表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/46

【第七話】楽しい厨房

こんにちは、はちみつレモンです!また遅くなってしまい、申し訳ないです...。

誤字脱字等ありましたらご報告お願い致します。

追記:7月25日に内容を編集しました

   11月27日に編集しました。

「ライラもそうだけど、私がダイエットを始めるのってそんなに不思議?」


「いや、何ていうか...以前までのお嬢様は、その、ご自分の体型を認識していなかったと言いますか...。」


「ああ、子豚だって認めていなかったわね。」


「あれ程頑なに受け入れなかったのに、すんなり言うのでちょっと驚いて...。」


「ああ、だからそんな反応なのね。」



自分のことを美しいと信じて疑わない...これこそ、本来の私なのよね。ゲーム本編での狂い具合は凄かったわ。てっきり破滅させるために誰かがエラに催眠でもかけたのかと思ってたけど。貴女は世界で一番美しーい、美しーい、みたいな。実際は周りがエラのことを恐れすぎて進言できなかったってことね。



「...やっぱり、私って怖がられてるの?」


「い、いや、そんなことは、」


「屋敷の八割以上は怖がってますよ、多分。」


「何で正直に言うんだよ!?」


「や、やっぱりそうなのね...。」


「自業自得ですね。」


「お前本当にお嬢様の専属侍女か!?」


「...ダイエット、頑張らないと。頑張ってそれなりに可愛くなって、愛嬌を手に入れれば、仲良くなれるはずよね。」


「ちょっと頑張る方向性が違うと思いますけど...そういうことなら、お手伝いしますよ。」


「本当?」


「お嬢様の食生活は、以前から気になってましたから。料理人としては、作った料理を健康的に美味しく食べてもらえればそれ以上の幸せは無いんでね。」


「それなら...お願いするわ。」


「勿論です。そうと決まれば、今から献立を、」


「ちょっと、落ち着いてください。」



ゴチン、という鈍い音がした。何処からか持ってきたお玉でライラが料理長を殴ったみたい。...取り敢えずすっごく痛そう。



「...も、もう少し加減してくれ。」


「話し合いが終わっていないのに、どこかの誰かが動こうとしていたので。それにフライパンじゃなくて良かったと思った方が良いですよ。」


「フライパンも視野に入れてたのかよ...!?」


「お嬢様、私はもう少しジャレッドと詳細を話す必要がありますので、待って頂けますか?屋敷内とはいえ、使用人を連れずに歩くのは危険ですから。」


「わ、分かったわ、料理長、頭お大事にね。」


「ジャレッドで良いですよ。」


「ジャ、ジャレッド、お大事に。」


「...へぇ、お嬢様って案外かわい...いたぁっ!」



...多分今度こそフライパンでしょうね。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。どうか安らかに眠ってください。



「その無駄口を縫い付けられる前に、さっさと終わらせますよ。お嬢様を待たせてるんです。」


「ひ、酷すぎる...お嬢様、これは酷いですよね、って、何故手を合わせてるんです?俺死んでませんよ?」


「ほら、行きますよ。」



二人は厨房の別の場所に移動して、真剣に話し始めてしまった。...さて私は、どうしよう。一人ぽつん、と取り残されてるわけだけど。仕事をしている人もいるし、無闇矢鱈に動くと邪魔になるかもしれない。仕方ないから、ぼーっとしていようかしら。



「...あの、もし良かったら料理、ご覧になりますか。」



なんと、心優しい料理人の方が厨房見学のお誘いをしてくれた。退屈そうにしていた私を見て、気を使ってくれたのだったら少し申し訳ない。けど、私からすれば願ったり叶ったりの申し出だわ。



「ええ、是非!」



それから私は、椅子を貰って座りながら、料理の過程をじっと見ていた。今日の夕食は...何だろう。琉那だった頃はまともに料理をしたことがないからなぁ...毎日レトルトだったりインスタントだったり...今思えば凄く不健康だわ。料理、ちゃんとやっておけば良かった。この世界では結婚する時に女の人は料理が出来た方が良いだろうし。



