【第五話】ライラの本音
こんにちは、はちみつレモンです。誤字脱字等ありましたら、ご報告お願い致します。
追記:7月25日修正しました。
10月14日修正しました。
「っ、はっ!」
がばっと、起き上がった私は、自然と首が繋がっているかを確かめる。
(私...どうして首なんて...悪夢でも、見たのね。)
ここ数日色々あったからかも、とこっちに来てからのことを思い出す。思い出すと言っても、まだ二日しか経っていないけど。...でも、怒涛の二日だった。異世界で憑依したことだけでも十分驚いたのに、憑依したのが悪役令嬢で、ギックリ腰になって、父親と喧嘩して。疲れが出たのかもしれない。それに、普通の悪役令嬢じゃなくて、処刑or国外追放の悪役令嬢だから余計に不安が大きかったのだと思う。
コンコン。
「お嬢様、起きてくださ...って、お目覚めでしたか。」
「何だか悪夢を見たみたいで...ネグリジェがびちょびちょになっちゃったから、着替えを持ってきてくれない?」
「...お嬢様、まさか、漏らしたんじゃ」
「違うわよ!寝汗よ!」
「はぁ、良かったです。公爵邸で騒ぎになるところでした。」
「貴女が広めなきゃ騒ぎならないわよ!」
「貴女じゃなくて、ライラです。」
「......分かったから、着替えを持ってきて。」
全く、侍女なのに主人に対して全く敬意が無いわ...一番不愉快なのはその敬意の無さがちゃんと調節されてるところよ。私が怒るギリギリを攻めてきて、そのラインは絶対に越さない。私は悪役令嬢顔のはずなのに、怖がられてないのよね。別に怖がってほしいとかじゃなくて、むしろ怖がらないでほしいけど、...ちょっと、癪と言うか...。
「お嬢様、持ってきましたよ。」
「え、ええ、ありが...ってちょっと待って。」
「何か...?」
「今すぐ川に捨ててきなさい。」
ライラが持ってきたドレスは、確かに可愛かった。フリルとリボンがふんだんに使われていて、いかにも女の子という感じ。...ただね、想像して欲しいの。悪役令嬢顔の私がこれを着たらどうなると思う?想像しただけで、馬子にも衣装過ぎる。ドレスが可哀想だわ。せめてダイエットしてからじゃないと、こんな服恥ずかしくて着れない。
「ええっ、”このドレスを着れば、殿下なんてイチコロよ”って仰ってたじゃないですか。」
「それを言わないで...地中に埋もれたくなるから...。」
思い出すだけで吐き気がする。いくら幼いとはいえ、あんな言動、おかしいじゃない。こんなマシュマロボディに悪役顔でよく言えたものだわ...しょうがないか、自分が世界一可愛いだなんて最大の勘違いをしてたから。
でもね、一つだけ言わせてほしいの。これは環境のせいでもあるのよ。侍女たちは、ご存知の通り私に恐れをなしていて...いつ殺されるかってビクビクしてたから...注意おろか否定もしなかったわけ。ああ、ライラはね、例外。あの侍女は面白いから放っておこうっていう魂胆だから。私には分かる、あれは絶対に面白がっていたわ。
「...いつか倍返ししてやるわ。」
「何だか、お嬢様が戻ってきたみたいです。」
「へ?」
「ここ数日、お嬢様はまるで誰かが中に入っているみたいに別人でしたから。癇癪も起こしませんし、使用人を傷つけませんし...皆、天使様が中に入り込んだんじゃないかって噂してるんですよ。」
「は、はは、そんな、ベベベ別人なわけ、無いじゃない。」
「そうですよね、倍返ししてやる、なんて天使様は言いませんし。...少し、安心しました。」
どう返せば良いのか、わからない。前の私、つまり私が憑依する前のエラの面影を感じて、安心したという人に、どんな言葉をかければ良いんだろう。だって私はエラじゃないから。
「この仕事を受け持った時、正直どうしようと思っていたんです。元いたメイド達が耐えきれなくて沢山辞めていったと聞いておりましたので。でもお世話をしていく中で、だんだんとお嬢様のことが分かってきて。癇癪を起こして私に当たる時は、誰よりもお嬢様が一番辛そうなのを見て、私がお支えしなければと思ったんです。それが突然別人のように変わって、驚くほどいい子になってしまわれたので、何というか、少し...寂しさを感じてしまって。」
「何だか今日は、やけに素直なのね。」
「うーん、お嬢様と同じ、気まぐれですかね。」
私の中にライラと過ごした記憶はあるのに、それを経験したのは私じゃない。ライラが共に過ごしてきたのは、仕えようと思ったのは、エラだ。そして彼女を消してしまったのは、私。...ここへ来て唯一、信頼できる人だったけど。私が彼女を殺したも同然だと知ったら、嫌われちゃうかな。
「...良い子な私は、嫌?」それは、ぽつりと溢れた言葉だった。
「いいえ?どんなお嬢様でも、私がお支えしたいと思ったお嬢様ですから。意地でも粗を探してやりますよ。」
「...ぷっ、何それ。私、ずっと粗探しされるの?」
「そうですよ、だから安心してください。どんなお嬢様でも、私はずっと付いていきます。」
その言葉に私は泣きたくなった。中身が違う私を、肯定してくれているようで。...でも、どうしてだろう。ライラは笑っているのに、今にも泣き出しそう。まるで、何かが迫っているような、そんな表情...。
