【第一話】グッバイ、私の人生
こんにちは、はちみつレモンです。初投稿ですので、何卒...何卒温かい目で見ていただけるとありがたいです...!
誤字脱字等ありましたら、ご報告お願いします。
追記:7月21日、編集しました。
10月9日、編集しました。
今日はとても気分が良い。25年生きてきた中で一番気分が良いかもしれない。なぜかって?それは...
「やっと、採用された!」
「わぁ、おめでとうー。」パチパチパチパチ。
ちょっと。友人の新しい人生の門出だって言うのに適当すぎじゃない?...まぁそれは置いておきまして。
私は神坂瑠那、乙女ゲームを愛する25歳独身。数日前、約3年間付き合っていた彼氏の浮気が発覚。正直もうすぐ結婚かなと思っていた矢先の出来事だった。
その日残業で疲れて家に帰ると、何という事でしょう。彼氏が知らない女性と抱き合っているではありませんか。というように冷静だったわけではなく。もちろん私は怒りゲージの上限突破をして、思わずストレートを食らわせてしまったわけなんだけど...。
なのにどうして数日後...つまり今日ここまで気分が回復したのかと言いますと。私は高校時代からファッションについて興味があって、それに関係する仕事につくために頑張ってきて。でも結果は、見事に惨敗。
諦めて受かった仕事に就いて、それなりに幸せに過ごしていた。
お金もそこそこあって、友達もいて、仕事もやり甲斐がある。何も不満なんてない...はずだった。私はどうしても夢を諦められなかった。だから何回も就職試験を受けて、どうにか夢を掴もうと足掻いていた。しかし人生とは残酷なもので、来るのは不合格の通知だけ。
『誠に残念ではございますが、今回はご希望に沿いかねる結果となりました。つきましては...』という文章を何回見たことか。
それでも諦めきれなくて、何回落とされてもダルマのように立ち上がること十数回目。ついに...ついに今日採用の通知が来た。
「やっと...本当にやっとだわ...。」あまりの嬉しさに、涙が出そうになる。
「数日前に浮気されてたのがわかって、『グッバイ私の幸せな人生。グッバイ私の貢いだお金...』とか言って泣いてたのにねぇ。」
「私のこと本当に祝うつもりあるの?」
(まぁ確かに、最低男だったのは間違いないけど。)
何を隠そう、私の元彼はとんだクズ野郎だった。付き合って1年経った辺りから、私からお金を巻き上げて他の人へのプレゼントに使っていたのだ。その口実も最低で、一番最初は・・・確か「祖母の体調が良くないから、医療費を借りたい」だった。数え切れないほど口実があった中でも酷かったのは、「日本を救うために、お金を借りたい」だと思う。
誰だって分かる、分かりやすすぎる嘘。なのに私は、最初こそ嘘だと勘ぐったものの、何故か言いくるめられて納得し、お金を出してしまった。このことを友人に言ったら、
『っ何よ、日本を救うためって!あははは、傑作、傑作よ、琉那!あんたは恋に盲目すぎるって分かってたけどまさかここまでだなんて、笑いすぎてお腹がよじれそうだわ!』
というように、物凄く笑われた。私も今になって思う、日本を救うためだなんて、絶対嘘に決まってるって。
そんな最低な彼氏は最後、浮気がバレてこう私に言い放った。『お前が不細工で愛想もないからこうなったんだよ!』と。
誰が不細工で愛想もないお花畑女よ、って言い返してやりたかった。溜まっていた思いを全部吐き出して、スッキリしたかった。でも何故か言葉が上手く出てこなくて、どうにかして屈辱を晴らそうとストレートをお見舞いしたってわけ。
結果的に芋づる式に無くなっていくはずだったお金は手元に残って、夢を叶える一歩を踏み出せたから、結果オーライだと今では思っているけどね。
「言っておくけど、本人以外で私が一番喜んでるんだから。...って聞いてないし。って、駄目よここで寝ちゃ。時間も時間なんだから。」