...それにしても、本当に美味しそうね。流石は公爵家のシェフ達...匂いだけでこんなにも美味しそうに作るなんて。あぁ、もしかして私が飢えてるだけかも。



「ぐぅぅ〜〜。」大きなお腹の音が鳴る。


(は、恥ずかしい。)


「...お嬢様、お腹が空いているんですか?」


「ちょ、ちょっとだけ...。」


「っはは、そうですか。ちょ、ちょっとだけなんですか。」


「もう、笑わないでよ。」


「では、ちょっとだけお腹が空いていらっしゃるお嬢様に味見役を頼みましょう。」



作った料理を少しずつお皿に盛り付けてくれた。



「いっ、良いの?」


「ええ、もちろん。これは、()()ですから。重要な役割ですよ。」


「ありがとう。」



美味しそうな料理に、私の頬が自然と緩む。



「頂きます。」



パクっとスプーンにかぶり付くと、あらまあ何ということでしょう。口いっぱいに広がる香ばしい香りと、まろやかな風味。...これが幸せってやつね。



(美味しすぎる〜!)


「ん〜〜!...ん?」



あまりの美味しさに感動していると、いつの間にか新しく盛り付けられた料理が置かれていた。さっき、こんなのあったかしら....でもまあ良いわ、美味しいものが食べられるなら!ともう一口パクリとかぶり付いているところに、またもう一品。...一体これはどういうこと?



「な、何でどんどんお皿が増えて...。」


「お嬢様、人気者ですね。」


「私は味見のスペシャリストじゃ無いわよ!?」


「いや、そういう事ではなく...。」


「お嬢様、これどうぞ!」


「っ、お前抜け駆けだぞ!お嬢様、こちらの方が絶対に美味しいですから。」


「世界一美味しいスープですよ!」


「嘘つくなよ!?」



何が何だか分からないけど、皆好意で私に分けてくれている。...嫌われているから、暫くは信頼回復からかな、なんて思っていたけど、これなら少しずつ仲良くなれそうだわ。酷いことをしたのに、こうやって受け入れてくれて感謝しなくちゃ。



「ありがとう、全部いただくわ!」


「どうぞどうぞ!」


「ん〜!おいひい...。」


(...確かにこれは太るのも納得だわ。)


「...お嬢様、なんかリスみたいだな。」


「正直、変わったっていう噂も信じてなかったし...悪人だと思いこんでたけど、大きな勘違いね。ただの可愛いリスじゃない、美味しそうに私達の料理を食べてくれるし。はぁ、何だか騙された気分だわ。」


「...可愛いよなぁ。」


「「「わかる〜。」」」


「ん、ご馳走様でした。」



夢中で食べていたら、あんなにあった料理が綺麗サッパリ無くなっていた。...これ、夕食入るかしら。



「ふぅ、美味しかった。」


「それは良かったですね。」


「満腹だわ、って...え?」


「こんなに沢山、食べられたようで。」



後ろを振り返ると、にっこり笑顔のライラと目が合う。目が、目が笑ってないのよ。



「あ、あの、これはね。そう、私じゃなくてその...誰かが食べたのよ。そう、瞬く間に目の前に置いてあった食べ物達が消えて...。」


「へぇ、それは興味深いですね。ということは、先程の私が見た光景は全て幻覚だったということですか?」


「多分そうよ。最近ちょっぴり、ほんの少し、いやほんのちょっとだけ、具合が悪そうだったもの。きっと疲れてるのよ。」


「ぶふぉっ。」



...吹き出さなくたって、良いじゃない?分かってるわよ、自分でも付け焼き刃な言い訳だって。でも、私の精一杯の真面目に考えた言い訳を笑わないで欲しいわ。



「...っ、ジャレッドさん、くっ、そんなに笑っちゃ...、」


「ふっ...そう、ですよっ、駄目ですって...げほっ、げほっ。」


「ちょっと、失礼だろ...っ、ふっ。」



皆まとめてミンチにしてやろうかしら。ちょーっと変な言い訳になったじゃない。人なら誰だって失敗するわよ。それに私は子ども...ではないけど子どもなんだから!もっとこう、温かい目で見守って欲しいわよね、広い心で。



