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09 豪華お食事券

09 豪華お食事券


 俺は軽い気持ちで、ギャルっぺをもらう宣言をしたつもりだった。

 しかしなんだか正式な手続きがされたっぽいような事が起ったので、俺は慌てる。


 リュックサックから取り出した利用のしおりをめくってみると、それらしいページがあった。


『生活保護ダンジョンで得た資産の、地域外への持ち出しについて。

 動物についてはテイミング済のものであれば、特別な申請は不要で持ち出すことができます。

 また異世界人につきましては、資格要件を満たしていれば地域外に連れ出すことができます。

 動物・異世界人ともに、所有者には「動物占有者の責任」が発生しますので、責任を持って飼うようにしてください』


 その世紀末的な文言に、俺は度肝を抜かれていた。


「か……完全に、ペットの扱いじゃねぇか……!? そんなことが許されるのかよ!?」


 っていうかそれ以前に、俺になにかを養うだけの甲斐性はない。

 いまは、自分のことをなんとかするだけで精一杯だ。


 っていうかそれ以前に、自分のこともちゃんとできてない。

 所持金はゼロで、ナマポイントを換金したってたったの120円にしかならない。


 120円なんて、ジュース買ったら終わり……。

 今時の小学生のほうが、よっぽど金持ちじゃねぇか……!


「ねぇ、クロキさん……? やっぱり、あーしじゃ嫌……?」


 声のほうを見ると、ギャルっぺはいつになく不安そうな表情をしていた。

 捨てられた仔犬のような彼女を見て、俺は頭をガツンと殴れた気分になる。


 まだ子供のギャルっぺは、いつも笑ってないとダメなんだ。

 それなのに何度もこんな顔をさせちまうだなんて、俺は大人として失格だ。


 たとえどんな理由であれ大人なら、そして男なら、したことの責任は取らなくちゃいけない。


 俺は喝を入れる意味で、自分の顔を両手でバシンとはたいた。

 ちょっとビックリしているギャルっぺの手を、再び握りしめる。


「ちょっと考え事をしてただけだ。とりあえず、ここを出よう。

 俺を信じてついてくるんだ。このあたりは危ないから、手を離すんじゃないぞ」


「う……うん! おけまるだし!

 いまのクロキさん、なんだか頼もしくて超イケてるし!」


 だいぶ長居をしてしまったが、俺たちは宝箱の部屋を出る。

 ダンジョンの外に向かうつもりだったのだが、大変なことに気付いてしまった。


「あ、しまった。来た道を忘れちまった」


「ちょ、忘れんなし! 見直して損したし!」


「適当に歩いてたらなんとかなるだろ」


「それ、やばたにえん! 死亡フラグビンビンだし!」


「う~ん。それじゃあ、右側の壁に手をついて……」


「って、そんなことしてたらBBAになっちゃうし!

