(39)ボケナス
辛口な言葉の一つにボケナスというのがある。「この、ボケナスがっ!!」などと言われ、激しく叱責されるときに使われる言葉だ。このボケナスという言葉を、冷静に甘く考えてみたいと思う。^^
日曜の朝、漆戸(うるしど〉は早く目覚めた。癖とは恐ろしいものである。漆戸は今日が日曜だということを、ついうっかり忘れていた。気づかず、いつものように洗面台で歯を磨き、口を漱いで顔をを洗った。そして、これもいつものように朝食をトーストと目玉焼きで済ませ、背広に着替えると慌ただしく家を飛び出した。通勤する駅は近くで、徒歩で五分あるかないかの距離にあり、慌ただしく家を飛び出すには飛び出すだけの訳があった。いつも乗る列車は8:40発で、8:30過ぎに家を出れば、かろうじて間に合う…と、身体に記憶されていたのである。スリリングなこの繰り返しが、ある種、漆戸の生きている証として体調の刺激になっていた。
「ハンカチっ!」
「もった、もったっ!」
漆戸は、妻が出がけに言う言葉が、今朝はなかったことに列車に飛び乗ってから気づいた。そういえば、今朝は見なかったな…と、妻の姿を見なかったことも不思議に思えた。まっ、いいかっ! と、これもいつものように列車の座席に座って目を閉じ、眠ろうとしたとき、ハッ! と今日が日曜であることに漆戸は気づいた。が、時すでに遅し・・である。列車はいつも降りる駅のホームへ静かに停車をしようとしていた。
「牛毛ぇ~、牛毛です。降り口は右側です…」
駅員の流暢な車内アナウンスが流れ、列車はホームに停車した。漆戸はドアが開く直前、「このボケナスがぁ~~!」と辛口で叫んでいた。車内の乗客の視線が一斉に漆戸へと注がれた。漆戸は、俺は本当にボケナスだな…と甘く、切なく思った。そういや妻はスヤスヤ・・と眠っていたことを思い出したのである。
皆さんも辛口でボケナスと言ったり言われることのないよう、注意深く一日を過ごしましょう。^^
完