「お嬢様、流石に無理があります。」


「...私もそう思うわ。」


「はぁ...良いですかお嬢様。」


「お嬢様は、屋敷の使用人達と仲良くなりたいんですよね。」


「そ、そうね。」


「それなのに、その仲良くしたい相手である私達の前で、信用したく無くなるような行動をするのはどうなんですか。」



痛いところを突かれた。私はダイエットを本気でやるから手伝って欲しいと頼んだのに、やっていることと言えば頼むだけ頼んで人に投げて、自分はぱくぱくご飯を食べていたと...駄目人間じゃない。屋敷の人達と仲良くなりたい、って簡単に言ったけど、実は凄く難しいことなんだわ。社会人を経験して、信用を得ることがどれだけ大変か身にしみて分かったはずなのに...もっと気を引き締めて生きていかないと。仲良くなると言ったのなら、ダイエットを頑張ると宣言したのなら、それ相応のことをしていくのが当たり前よね。



「ライラの言う通りだわ。...皆さん、ごめんなさい。」


「お嬢様、それも駄目です。そんな風に自分より下の者に軽々しく頭を下げてはいけません。」


「...ごめんなさ、」


「ほら、今も。」


「はいはい、ライラ、その変にしておけって。今日はこんなことをするために来たわけじゃないんだから。」


「...すみません、お嬢様。何だか気が立っているみたいです。頭、冷やしてきます。」


「え?ちょっと、」



バタン、という大きな音を立てて、扉は閉じられてしまった。最近ライラの様子がおかしいように思えるのは、やっぱり気の所為じゃないのかもしれない。話しかけても、ぼーっとして反応がなかったり、突然会話の中で苦しそうな表情になったり...勘違いだと思っていたのは、間違いだった。何か悩みがあるのかもしれない。



(...そう言えば、ライラは一度エラを暗殺しようとしたって。もしかして、それで悩んでいたり?)



どうしてこんなに大事なことを忘れていたんだろう。幸せな生活に現を抜かしすぎだわ。そうよ、ライラは一度エラ(わたし)を暗殺しようとして、失敗に終わっていた。ライラは悪役令嬢の侍女っていう微妙なポジションだったから、あまり詳しく書かれていなかったけど...そういうことなら、元気がないのも納得がいく。



「ど、どうしよう。」



私一人で解決できるような問題では無さそう。だって公爵家の娘の暗殺って、余程拗れた問題が無いと計画されないでしょう。私は公爵家の娘でも、世間では我儘子豚令嬢として知れ渡っている訳だし、誰かに害があるとすれば...ああ、そうか。そうよ、私は皇太子妃の有力候補だった。実際にあんなに酷い有様でも婚約出来ちゃったくらいなんだから、候補の中では一位二位を争うくらいの位置だったのね。...はぁ、やっぱり皇子に関わることで良いことなんて無いわね。



(幸せになるためには、皇子とは無縁でいないと...。)