時計を見ると、もう日付が変わりそうになっている。
「そろそろ帰り時ね。私、明日旦那と出掛けるのよ。あんたも休日ゆっくり休むんでしょ?」
(旦那、か。)
数日前に浮気された私が思うことじゃないけれど、少しだけ彼女が羨ましい。夫になるってことは、家族になる、ってことじゃない。私には家族がいないから...どんなものなのか知りたかった。
「良いわね、旦那がいて、幸せそうで。」帰りの支度をしながら私は思わず本音をこぼしてしまった。
「まぁ、幸せかって言われたら幸せね。...瑠那は乙女ゲームは上手じゃない。」友人は、にかっと悪い笑みを浮かべる。
「"は"って今強調したわね。悪かったわね、25にもなって乙女ゲームが大好きなOLで。」
「まーた始まったわね、琉那の自爆。」
「も" うや" だぁ"ぁぁ...。」
「んもう、めんどくさいわねぇ...ほら、帰るわよ。」
そう言って私の肩を持ってくれるので、流石姉御肌、なんて冗談を言ったら、尋常じゃない強さで腕を捻り上げられた。じゃれ合っているとかそういうレベルではない。野生動物と対等に戦えそうなくらいの強さだ。だてに6年間柔道部をやっていたわけじゃなかったと身にしみて感じた。
あいたた、と立ち上がった時、友人のスマホから着信音が鳴った。
「あ、旦那から電話だわ。ちょっと待っててもらえる?」
「私のことは良いから、早く出てあげて。」
「ありがとう...はい、私よ。ええ...え、いいの?...わかったわ。じゃああとでね。」
電話を終えた彼女は、何だか申し訳無さそうな顔をこちらに向けた。
「どうしたの?」
「ごめん瑠那、旦那が迎えに来てくれるって。」
「ああ、そういうこと?大丈夫よ、私一人で帰れるから。」
流石の私も、友人夫婦の邪魔をするなんて無粋なことはしない。送っていこうか?と気を利かせてくれたけど、二人は結婚ほやほやで今が一番いい時期だろうし、気が引けるので丁重に断る。
「帰り道はしっかり足元を見るのよ、あんた危なっかしいんだから。」
「はいはい、お母さん...ってあだだだ!」
「折られたいの?」
「ごめんごめん、冗談よ...じゃあ旦那さんが来る前に私、帰るわね。」
「ほんっとーうに気をつけてよ。」
「分かってるわよ、赤ちゃんじゃないんだから!」
それから私はてくてくと歩いて、丁度到着した電車に走ってギリギリで乗り、自宅の最寄駅まで最近買った異世界恋愛ものの小説を読んだ。到着してから駅前でお祝いに小さいケーキを買って、明日の休みは乙女ゲームでもやろうかなぁ、なんて考えていた矢先のこと。
『助、けて...。』ふと、耳に入ってくる声。
「...誰?」
何だか聞いたことのある声のような気がして、思わず後ろを振り返る。
(......なんだ、誰もいないじゃない。確かに女性の声だった気がするんだけど。)
さっさと家に帰って乙女ゲームの続きでもしよう、と踵を返そうとした時、ふと一匹の猫が佇んでいる姿が目に入る。
「にゃあ」
とても綺麗な猫だ。赤と黄色のオッドアイに、艶のある黒い毛並み。まるで太陽と月のような瞳の色合いに、私は思わず釘付けになる。
「あなた...綺麗ねぇ。」
「にゃあ?」
「ふふふ。」
何とも言えない気の抜けた返事をする猫に、私は思わず笑ってしまった。猫はそんな私を置いて、反対側の歩道に向かって歩き出す。さあ、私も今度こそ帰ろうと、立ち上がる。
『助けて...お願い。』
ああ、私はどうやらお酒が回りすぎたらしい。誰もいないはずなのに、さっきから幻聴が聞こえる。いるのなんて、私と猫と、向かってきているトラックくらい...。
(...待って、トラック?)
嫌な予感がする。残念ながら、嫌な予感ほど的中してしまうのだ。トラックの進行方向には、道路の真ん中で立ち止まる猫がいる。
私は思わず走り出した。手に持っていたお祝い用のケーキも、カバンも全て放り投げて。
(っ、どうしてこんな良い日の終わりに、悪いことが起きるのよ!)
