【第十話】わたくしの、カモミールティー
こんにちは、はちみつレモンです。不定期投稿なので間隔はあまりあけないようにしたいこの頃です...。
誤字脱字等ありましたらご報告お願いします。
追記:7月27日、編集しました。
ぐぅぅぅぅぅうぎゅるるるるるる・・・・。大きなお腹の音が室内に響き渡った。
「お、お腹空いた・・・。」
「お嬢様、見返すためです。ここで諦めるのは早すぎます。」
ダイエットを始めて一週間。家族に引きこもります宣言をしてから間食をやめて、適量の食事を取り、生活リズムも整えていった。最初は絶対に痩せてやる!と、それはもうやる気に満ち溢れていた。
・・・しかし、開始から一週間でもう限界が訪れている。
「し、死んじゃうわ・・・。ご飯が食べたい・・・でもざまぁもしたいのよね・・・。」
「ざまぁ、ですか?・・・よく分かりませんが、お嬢様の決心はそこまで弱いものだったのですか?このままでは、また馬鹿にされてしまいますよ!『性格のひん曲がった極悪豚令嬢』と!良いのですか!」
「ちょっと待って、「性格のひん曲がった極悪豚令嬢」?わたくしが言われてたのは「ワガママ豚令嬢」だけど?性格のひん曲がったとか極悪とか言われたことないけれど?」
「何をおっしゃってるのか理解に苦しみます!」
「逃げたわね卑怯者!」
・・・私のこと「性格のひん曲がった極悪豚令嬢」って思ってたのか。
まぁでも正直で良いとは思っている。結局1番怖いのは、腹の内がわからない人なのだ。第一王子とか第一王子とか第一王子とか。
あのいつも浮かべている造られた笑顔が恐ろしい。正直なところお茶会なんてどうでもいいし、婚約者に選ばれたいとも思わない。でも行かないと公爵家に迷惑をかけてしまう。それは私の本望ではない。
意外と私、偉い子なんだよね。・・・エラだけに・・・ふっ。
「空腹で思考が埋まってしまうなら、他のことをして気分を紛らわせたらどうでしょうか?例えばもっと痩せたいなら筋肉のトレーニングとか・・・もちろん勉強も手段の一つですよ?」
「どさくさに紛れて勉強を勧めてきているの、分かってるわよ。」
じっとりとライラを見た。
(でも確かに、勉強は必要かも・・・。)
1年後にはお茶会を控えている。私の目的は馬鹿にしてきた人たちへのざまあだけど、このままお茶会に出て大丈夫なのかという不安はある。
私が背負う”公爵令嬢”という肩書きを汚さないためにも、高いレベルのマナーや教養は必要かもしれない。・・・辛いとか、泣き言を言っている場合じゃなかった。それに、勉強も出来ていたほうがよりざまあが出来るかもしれないし。
「勉強は必要だと思いますよ。お嬢様のためにも。」
「そう、ね。珍しく良いこと言うじゃない。・・・わたくしのスケジュールに講義の予定を入れて。今までの分までしっかり取り返すわ。」
「珍しく、とは心外ですが・・・お嬢様のためです、今から急いで予定を組んできます!」
ライラが早速部屋を出ていった。スケジュールの確認と講師の確保に向かったようだ。
「婚約者候補たちとのお茶会まであと1年・・・きっと王子本人も当然見に来るわよね。・・・公爵家の品位を落とさずに、目立たないよう過ごさなくちゃ。」
最初は王子と出会わないことを目標にしていたけど、やっぱりそれは無理だった。なら、端の方で目立たないようにすることが、最善だ。どうせ後々運命のヒロインに出会うし、わたくしと王子の婚約はなくてもあっても変わらないから。
王子と私の間の婚約が結ばれた理由はたった一つ。第一王子派と第二王子派の派閥同士の争いを起こさないようにすること。この家、エヴァンズ公爵家はいわゆる中立の立場だ。”公爵”という高位の貴族でありながら、中立を保っているのはおそらくこの家だけ。
第一王子派の家の娘を娶れば力は確かに増す。しかし力は増し過ぎてはいけない。圧倒的な力の差があることを、他国に知られれば凶器になり得る。
もしどちらかの派閥に他国が協力を申し出た場合、他国との戦争になる可能性がある。そのため、下手に力を持ちすぎることも、持たなすぎることもできない。
