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【第八話】きっとこれが最後の晩餐...

こんにちは、はちみつレモンです。4日ぶりの更新...。

誤字脱字等ありましたらご報告お願いします。

追記:7月26日編集しました。

   12月5日編集しました。

(呼ばれて来たは良いものの...どうしてこんなに雰囲気が悪いのよ...。)



しーんとした空気の中で、食器がぶつかる音だけが鳴っている。控えめに言って居心地が悪すぎて、早く退出したい。晩餐に招待されたから、てっきり父親なりの気遣いなのかと思っていたら...この状況は何?死刑囚の死刑執行前みたいな雰囲気じゃない。



私は呼ばれた時間よりも少し早めに到着した。が、もう既にその場に父親、母親、兄全員が着席していた。もしかしたら早めに席に着くのがルールなのかもしれないと思って、お待たせしてすみません、と言っても父親に無言で頷かれるだけ。それからずっとこの調子ってわけよ。



ただでさえ慣れない家族団欒で精神をすり減らしているのに、ほんと...どうしたら良いのかしらね。一応父親と和解...?はしたつもりだけど、母親と兄に関しては会話すらしていないからギクシャクしたままなのよ。



(早く食べて、さっさと帰るのよ。)



私は、食べるスピードをあげる。失礼にならない程度に手と口を動かし、もう少しで食べ終わって自室に戻れる...と思った矢先に。



「エ、エラちゃん...。」



幻聴だと思いたかった。あと本当にもう少しで退出できたはずだったのに。...もう少し早く食べていれば。



「はい、なんでしょう。」



諦めてフォークとナイフを置いて、返事をする。



「お前、母親に向かってその態度はなんだ。」



えっと、久しぶりの会話の始めがそれなの?お兄さん。どう見ても怒ってるけど...私、何かしたかしら。別に機嫌が悪くなるようなことはしていないはずよね。



ちらっと彼の方を見ると、明らかに怒っている。けど...怒ってる顔もイケメンだし、何でも良いか。小さい頃の記憶だと中性的な美少年って感じだわ。それが、こんな強面イケメンに変貌するなんて。我が兄ながら、本当にかっこいいわね。



「...。」


「なぜ黙る?今までのように、好きに言えばいいだろう。あぁ、最近は”いい子”になったんだったか。皆そう言うから俺も変わったのかと思ったが...その様子を見るに、全くの出鱈目だな。」


(いや、お兄さんの顔が良すぎて見惚れてただけですけども。)



勘違いで怒られて、ちょっとイラッとしたけど...まぁそうなるか、とも思う。だってつい最近まで荒れ狂って家族にも散々迷惑をかけていたから。...私のことを悪女だと思うのも仕方ないわね。



「いい子になった、というよりかは...暴れるのを止めた、という方が近いと思います。」


「暴れるのをやめた?お前が?」



おお、明け透けな嫌味ね。でもどうってこと無い...むしろこれくらい分かりやすい方が心の内を知りやすくて良いかも。イケメンの色々な表情を見れるしね。



「やめなさい、エイダン。」



特に私は気にしていないけれど、お母様が仲裁に入ってくれた。ここは一家の大黒柱が止めるべきじゃ...?と思ったけど、お父様はずっと傍観している。...一体貴方は何のためにここにいるんです?



「我が物顔で我が家の権力や財産を使い、傲慢な態度を取り続けているお前が、変わる?やめる?馬鹿にするのも大概にしろ。」



散々な言われようだ。...でも特に間違ったことは言っていない。信じられないというのも分かる。権力も財産も、こっ酷く使ってきた。家族には迷惑をかけた。こんな妹を持って、可哀想だとも思う。



(でも...私の意見も聞かずに一方的に罵倒するのは、間違ってる。)