「さっ、お嬢様、朝食にしましょう。」
「え、ええ。」
(気の所為、かな。)
「私、厨房から料理を持ってきます。」
「あっ、なら私も運動がてら行くわ!」
「お嬢様、腰、腰が...!」
ビキッ...とまた嫌な音がした。数日前と同じように、顔面から床に叩きつけられる。
(この贅肉のせいで...絶対、消し去ってやるんだか、ら。)
ということでぎっくり腰を悪化させてしまった私は、2週間安静にすることを余儀なくされたとさ。おしまい...ではなく、だいぶこってり絞られた。ライラが鬼のような形相で「二度と動けないようにベットに括り付けてあげます」だなんて、仁王立ちで説教をしてくるものだから...数日ぶりに来てくれたお医者様は笑いながら処置をしてくれたけど、2週間屍生活が決定した。
冗談だと構えていた私だったけど、思っていたよりも侍女が心配してくれていたようで、本当に物理的に動けないようにされた。歩こうとすると『お嬢様!何処かに行きたいのでしたら、私が抱えてお連れいたします。』
持ってきてくれたご飯を食べようとすると、
『すみませんお嬢様、私の配慮が欠けていました。今お食事を口に運びます。』
『あの、別に手は怪我してな』
『私が、運ばせて、いただきます。』
『え、ええ、そうね。そうしましょう。』
終いには、
『お嬢様、どうして瞼を開いていらっしゃるのですか。私が閉じて差し上げます。』
『それはもうふざけているわよね?』
『...余りにもお嬢様の表情が面白...い訳ではなく、心配なのです。』
『死ぬのと死ぬの、どちらが良い?選ばせてあげるわ。』
『どっちにしろ私は死ぬんですね。』
というように、過保護(最後の方はふざけていたけど)になってしまったというわけ。私は心の中で、これからは絶対に怪我したりしないと誓った。...もちろんフラグではないわよ。
こうしてギックリ腰が完治した私は、ある計画の手伝いをライラに頼もうとしていた。
「ライラ、お願いがあるのだけど。」
「はい、何なりとお申し付け下さい。...暗殺ですか?」
「違うわ。」
「...なら美男の釣書集めですか?」
「それも違うわ。」
「...なら、」
「違うわ。」
「まだ何も言ってませんけど。」
「私が頼みたいのは、ダイエットの手伝いよ。暗殺でも美男の釣書でもないわ。」
「ダイエットですか、そうですか...ってお嬢様、本気でダイエットを!?」
「な、何、別に良いじゃない。」
ギックリ腰を悪化させた日の夜、私は決意した。絶対にダイエットを成功させて、そこら中を駆け回れるくらいになってやると。それにずっとこの体型のままじゃ、馬鹿にされ続けるからね。公爵令嬢だから、面と向かって喧嘩をふっかけてくるお馬鹿さんはいなかったけど、裏でコソコソと本人に聞こえるように囁かれる悪口に、エラはじわじわと苦しんでいたらしいから...でも、彼女も良くなかった。意外とチキって逃げ続けていたから。
「わたくしね、皆を見返したいの。」
「見返す...そうです、そうですよ。今まで陰口を叩いていた人たち全員を、見返してやりましょう。ああ、なんだか私、燃えてきました。」
「協力してくれる?」
「ええ、ええ。もちろんです!」
「それは話が早くて助かるわ...それで聞きたいんだけど、ダイエットって何から始めれば良いのかしら。」
私は、軽く聞いただけだった。琉那時代の経験から、何から手をつければ良いのか何となく分かってはいたものの、ちゃんとしたやり方を知らなかったのでここでのダイエット方法を聞き出したかっただけ。でもライラには私がダイエット初心者に見えているようで、1から100までじっくり教えられそうな勢いで話し始める。
「最初にやるのは、食生活の見直しです。今までのように暴飲暴食するのをやめて、三食決まった時間に、少なめの量をよく噛んで食べます。お菓子も一週間に一度だけなど、制限をつけると良いと思います。その辺りの調整は、私がしますね。それから、」
「あ、ああ!それなら料理長に相談しなくちゃね。」
「そうですね、それが一番手っ取り早いと思います。...が。」
「が?」
「お嬢様...お嬢様と料理長は仲が悪いと記憶していますが...。」
そうだった。...私と料理長は、超がつくほど仲が悪いのだった。私が食べ物を粗末にしてばかりで、態度も悪いからめちゃくちゃ嫌われてしまっている。...自分から、嫌われている人に関わりに行くのは、ちょっと辛いわね...。
(...でも私は、見返したいのよ。)そう、絶対に諦められない。
「だからこそ、面と向かって謝罪がしたいの。」
この関門をくぐり抜けなければ、企画倒れで。追放or死刑のバッドエンドを迎えないためにも、使用人たちとはある程度の信頼関係を結んでおく必要がある。自分が思う最善の選択をするのよ。決められたレールの上を歩くなんて、まっぴらごめん。私は死ぬのも追放も嫌、優しい人と結婚して平凡でも幸せな生活を送るんだから!
「お嬢様...成長されましたね。」
「ほら、厨房へ行くのよ。」
「賄賂でも持っていきますか?」
「成長した主人に悪の道を進めないでちょうだい。」
シリアス多くて申し訳ないです...。
次話は、ダイエット作戦が始まる予定です。次話もお楽しみに!