そこで都合が良いのが中立派だ。中立派はどちらにも属さない、つまりどちらへの影響も与えない。だからエラがどれだけ性格が悪くとも、醜くとも婚約者になったわけだ。
王族の婚約者、それはとても名誉あることで外聞も良い。でも実際は政治的なしがらみを解消するための駒、人形でしかない。
使えないと判断されたら即切り捨てられる。もしそのまま王妃、もしくは王子妃になれたとする。その後待っているのは大抵、愛し、愛されない人生。駒として割り当てられた王妃が完成し、最悪子を産むだけの道具になってしまう。
「わたくしは、わたくしを愛してくれる人と結婚したい。地位や名誉、沢山のお金・・・。確かにそれは魅力的なものね。でも最後に残るのはきっと、孤独だわ。」
地球にいた頃の私の親は、私を捨てた。残ったのは置いていった少しのお金。
生きていくためにがむしゃらに働いて、お金を稼いで。ある程度地位もあった。十分すぎるくらい幸せになるはずだった。でも・・・孤独感だけは拭えなかった。
だからこの世界では、愛する人と人生を共にしたい。孤独を感じる日々をもう過ごすのはごめんだ。王子に嫁ぐなんて、一番ありえない。
「お嬢様!スケジュール組めましたよ・・・って、泣いているんですか?」
「っ別に、泣いてなんかいないわ。」
「もう、強がりですねぇ・・・。」
そう言いながら、ライラは優しい笑顔で頭をなでてくれた。
寂しかった。孤独感を拭いきれなかったあの世界にも、友達も、上司も、後輩だっていた。もちろん元彼みたいに悪い人たちだっていたけど、私は一人だなんてことはなかった。この世界に来てからも、度々思い出す。
知らない世界で、帰りたいと思うことは何度もあった。でも、この少しふざけた侍女が側にいてくれたから、安心できた。
「・・・ライラ、いつもありがとう。」
「お嬢様が感謝するなんて、珍しいですね・・・そうです、私はいつもお嬢様のために頑張ってるんです。もっと褒めてくれても良いですよ。」
生意気で、可愛くて、優しい私の侍女。なんだかんだ言って、私はこの侍女のことが大好きなのだ。
「わーすごいすごいライラ。尊敬しちゃうー。」
「せっかくお嬢様のためにカモミールティーを入れたのに、必要なさそうですね。」
「ライラ、物を使うのは卑怯だと思うの。」
「お嬢様はいらないみたいですね?」
「ライラ、あなたは本当にすごいわ。毎日真面目に働いているし、やさ・・・」
ガチャッ。
「お嬢?少し時間あるか?・・・ってライラ、これは俺にか?優しいな、じゃあ遠慮なく頂くよ。」
「ちょ、それわたくしの・・・」
一口で飲みきった。の、喉が乾いていたのかな?
「え?これお嬢のだったのか?目の前にあったから、てっきり俺のなのかと・・・てへっ。」
いくらイケメンでも、ガタイの良いイケメンのてへっは痛いのか、また1つ学んだ・・・じゃなくて。
「てへっ、じゃないわよ!私の大事なカモミールティーだったのに・・・。」
「ふっ・・・ふふふ・・・。」
「ライラ、今は笑うところじゃないわ。大事なカモミールティーを奪い取られたのよ、悪党に。」
何が面白いのか50字以内で言いなさいよ。言えたら許してあげるから。
「い・・・いえ・・・っまさか・・・奪い取られるとは・・・ふふ、思わなくて・・・。」
「おっと急用を思い出した!お嬢も忙しそうだし、俺帰るな!」
親指をぐっと立てて、私から出ている殺気から逃げるように、料理長が退出していった。
隣から、ぶふっ、あは、あはは、あっっはっっはははは・・・!と爆笑してる声が聞こえるけど、気にしない。
ふん、私を怒らせたことを、後悔させてやるわ。
不貞腐れている私を見つめるライラの瞳の中に湧き出る感情に、私は気づくことは出来なかった。
「お嬢様・・・私のことなんか、褒めなくて良いんですよ。私は・・・ために、ここに来たんですから。」
夜の中に咲くゲッケイジュの花が散る中、彼女は別館へと戻って行った。
次話もお楽しみに。