「...今わたくしが何かを語ったとして、お兄様は嘘だと仰ると思います。それなのに、何を語れと?」

「っ、お前、調子に乗りやがって・・・!」


お兄様は立ち上がって私の胸ぐらを掴んだ。激しい怒りの剣幕に少し怯んだが、私はお兄様から視線を逸らさなかった。私は、間違ったことを言っていないのだから。


「エイダン!やめなさいと言っているの!」


「ですが母上っ・・・。」


「やめなさいと、そう言っているのよ。」


「ちっ・・・わかりました。」


今の一瞬の間で、お母様のお兄様に対する愛情と信頼が垣間見えた。これが、家族。


そこで気づいた。お兄様とお母様とお父様の間に流れる雰囲気は、私の周りにはない。分かっていたけど、はっきりとした差に、疎外感を感じずにはいられなかった。


「・・・エラちゃん。今までごめんなさい。ヘンリーに・・・お父様にこの前の話を聞いたわ。貴女がそんなことを思っていたなんて知らなくて・・・いいえ、これは言い訳ね。」


お父様、お母様に告げ口したんですか。


「私とヘンリーは、後継者であるエイダンを直接育てて、貴女の教育は、厳しいけれど実力がつくことで有名な方に任せることにしたの。・・・貴女には、()()()()()()()()()()()から。


当然、エイダンも貴女も、甘えは許されない。だから私達は、二人を平等に教育出来ていると思っていたの。

・・・でも、それが一番の問題だった。毎日顔を合わせるエイダンと、顔をほとんど合わせない貴女とじゃ、全然違うことに、気づかなかったの。


それに加えて、苦しんでいる貴女を見ていられなくて、別館へ追いやるなんて・・・なんて情けないんでしょうね。母親として・・・それ以前に、人間として貴女に合わせる顔がないわ。本当に・・・本当にごめんなさい。」


お母様の頬から、涙が零れ落ちた。


私には家族というものが分からない。お母様とか、お父様とか、それは元々定着していたのがそのまま口から発せられているだけで、本当は不思議な感覚だった。


エラとしての自分がいても、家族のことが分からないのは・・・彼女自身が悩んで悩んで、幸せだった頃を忘れたいと願ったからじゃないかと思う。


でも今、少しだけ”家族”が分かった気がする。


お母様をよく見ると、私の顔のパーツとそっくりだった。それを見て、心がぎゅっと掴まれたような、そんな感覚になった。もしこれが家族というものなら。


(家族って、こんなに温かいものなんだ。)


お母様は私に、許してくれなくてもいいと言った。正直私はお父様もお母様もまだ許すことが出来ない。これはお父様にも伝えた。


それでも、歩み寄りたいと思った。ずっと”家族”はどういうものなのか・・・知りたいと思った。


「・・・許しません。」


お母様はとても傷ついた顔をして、俯いた。


「っそう、よね。酷いことをしてきたんだもの、当たり前だわ。」


「・・・でも、歩み寄りたいと思っています。」


お母様と、そしてお父様が驚いた様子でこちらを見ている。・・・お兄様はずっと苦虫を噛み潰したような表情で、俯いているけど。


「確かにわたくしはお父様とお母様を恨んでいましたし・・・今でも許せません。でも、二人はわたくしが許せない、と言っても受け入れてくれました。」


「・・・そんなの、当たり前よ。」


「二人はわたくしを尊重して、わたくしの気持ちを考えて、聞いてくれました。決して怒ったりせず、謝ってくれました。もちろんまだ不信感はありますが・・・わたくしは二人を信じたいと、昔みたいに楽しく過ごしたいと思ったんです。・・・説明が下手でごめんなさい、でもこれがわたくしの本心です。」


途端、お母様はわっと泣き出した。なぜかお父様までつられて泣いている。・・・お兄様はと言うと気まずすぎて死にそうな顔をしていた。その顔で少し笑いそうになったことは内緒だ。


「っ、エイダン、あなたも言うことがあるでしょう。」


お兄様はお母様に名前を呼ばれて狼狽えている。お母様はハンカチで鼻を噛んでいる。


・・・まさかのブリティッシュスタイルですか。


「・・・ん。」


「・・・何ですか。」


「・・・めん。」


「聞こえないです。」


「ごめんって言ってるんだ!」


「なんでお兄様が怒ってるんですか・・・。」


お兄様はやっぱりツンデレか。乙女ゲームでもツンデレポジションだったから、薄々予感はしていたけど。まぁ私はツンデレは好みではないので、ときめいたりはしません!