 っていうかクロキさんってガチ脳筋!? いいからあーしに任せるし!」


 部屋を出るまでは俺が引っ張っていたのだが、今度はギャルっぺが俺を引っ張って歩きだす。

 分かれ道に来ると立ち止まり、小さな鼻をひくひくせていた。


「こっちだし」


「まさか、匂いでわかるのか?」


「うん。あーし、鼻セレブだし」


「なんだそりゃ」


「あ、木の匂いがする。たぶん、こっちにTKBあるし」


 横道にそれてみると、たしかに木製の宝箱があった。


「すごいなギャルっぺ。まるで警察犬みたいだ」


 褒められて嬉しかったのか、ギャルっぺは「わんっ!」と鳴き返す。


「どお? あーしって役に立つっしょ?」


 前傾姿勢になって、チラリと意味ありげな上目遣いを向けてくるギャルっぺ。


「ああ、ありがとうな。

 それじゃ、ここからは俺の出番だな。罠があるといけないから、後ろに隠れてろよ」


 俺はギャルっぺを背中に寄り添わせながら、宝箱の前に立つ。

 フタを開けるためにしゃがみこもうとしたら、「どかーん!」と背後から大声がして、思わず直立不動になってしまった。


「あははは! マジビビりだし! 背筋ピーンってなってるし! 超ウケるんですけど!」


「おい、びっくりさせんなよ……」


 脅かされたせいで、俺はちょっと臆病になってしまい、宝箱をおそるおそる足で開ける。

 中には、見覚えのあるクリスタルが入っていた。


 それは接待中年が使っていた、帰還のクリスタルと同じもののようだった。

 俺は思わずガッツポーズをする。


「よし! これを使えば一気に外に出られるぞ!」


 俺の片腕にしがみつき、ひょっこりと顔を出して宝箱を覗き込んでいたギャルっぺが言う。


「クロキさん、まだなにか入ってるっぽくない?」


 金髪をふわっとさせながらしゃがみこむギャルっぺ。


 宝箱の底に貼り付いていた紙を、長いネイルを爪立てて取り出す。

 立ち上がり「じゃじゃーん!」と見せつけてきたそれは、『豪華お食事券』だった。


「おおっ!? なんかすごそうなチケットだな!」


「でしょ!? でしょでしょ!? あーしって役に立つっしょ?」


 なぜかギャルっぺは、また前傾姿勢になる。


「ああ、ありがとうな」


「ちょ、それだけ!? お礼だけにしたって、ボキャ貧すぎるし! ゴーレムかよ!」


「ゴーレム言うな。お礼だけ、って他になにかしてほしいのか?」


 するとギャルっぺは「ん!」と語気を強めながら、ツムジを俺に向けてきた。

 もしかして……撫でろって言ってるのか?


 まさかとは思いつつ、ギャルっぺの頭に手を置く。

 撫でるように前後に動かしてみると「ふわぁ~」と夢見心地のような声が聞こえてきた。


「マジうれぴよ……超気持ちーんですけど……」


 それは、以外な発見だった。

 異世界の女子高生って、撫でられて喜ぶのか……。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 クリスタルを使っての帰還はほんとうに一瞬だった。

 光に包まれ周囲が真っ白に飛んだかと思うと、耳栓をしたかのようにまわりの音が聞こえなくなる。


 しかし白い光がオレンジ色に変わり、少しずつ喧噪が鼓膜をくすぐる。

 気付いたら、夕暮れの雑踏を目の前にしていた。

 俺は生活保護ダンジョンの入口近く、すみっこのほうに立っていた。


 ギャルっぺはどこに……? と見回してみたら、さっそくチンピラっぽい男たちに声をかけられている。

 ギャルっぺはアカンベーをしているが、男たちは力ずくで連れ去っていきそうな勢いだった。


 俺はチンピラを押しのけ、ギャルっぺの手を掴んだ。

 チンピラたちがさっそく絡んできたが、睨んでやると目をそらしてどこかへ行ってしまう。


 俺は生まれつき、身体が大きくて目つきが悪かったので、高校の時とかはそのふたつを駆使してケンカを回避していた。

 ケンカはしないことに越したことはない。


 ギャルっぺは、俺を見るなり花咲く笑顔を見せた。

 俺の握った手を、恋人繋ぎで握り返してくる。


「ギャルっぺ、この街はダンジョン以上に危険だから、俺から離れるなよ」


「おけまるっ!」


 俺たちはしっかりと手を繋いだまま、大通りに出る。

 もう夕方ではあるものの、生活保護ダンジョンの外ではなおもたくさんの露店が出ていた。


 この街に住んでいる人たちが夕食の買い出しをしているようで、さらに混み合っている。

 来たときは街の雰囲気に圧倒されてあんまり見ている余裕がなかったのだが、だいぶ慣れたのでいろいろと情報が入ってくる。


 いろんな武器が飾ってある武器屋、木のマネキンが並ぶ防具屋、なにに使うのかわからない小物だらけの道具屋……。

 俺はあらためて異国の地に来たみたいな気分になって、ウインドウショッピングを楽しんだ。


 異世界人のギャルっぺには珍しくない光景のようで、なにを見ても「ふーん」とリアクションが薄い。


 この地では作業服の俺は目立っていたのだが、ギャルっぺは制服姿だったのでさらに異質だった。

 強者っぽい冒険者すらも足を止め、まるでサンバカーニバルを始めて見た子供のようになっている。


 そして俺は、気になるスポットを見つけていた。

『ナマポイント換金所』と『お食事券交換所』だ。


 ナマポイント交換所は、その名のとおりナマポイントを現金に換えてくれるらしい。

 ナマポイントはこの街でしか使えないようなので、外で使いたければ現金化する必要がある。


 しかしいまの俺は120NPしか持ってないので、換金手数料のほうが高くつきそうだ。

 俺は『お食事券交換所』を尋ねる。


 そこは宝くじ売り場みたいな小屋になっていて、窓口にチケットを出すと食事と交換してもらえる仕組みになっていた。

 先ほど手に入れた『豪華お食事券』を出してみると、紙袋を渡される。


 中を覗き込んでみると、もう販売を終了していそうな色あせたカップラーメンが4つ入っていた。


 これ、食っても大丈夫なのか?

 それ以前に、豪華お食事券がカップ麺とは……。


 なんにしても、今日の晩飯はどうしようか悩んでいたところだったのでちょうどよかった。

 リュックサックの中に紙袋をしまい、俺たちは街の外に向かう。


 駅が見えたところで、ギャルっぺが急に緊張しはじめた。


「あ……あれって……! 駅、だよね……!? あーしはついに、日本に行けるんだ……!」

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