13 はじめての水遊び
13 はじめての水遊び
4匹のゴブリンをまとめて倒したのが良かったのか、俺はレベルアップを果たす。
もしかしたら短い時間で多くのモンスターを倒すと、ボーナスのようなものが付くのかもしれないな。
「おめっとー! クロキさん!」
ギャルっぺに祝福されながら、腕輪のステータスウインドウを開いてみると、新しいスキルが増えていた。
死怨の四番打者
アクティブスキル。
大剣の峰で打つことにより、飛び道具を打ち返すことができる。
憎しみを込めて打つほど打球の威力は上昇し、また追尾するようになる。
「飛び道具を打ち返すスキルか。ゴブリンは相手だと使う機会は無さそうだけど、いずれ役に立ちそうだな」
スキルの効果を確認し終えたあと、俺たちは探索を再開する。
昨日も感じたことではあるが、1階はあまり儲からない。
ゴブリンを倒しても20円にしかならないし、宝箱から出てくるのはチケットくらいのものだ。
この生活保護ダンジョンは下層に行くほどモンスターが強くなり、得られるものも多くなるという。
1階の探索は打ち切って2階に行くことも考えたのだが、焦りは禁物だ。
「まずはここでしっかり修行を積んで、強くならないとな」
それはいつもの独り言のつもりだったのだが、ギャルっぺが反応する。
「そお? クロキさんってじゅうぶん強いし。ゴブリン4匹倒せるなら、2階もイケんじゃね?」
「そうなのか? でもまあ、もう少しここで経験を積むよ。
俺はケガしても構わないが、ギャルっぺはそういうわけにはいかないからな」
「なんで? なんであーしはそういうわけにはいかないし?」
「そりゃ女の子なんだから、顔に傷でも付けられて、痕でも残ったら大変だろ」
「へ? そんなの別にいいし。だってあーし、もうクロキさんのものだし」
俺は思わず吹き出しそうになった。
「おい、大人をからかうんじゃ……」
「あっ! 見てみてクロキさん! なんか面白そうなのがあるし!」
ダベりながら廊下を歩いていたら、一風変った部屋に出た。
部屋の真ん中には立て札が立っている。
『当たりはトレジャーハウス、ハズレはモンスターハウス』
と書かれている。
立て札の奥にはふたつの通路があったのだが、そこは通路というよりも滑り台のようになっていて、急激に下降していた。
左側の滑り台は赤く、左側の滑り台は青くぼんやりと光っている。
この見た目からして、いちど下りたら戻ることはできなそうだ。
俺は、根本的な疑問を抱いていた。
「こんな部屋、昨日探索した時は無かったぞ?」
「このダンジョンは生きてて、誰も見てないところで形が変るんだし。MNNだし」
「なんだ、MNNって?」
「珍しくもなんともないし」
生きているダンジョンなんて気味が悪いが、異世界じゃ当たり前のことらしい。
もしかしたらモンスターが復活したり、宝箱が配置されるのと関係しているのかもしれないな。
そしてこの滑り台は、当たりを引き当てればおそらく宝箱のある部屋に、ハズレを引いてしまえばモンスターだらけの部屋に行ってしまうのだろう。
2分の1のバクチなんて、いつもの俺なら間違いなく引き返すところだが……。
今の俺には、幸運の女神がいる。
「ギャルっぺ、赤と青どっちだ?」
するとギャルっぺは、「んーと」と考えるような仕草をしたあと、「青!」と答える。
「あーし、海って見たことないし。日本に来たら、いちど海を見てみたいと思ってたし!」
「そうか。それじゃ、いつか海を見に連れてってやるよ」
ギャルっぺは一足先に海に来たかのように、「マジっ!?」と青い瞳をエメラルドブルーに輝かせる。
「やーりぃ! マジ約束だよ! 指切りするし!」
子供のように喜々として小指を出してくるギャルっぺ。
俺は微笑ましい気分で小指を絡め合わせそうになったが、
「って、違う! どっちの色を好きか聞いたんじゃなくて、赤と青の滑り台、どっちが当たりかって聞いたんだよ!」
「えーっ、そんなの場面じゃね?」
「いや、得意の鼻セレブはどうしたんだよ!? 昨日は匂いで宝箱を当ててだろ!?」
「あ、そっか」
ギャルっぺは思いだしたように小鼻をひくひくさせながら滑り台を覗き込む。
しばらくして、「こっちだし」と青い滑り台を指さした。
「赤いほうはケモノの匂いがするし。青いほうはもっと臭くてドブみたいな臭いがするんだけど、宝箱の匂いもするし」
ドブみたいな臭いというのが気になったが、俺はギャルっぺを信じることにした。
俺は青い滑り台に座り、後ろから掴まるようにギャルっぺに言う。
するとギャルっぺはなにを思ったのか、俺の後ろに座りこんで、脇の後ろから胸に手を回してきた。
それどころか足も前に出してきて、俺の腹をカニばさみするみたいにガシッと抱え込む。
ギャルっぺの健康的な太ももがシートベルトのように絡みついてきて、肩甲骨の下あたりに、エアバッグのようなムニュッとした弾力が押し当てられた。
「いや、そこまでしっかり掴まらなくても……」
と言いかけた俺は舌を噛みそうになる。
魔法の力か何かなのか、俺たちは撃ち出されるような勢いで滑り落ちていったからだ。
「うぇぇぇーーーーいっ!!」
ジェットコースターを楽しむようなギャルっぺの歓声が通路に響き渡り、俺の身体がひときわ強く抱き寄せられる。
俺はギャルっぺに抱っこされるみたいな形になった。
滑り台はループコースターのようになっていて、俺たちは天地がわからなくなるほどに振り回される。
まるで未来のチューブ型の高速道路を走っているように、テールランプのような青い光が尾を引いて通り過ぎていく。
この先に待つのは、天国か地獄か……!?
……すぽーん! と音がしそうなくらいに俺たちは部屋へと飛び出した。
下は浅い水たまりになっていて、俺たちは水飛沫をあげながら滑っていく。
目の前には幾重もの水のカーテンがあり、洗面器に顔を突っ込むような衝撃をいくつも受けてようやく止まる。
俺の身体はすっかりびしょ濡れで、後ろでは「あっはっはっはっはっ!」と爆笑が弾けていた。
振り向くとそこには、あられもない格好のギャルっぺが。
ブラウスは濡れ透けて、花のようなブラが丸見えになっている。
いや、丸見えになっているのはそれだけじゃなくて、両足はアルファベットのように開脚して……。
視線を落としかけて、俺はすぐに背中を向けた。
「ああっ、超たのしかったー! あれ? どったのクロキさん?」
「いや、なんでもない。それよりもここを出るぞ」
「えーっ、どしたん急にー!? せっかく濡れたんだから、もーちょっとここで遊ぶし! それーっ!」
わざとなのか天然なのか、ギャルっぺは俺の前に回り込んでは水をぶっかけてくる。
あまりにしつこかったのでやり返そうとしたら、目の前で豪快にすっ転んでいた。
南国の花のように、派手にめくれあがるスカート。
俺はそのたびに目をそらすので大変だった。
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