「うーん、どうしたものかしらって、いたっ。」


「すみません、お嬢様。」


「もう、いきなり扉を開けるなんて、一体誰よ...。」


「失礼しました。執事のウォルトでございます。お怪我はありませんか?」


「そんなに強くぶつからなかったから、大丈夫よ。」


「左様ですか、それは良かったです。...しかしお嬢様、どうしてこちらに?」


「お嬢様は料理に興味がおありのようだから、見学に来たんだよ。」


「ほうほう、それはそれは...丁度良いですね。」



こういう意味深な笑顔のときの執事の話は、良いことがない。エラの体が、彼の笑顔に拒否反応を示してるから。それに私がお父様に呼び出された時も、執事が報告に来たし。



「丁度、私もお嬢様にお伝えしなければならないことがございまして。」



やっぱりー!!こういう悪い予感だけ当たるのは何でなの?執事がわざわざ来るってことは、きっと何か大きな事なんだわ。そして絶対にお父様関連の。この前良い感じで喧嘩も終わったんだから、暫く放っておいて欲しかったのに...落ち着く暇も与えてもらえないなんて。



「へ、へえ、そうなの。」


「そうなんですよ。実は旦那様が...」


(ほら!あああ、どうにかして止めないと...。)


「あ、あら私、急に腹痛が...。」


(まずは、油断させないと。そして...)


「大丈夫ですか、指示医を、」


(隙あり!)


「ごめんあそばせぇぇぇ!」



ダッシュ、ダッシュよ私!そう、心持ちはウサ◯ン・ボルトよ!もうこの際頭がおかしいとでも何とでも言われていいわ、逃げ切れれば何でも!



「...お嬢様、これは何かのお戯れでしょうか。」


「ひ、ひえ、なんで追いつくのよ!?」


「昔は馬走りのウォルトだなんて呼ばれてましたのでね...お恥ずかしながら。」


「にしたって、もう80くらいでしょう!?何でそんなに元気なの!?」


「...それは、秘密ですので。」



私が圧倒的に体力不足で子豚なのは分かるわ。でもどうして80近くのおじいちゃんが息も乱れずに追いつけるの?これは私がおかしいの?この世界では80歳でも余裕で走れるのが常識?



「はぁ、はぁ...分かった、聞くわよ...はぁ、聞けば、良いんでしょう。」


「ご賢明な判断です。...では然とお聞きください。”本日の晩餐は一緒に取るように”とのことです。」


「は、はい?」


「本日の晩餐はご一緒に、と。ちなみに拒否も体調不良も認めないそうです。先程の手は使えないと思っておいてください。では、私はこれで。」


「え、えぇ...?」





















「...本当、どうしようもないわ、私。」



(ライラ)は呟く。だって本当にどうしようもないのだ。あんな風にお嬢様やジャレッドに当たって。...二人が悪い訳じゃないのに。



「いっその事、解雇でもしてくれないかしらー...なんて。」



そうだったら、良いのに。小さく呟いた言葉は、静寂に溶けていく。

分かっている、お嬢様は私を一番信用していて、解雇されるなんてことはほぼ無いことは。少し前なら、あり得た話かもしれない。...お嬢様が突然変わったあの日より前までは。



(本当に、中身が誰かと入れ替わったみたいだった。)



普段と変わらない朝だった。少し変わったことと言えば、お嬢様の寝起きが悪かったことくらい。でもそれも、数日に一回の頻度であったから特に不思議に思わなかった。お嬢様が変わったことに気づいたのは、目が覚めてからのこと。文句も言わず、癇癪も起こさず...一体私が使えていた方は、こんな人だったかと、信じられなかった。性格も、考え方も、行動も、彼女の全てが違った。これ以上踏み込んではいけない、と直感が告げていた。



直感というのは、当たるもので。すっかりと変わったお嬢様に、私は絆されてしまった。いけないと分かっていたのに、近づかずにはいられなかった。危なっかしくて、そそっかしくて、可愛らしい。ほんの少し前までは憎しみに近い思いを抱いていたのに、私は絆されやすいのだろうか。ああ、こうなるくらいならもっと早く行動に移せば良かった。情ほど、殺すのにいらないものはない。



(...それでも、やらなきゃいけない。)



「...ごめんなさい。」



どうか、私を許してくれませんように。

面白い、続きが読みたい!と思ってくださった方はブクマボタンをポチッと...筆者が喜びます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