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第 10 章 「巫女」

「あの日以来、初めてです。ここに来たのは」

 スチムが教会の扉の残骸を撫でる。

 ステンドグラスがはめ込まれていた丸窓や、廃墟らしく見せるために叩き壊された屋根板の隙間から朝日が差し込んでいる。


「あんたが昨夜見た石は、もともとはどこにあったんだい?」

 こちらです、とスチムが建物から出ていく。

「地下室には入ったことがない。中はどうなっていたんだ?」

「私も途中までしか入ったことがありません。何もない広間があって、その奥の扉を開けると、さらに下に降りていく細い通路がありました。その先まで行くことが許されるのは、イレーヌ婆様だけでした」

「そんな話だったかな」


「庭園工事が始まって、扉を封印していた石は井戸に蓋をするために持っていかれました。モナエド様の井戸のために使われるのなら、と半ば安心したものです」

 建物を回りこんで裏手に出る。

 と、これは、とふたりは顔を見合わせた。

 かつて地下室の入口に降りる階段があったところは、地面が大きくえぐり取られ、すり鉢状の斜面になっていた。

 すでに、シダやかん木がうっそうと茂っている。

 一筋、草が刈り取られ、数日前に人が上り下りした形跡があった。



「降りてみるか……」

「いえ、教会の地下には入ってはいけないことになっていますから」

「そうか……。もう廃墟だぜ……。この踏み跡は婆さんじゃないか? 覗かないわけにはいかないだろ」

 オルカバが斜面を降り始める。


 斜面は緑に包まれ、上で待つスチムはすぐに見えなくなった。

 蔓に足元を取られる。ぬかるみを慎重にやり過ごすと、教会の赤い石の外壁が現れ、突き崩されたような穴が穿たれていた。地下室の石の床には、入口に近いところから徐々に草や蔓が侵入し始めている。

 しばらく目を闇に慣らしていると、テーブルが設えられてあり、ランタンと火きりが置かれてあるのが見えてきた。



 イレーヌの小屋では、グラスネイクがロンに椅子を押さえさせて面談室の棚の上を覗いていた。


 毒づきながら手についたほこりを払う。

「村長さん、何を探しておられるんですか?」

「水差しじゃよ」

 それなら、とロンが指差したものを見て、グラスネイクは首を振る。

 そして、「そうか、おまえは知らんのじゃな」と、微笑みかける。

「イレーヌ婆さんの水差しといったら、ザ・ポットと言ってな、もっと大きなものじゃよ。最後にあれを使ったのは、いつじゃったかな。もしかすると、おまえが生まれた時に使ったのが最後だったのかもしれんぞ」

 ファインコルトが首を横に振った。


「ん? そうか、おまえが生まれたのは、もう村が引っ越してしまってからか……」

 グラスネイクは主室に戻り、かまどのあたりを調べ始める。

 まさか、こんなことろに、と言いながら水がめの蓋も取ってみた。


「おかしいのう」

 その様子を見ていたロンが、そうだ、と声をあげた。

「もっと大きな水差しなら、ぼく、見たことがありますよ」

「そうか! どこじゃ?」

「お墓です」

「なに? お墓?」

 ロンは、パーティの二日前、地下洞窟で水差しを見たことを話した。



「なるほど。お墓というのは、この先の大きな建物の下のことじゃな?」

 グラスネイクの唇から、思わず大きな溜め息がこぼれ出た。


「ロンよ、それはわしらの村の教会じゃよ。そしてその湧き水こそが水霊モナエドの泉なんじゃ」

 グラスネイクは厳しい目をファインコルトに向けた。

「では、行ってみよう。しかし、どうしてお墓だと思ったんじゃ?」

「骨です。骸骨があったんです」

「骸骨? モナエド様の泉に?」

 ロンが強く頷く。


 グラスネイクはファインコルトと顔を見合わせた。

「その骨は古いものか? どんな感じじゃったかな。つまりその、女か男かとか、持ち物とか、背丈とか」

「えーと、村長さん……。あの、もしかして、イレーヌおばあさんだったか、ということですか?」

 グラスネイクは口元を引き締めた。

 ロンはこぶしを握りしめた。


「ごめんなさい。イレーヌおばあさんのことは、あまり思い出せません」

「服は?」

「えーと、服は着ていました。腐りかけていて……。青っぽい……。そうだ、木のブローチ! 葉っぱの模様の大きなブローチをしていました!」

 グラスネイクはがっくりと腰を落とした。


「そうか……、あそこで……。もう骨になっていたのか。なんということじゃ……」


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