「いや、その・・・本当にすまなかった。」


えっ、可愛い・・・って、違う。これはときめいたとか、そういうことじゃない。ただ怒られた大型犬みたいだな、なんて思っただけ。


「・・・以前のわたくしのことを考えれば、お兄様に否はありません。」


「そ、そうか・・・。」


部屋がまた静まり返った。


気まず過ぎて食事が喉を通らない。どうしてくれる。


「エ、エラ、折角の晩餐だ。今日は沢山作らせてある、好きな量を食べなさい。」


お父様、あなたそれでも公爵家の大黒柱なんですか。気まずいって顔に書いてありますけど。


「ええ、そうしま・・・。」


背中からライラの圧を感じた。そうだった、私はダイエット中だった。目の前に美味しそうな食べ物が沢山あるのに・・・ちょっとだけ、駄目?


ライラが何か言っている。えっと、だ、め、?駄目か・・・・。


「エラ、どうした。体調でも悪いのか?あまり食事が進んでいないようだが・・・口に合わなかったのか?」


「いいえ、そんなことはありません。ただ・・・」


すると突然、後ろから強い視線が注がれた。方向的に、ライラ?急に熱視線を送ってきて、何のつもりなのか。


・・・そういえば、ダイエットをやってることも言ってはいけないんだっけ。そうだ、私は今まで馬鹿にしてきた人たちを見返すんだった。


「ただ・・・?」


「い、いえいえ何でもありません。え、ええと、それよりお父様、次の大きな行事はいつでしょうか?」


「行事?うむ・・・1年後に王子の婚約者候補を集めるパーティがあるくらいだろうか。デビュタントで婚約者発表があるからな。それまでに決めたいらしい。」


「そうですか!では、1年後までわたくしは別邸で引きこもりますので放っておいてくださると助かります。」


「そうか、わかった・・・って、今、何と言った?」


ダイエットは、時間がかかるらしい。私の場合は、燃やさなくてはならない脂肪がわんさかあるので、通常の人の何倍もの時間がかかる見込みだ。


見返すことを目標としているので、完全体になるまでは出来るだけ人と関わりたくない。家族と和解はしたが、見返したい対象に入っているので、1年は会うことは出来ない。


「1年ほど、別邸に引きこもります、と言いました。」


「ど、どうしてだ?やっと家族への一歩を進めたというのに・・・。」


「わたくし、これから自分磨きをしたいんです。今まで怠けてきた分、もっと頑張らなくてはいけないと思ったので・・・。だから、わたくしに1年、時間をください。」


お父様とお母様はしばらく二人で視線を交えた後、ゆっくり頷いてくれた。


「そうか・・・私達は今までお前を放置していた。その責任は重いと思う。・・・償いにはならないかもしれないが、お前がやりたいと思うならば全力で応援しよう。ただ、すべき事はしてもらうし、報告もしてもらう。それが条件だ。」


「十分です。今までの分まで取り返せるように頑張ります。」


「え、エラちゃんがこんなに良い子になってるなんて・・・お母様嬉しくて涙が・・・。」


少し罪悪感を感じるけど、これも見返すためだ。揺らいでいるようじゃ、1年で達成できない。


「ではわたくしは、お先に失礼します。また、1年後に。」


「しっかり励むように。」


「頑張ってね・・・グスッ。」


私は、控えていたライラを連れて自室へ戻った。





「いよいよですね・・・1年で、終わるでしょうか。」


「信じて頑張れば、きっと成功するはずよ。」


「信じて頑張れば・・・そうですね。」


「絶対痩せてあいつとかあいつとかあいつとか、見返してやるんだから!」


〜廊下の使用人達〜

『見返してやるんだから!』



「ねぇ、今お嬢様の声がしなかった?」


「したした。見返してやるってはっきり聞こえたわ。」


「もしかして元のお嬢様に戻ったとか。やだ、私今すぐ退職願出したいんだけど。」


叱られない程度に小走りで、1人の使用人がやって来た。


「おーい。」


「どうかしたの?」


「お嬢様付きから、発注願いが来たから届けに来たんだよ。」


「発注って何を?ドレスはこの前新調したはずじゃ・・・ってえ?」


「驚くよな。俺もしばらく放心状態だった。」


「何を注文したのよ。そんな反応されたら気になるじゃない。」




「「米俵()よ」」


ダイエット用具だった。

次話もお楽しみに。

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