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【第三十二話】シーア第一王女視点:幸せ

こんにちは、はちみつレモンです。訳合って再投稿いたしました。誤字脱字等ありましたら、ご報告お願いします。

追記:8月28日、編集しました

「・・・もう朝なのね。」


昨日一日は、何をしていても集中できなかった。いつでもどこでも頭の隅には陛下のことがよぎる。朝は花の水やりをしていて転びそうになったし、いつもは完璧に作れる料理も、今日は焦がしてしまった。


・・・ただ、陛下に会いに行くだけなのに。


(そうよ、ただ陛下に会いに行くだけじゃない。何も気にすることなんてないわ。)


自分でも分かっている。こんなのは強がっているだけだって。でも、仮面を被らないと私は、生きていけないから。弱くてちっぽけで、何もできない自分が見えてしまうから。





陛下から遠ざけられてから、私は自分の甘さを痛感した。


洗濯も掃除も、料理も。私はお母様がいなきゃ、何も出来なかった。元々お母様に対して悪印象を持っていた侍女たちは、お母様が亡くなった途端にほとんどどこかへ行ってしまった。残っている数人も何処にいるのか分からない。


それでも、私は諦めなかった。


だってお母様は、どれだけ辛くても、笑っていたから。私も同じように頑張れるはずだから。


毎日同じことを繰り返していくうちに、いろんなことが上達してきた。お母様も侍女もいなくなってしまったけど、私はそれが嬉しかった。


「だいぶ上達してきたわ・・・褒めてもらえるかしら。」


ふと口から出たその言葉。私に真実を突きつけるには、十分すぎる言葉だった。


「あは・・・褒めてもらえるって、誰に?」


料理も洗濯も掃除も、出来るようになった。褒めてもらいたかった。


でも、お母様も、お父様もいない。


侍女も消えていってしまった。


じゃあ私は、誰に褒めてもらえるの?





・・・あぁ、そっか。私には誰もいないのね。


気づいたときは辛かったし、泣いてばかりいた。泣いて泣いて泣いて、途方もなく泣いて、また気づいた。泣いたところで何も変わらない・・・泣いているのだって誰も気づいてくれない。誰かが気づいてくれるんじゃないかって期待して、暴れたりしてみた。でもそれはただの願望で終わって、誰もが私をおかしな皇女だと嘲笑った。


お父様も、もう私を見てはくれない。


おかしな仮面はいつしか私を守るものに変わっていた。仮面を被っていれば、誰も近づいてこない、私の心を乱さない、私の心を傷つけない。


そんなときに、エラが現れた。


初めは皆と同じだと思っていた。皆と同じように私に失望して、離れていく。だから突き放したのに、あの子は私の側にいてくれた。


こんなこと初めてで、どうしたらいいか分からなかった。でも、胸のあたりがすごく暖かくて、お母様と過ごしていた懐かしい感覚を思い出した。


この気持ちは、何て言うんだっけ。



辛い?悲しい?苦しい?ううん、そんなに嫌なものじゃない。もっと良いもので、暖かくて、幸せになる気持ち。





・・・そうだ、幸せだ。


私はエラのおかげで錆びついた幸せの感覚を思い出せた。それからの毎日は少しずつ色づいて、明るかった。エラの話を聞いていると、何処か自分と似ていて、自分と重ねてしまう。


エラはお父様が面倒だなんて言っているけれど、そんなことはないことを知っている。お父様のことを話すときは、優しい笑顔をしているもの。彼女が愛されていることは、話の節々から分かった。だから私は・・・私も愛されている感覚になっていた。


でもそんなのは錯覚に過ぎなくて、現実はいつも私を苦しめる。エラが帰ったあとの宮は静まり返っていて、人の温かさを感じさせない。どうしようもなく、私は1人なのだと実感させられる。


(私も、誰かに愛されたい。)


封じていたはずの気持ちまで、溢れてしまった。


エラはそんな私の願いを叶えてくれた。私の性格を知ってか、愛情表現を全身でしてくれる。それが嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。そんなエラは、私の境遇を聞いて、お父様に直訴しに行こうと言ってきた。心配してくれて、嬉しくなったと同時に、お父様のことを思い出して苦い気持ちになった。




世界一嫌いな、お父様。そして私が世界一愛してほしかった、お父様。お母様が生きているときは、あんな人じゃなかった。


『ああ、なんて可愛らしいんだろう。シーア、グレッタ。お前達は私の宝だよ。』


『もう、アーサー様ったら。お上手ですこと!・・・私も愛しておりますわ。』


永遠に続くと思っていた幸せの時間。


『グレッタ、今後は本宮に近寄らないでくれ。』


『畏まりました、アーサーさ・・・陛下。』


歯車が噛み合わなくなってしまった。


『お、お父様・・・私は、どうすれば、』


『あぁ、シーアか。お前は別宮に残ると良い。』


『でっ、でも、』


『私は忙しい、また今度にしてくれ。』


全てが変わってしまった。








【悔しいと思わないの?】



「最初は恨んでいたわ。」



そんなの嘘よ、ずっと恨んでいるわ。



【何故何も言わないのですか!】



「どうしようもないじゃない?」



今だって、どうにかしたいに決まってるじゃない。



「諦めるしか、方法がなかったのよ。」



・・・私は、逃げてばかりね。








大好きなエラは、私のことを友達、って呼んでくれた。私はあなたに何を返せるかしら。色んなものをもらいすぎて、どう返したら良いかわからないわ。


そんなあなたは私に、お父様と話すことを望んでる。それなら、行くしかないじゃない。


ごめんなさい。独りよがりの私は、こう思っておくことでしか、戦う勇気が持てないの。これが終わったら、例えどんな結果でも、エラのところへ走って飛び込むわ。王女らしくないって言われても、気にする人なんてあなたくらいしかいないから大丈夫よ。・・・ねぇ、だから、全部終わったら、いつもみたいに私の名前を呼んでね。


震える一歩を踏み出す。後ろには、エラがいる。頑張って、そんな声が聞こえた気がした。


(ありがとう・・・私、頑張るから。)








「・・・失礼します、頼まれていた書類をお持ちいたしました。」

次話もお楽しみに。

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