不思議だった。あの猫のことなんて知らなければ、大事に思っているわけでもない。おまけに酔いが回っている。自分の命の危険を侵してでも何かを助けようとするなんて、私らしくない。私は物語の心優しく、正義感の強いヒロインなんかじゃない。...それでも何故か、私はこの日、この時、この瞬間。心からあの猫を助けなければいけないと思った。
「猫ちゃん!危ない!」
猫の背中を掴んで、歩道側に思いっきり投げ飛ばす。そして私は、大きなブレーキ音と共に...宙に舞った。
(あれ、世界が逆さまだわ。)
瞬間、体が地面に打ち付けられる。あまりの衝撃に、痛みは感じない。感じるのは、血が抜けていく感覚。
「あ、れ...?」
「だ、大丈夫ですか!」
ぼんやりとしている視界に映ったのは、男の人と、大量の血液。これが自分のものであると理解するのに時間はかからなかった。
「しっかりしてください!今、救急車を...で..。」
『お願...死な...でくれ...。』
男の人の声が、二つ。二人共、私に向かって何かを叫んでいる。トラックの運転手と、もう一人いるのだろうか。ああでも、そんなことは今どうでも良い。
ぼんやりしていく意識の中、一つだけ分かったことがあった。
(あぁ、私...死んじゃうのね。)
思えば、何気に頑張った人生だった。両親はいなくても、孤児院で虐められたって、必死に生きて。行きたい大学に合格して、大事な友だちも出来た。...おまけに、最低だったけれど彼氏も出来て、ついには行きたかった会社に合格した。
(走馬灯って、本当にあるのね...。)
『...て...。』
また、同じ声。
『...って、伝えて...。』
瞬間、真っ暗な視界が切り替わる。
開かれた視界に映ったのは、不思議な人達。森の中で、誰もが泣いている。中心にいるのは、二人の男女だ。
『お願いだ...何処にも行かないでくれ...。』
よく見ると、女の子の方は重症だ。こんな森の奥では、近くに医者がいるとは思えない。酷い怪我だ。専門家でもない私でも分かる。この子は多分もう、生きられない。そして彼女を抱きしめている男の子は...彼女のことをとても愛している。
『だ...いじょ、ぶ、だか...ら...泣か..ない、で。』
傷を負った少女は、それでも気丈に微笑む。その笑顔がどうしようもなく儚げで、苦しそうで。誰がどう見ても大丈夫じゃないのに、苦しいはずなのに、どうしてそんな風に笑えるのだろう。
『僕を...許さないでくれ。』
『...あなた、の...せいじゃ...い...わ。』
『っ、いいやこれは全て、僕のせいだ...どうしようもなく、僕が君をっ...愛して、しまったから...心から...愛しているんだ。』
震えながら紡がれる彼の愛の言葉に、私まで胸が締め付けられる。
少女は最後の力を振り絞り、口を開ける。...しかし彼に応える言葉が紡がれることは、無い。握られている手は力を無くし、だらりと落ちる。周りにいる誰もが、膝から崩れ落ちた。
『っああ...嘘、だ...嘘だと、そう、言ってくれ...いつものように、笑ってくれ....エラ。』
絶望の色に染まった顔を上げた少年を見て、ドクンっと心臓が波を打つ。
(私は、この人を知っている?)
...何か大事なことを忘れている気がする。わからない、私は何を忘れているの?絶対に忘れてはいけない、そう誓った何かが、確かにあった。
ふと、少年はこちらを見た。そして視線が、交差する。私を射抜く、強い瞳。
(そうだ、彼は...こんな瞳をしていたっけ。)
少年は、驚愕で目を見開く。途端、私は急激に吐き気と目眩に襲われる。...霞む視界に、彼が何かを叫んでいるのが見える。エ、ラ?...それは、彼が抱えている少女の名前だった。
それからどれくらい経っただろう。気がつくと私は、知らない空間に居た。
「ここ、は...死者の世界、かしら。」
『ふふふ、残念。』
現れたのは、さっきの少女だった。しかしその顔は、見えない。
「あなた...死んだはずじゃ。」
『...ねぇ、知ってるかしら。世界はね、ずっと、同じように回っているの。』
「...?何を言って、」
『あなたは確かにあなただけれど...あなたではないあなたもいるのよ。』
「どういうこと?」
『つまりね、あなたはわたくしで、わたくしはあなたなの。ふふふ、おかしいでしょう?』
彼女の言っていることが、全く理解できない。世界は同じように回っていて、私は確かに私で、私ではない私がいる?それに、私は彼女で、彼女は私?
『いずれ、全てわかるはずよ。...わたくしから伝えたいことは一つだけ。良い、よく覚えておいていて。目に見えることだけが真実ではないということを。』
「目に見えることだけが真実では、ない?」
『ええ。』
「...ごめんなさい、私には到底理解できないわ...。」
『理解できなくても良いの。ただ、覚えていてくれれば、それで。』
「そんな、急に言われても。簡単にでも良いから、説明して欲しいわ。」
『そうしたいのは山々だけれど、時間切れのようね。』
「え?」
『絶対に覚えていて。決して忘れないで。そうすればきっと...から。』
「一番重要な部分が聞こえないわ...ってな、何?足が、吸い込まれ...」
見えないなにかに、足から吸い込まれていく。遠ざかる少女の顔は、やはり見えない。小さくこちらに手を振っている。
『...頼んだわよ。』
突然書いてみようという気が起きて、やる気だけで書き進めているので皆さんに楽しんでもらえているかは分かりませんが...楽しんでもらえていれば嬉しいです(*´∀`)
次話もお楽しみに。