(36)トンボ
皆さんも、よくご存じかと思うが、トンボの種類に塩辛トンボというのがいる。だが、どういう訳か蜜甘トンボというのはいない。^^ トンボがなぜ塩辛いのだけが有名なのか? という所以は別として、人にも塩辛い人と蜜甘な人はいるようだ。^^
とある地方の秋の夕暮れである。釣瓶落としの夕陽が西山の一角に姿を消し、辺りは暮れ泥もうとしている。そんな農道を二人の農夫が話をしながら歩いている。
「おっ! 赤トンボだっ!」
「んっ!? ああ、アキアカネだな…」
「詳しいなっ!」
「ははは…トンボに限らず、蝶や虫には、チョイと五月蠅いんだぜ、俺はっ!」
「ほう、そうか…」
「なにせ、小、中学校では昆虫博士の異名を取っていたからなっ!」
「偉かったんだな、お前。ははは…」
「ははは…当時はなっ!」
「否定せんなぁ、ははは…」
「昆虫には辛かったが、成績は甘かった…」
「出来の悪いガキかっ!?」
「ああ。昆虫博士と出来の悪いガキじゃ、豪い違いよっ!」
「いやいや、それでも大したもんだ。俺なんか全てが甘くも辛くもなかったからなぁ~」
「それって、どんな味だっ?」
「味がなかったってことよっ!」
「ははは…味は塩辛くっても甘くっても、ないとなっ!」
二人の話をひっそりと聞いていた脇役の塩辛トンボは、やってられねぇ~やっ!…とばかりに、赤トンボを無視して夕闇へ飛び去った。
完




