この兵器と対峙してしまったら自分はどうなるだろうか?

 きっとなすすべもなく、あっという間に肉片になってしまうだろう。

 ブラッドも自分と同じことを考えていたのかどうかは分からないが額に汗がにじんでいる。

 二人で瓦礫の物陰に隠れつつこれからどうしようかと話そうとするが……


「あとは、あのロボットから燃料を抜き取ればいいだけですよね! 自分取ってきます!」


 なにか役に立とうと思ったのか、それともあのロボットを近くで見たいがゆえにそう言ったのだろか、ニックは立ち上がりロボットのほうへと向かおうとする。


「バッ……!?」


 ブラッドか、はたまた自分か、もしかしたら二人同時にニックに対して言葉をかけようとした瞬間、ニックが背中側に倒れる。

 まるで紐が切れた操り人形のように全身の力が抜けてその場に倒れ込んでいた。

 倒れたニックに目を向けると首には深々と矢が突き刺さっていた。

 おびただしい血がその場にあふれてきて血だまりがあっという間にできる。


「クソ! 敵だ! 頭を下げろジャック!」

「わかっている、ブラッド。それより、敵の居場所を把握したいがいいか?」

「許可する!」


 懐から手鏡を取り出し鏡だけを露出させて周りを確認する。

手鏡に敵の姿は確認できず時間ばかりが過ぎていく。


「ニック!? ぶじか! ニック!」


 身を隠しながら大声でニックの身体を確認しながら呼びかけるブラッド。

 しかしニックはブラッドの声に答えることはなかった。

 此方から見てもニックが息をしているようにはとても見えなかった。


「ブラッド――――……」


 ブラッドに話しかけようとした瞬間何かが刺さる音で遮られる。

 音のする方向を確認すると、自分のすぐ隣の地面に矢が深々と刺さっていた。


「ブラッド! 此方の場所を相手に捕捉されている!」

「クソったれどもは何体だ!? 場所は? 武器は!?」

「敵は確認できなかった、武器は弓矢を使用している以外は全くわからない」

「クソったれが!」


 自分と同じ瓦礫に張り付きながらブラッドは悪態をつく。

 別のコロニーの人間と外で出くわすなんて滅多にあることではない。

 初のミッションでそんな滅多にない事象に遭遇した彼は不幸だったのだろう。

 そしてそんな不幸が今自分を殺さんと迫っていた。

 このまま逃げ出したいがミッションの失敗はペナルティが出ることもあり、最悪無事にコロニーに逃げ帰っても殺されてしまう。

 このまま逃げ帰る選択肢など自分には、そしてブラッドにもない。


「……お互いに二人で走って、敵の方向に突っ込むか? 運が良ければどちらかは生き残るかもしれない」

「それはだめだ、それで助かるのは相手が一人だけだった場合だ。二人以上だった場合俺たちに勝ち目はない。」


 きっとブラッドは一人が射抜かれた隙に出てきた敵を、生き残ったもう一人が銃弾を撃ち込むつもりなのだろう。

 相手が一人だったらまだしも、もう一人いたらその隙に殺されるのがオチである。

 自分にはそんな博打じみたことをするほど自分の運を信じてはいなかった。


「じゃあどうする!? このまま二人の頭の上に矢が突き刺さるまでジッとしておくのか!?」

「落ち着けよ、ブラッド。僕に考えがあるんだが、乗るか? 運が良ければ二人とも生還できるぜ」

「乗った!」


 自分の考えも話す前にこちらを信用し即答するブラッド。

 この素早い決断力が彼を5年も生かしたのかもしれない。


「よし、作戦の下準備をしながら話すからしっかりと聞いてくれよ」


 そう言いながら自分はニックの死体を瓦礫にまで引き摺り込もうと身を乗り出す。

 距離が空いて居ないこともありなんとか成功したが先程と同じ位置から矢が放たれ辛うじて外れる。

 ニックを瓦礫に引き摺り込んだ後、首元にナイフを突き立てた。

 ナイフは肉と血管をグチグチと切り開きながら奥へと進んでいく。

 ナイフを刺した傷口からは血が漏れ出るように溢れてくる。


「な、何をしているんだジャック!?」


 さぁ、反撃開始だ。

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