五話
「それじゃあ今日のホームルームは終了。各自明日のテストに向けて十分に勉強するようにな」
と仏田先生は言い残し教室を出ていった。
私たちの高校は何と入学して3日目にテストがあるらしい。ようやく志望校に合格出来たとほっとしたのも束の間、またしてもテストか…
「テストってこの間入学試験を受けた所なのにねー?テストアレルギーになりそうだよ」
と犬丸さん。テストアレルギーという言葉が少し気に入った。テストになるとクシャミとかが止まら無くなるのだろうか?なんか周りの人の邪魔出来そうだな
「まあとにかく今日は帰って勉強だね」
「うへえ…勉強かあ」
嫌そうに犬丸さんが舌を出した。
勉強は別に嫌いじゃない。まあ好きかと聞かれると多分好きじゃないと答えるけれど、嫌いかと聞かれると嫌いじゃない。
「やってみて、解けたりすると案外面白かったりするよ」
「げげ!猫田さんって…勉強できちゃう系?」
「そんな事ないよ」
と一応否定。本当は出来なくもないが、できる訳でもない。
変な期待なんてされたらたまったものじゃない。
「ほんとかなあ…勉強面白いって言う人はみんな賢いからなあ」
じろ〜。
怪しそうな目でこちらを見る。
こちとら万年平均点取ってんだよ!と心の声で反論する。
「放課後一緒に勉強会しいひん?」
後ろから肩を叩かれ、京風の言葉でそう言われた。
ふと後ろを振り返るとちょっと目立つ女の子達が3人いた。
私に声をかけたのはタレ目のロングで巨乳、なんか男子ウケの集合体みたいな人だった。
本能でこの人は苦手だなと感じた。
「あー、ごめんね!私塾があるんだ」
なんだか毒されそうなので回避。
「そうかー、残念やなあ。せっかくおんなじクラスなったんやしまた放課後あつまろな、私は狸小路小町 (こまち)よろしく」
狸小路さんはにっこりと目だけで笑った。
やっぱりなんか嫌だ、この人。
「じゃあまたね」
そう言って教室を出ようとして、不意に犬丸さんと目が合った。
…ど、どうしよう。目がそう言っていたので
「ほら、犬丸さんも早くしないと遅れちゃうよ」
そう言うと何故か嬉しそうな顔でこちらに走ってきた。
※
帰り道。
お礼と言うことで貰ったジュースを飲みながら今日の晩御飯の事を考えていた。
「やー、猫田さんってピンチで頼れる姉御って感じだね!」
不意に犬丸さんが口を開く。
「本当にピンチな時は頼んないでね、共倒れするから」
結局、頼れるのは自分だけだ。
と信じたい。
「猫田さんってさ…」
一呼吸置いて、再び
「趣味とか何かないの?」
飲みかけのジュースに口をつけたまま、私はピタリと歩みを止める。
趣味…趣味かあ、趣味ねえ……ない!
人生は死ぬまでの暇潰しと考えている私に趣味はない!けど何も趣味のない人間だと思われたくない!
いつか聞かれると思っていたが、やはり聞かれたか…
「料理とか、かな」
「ほんと!?私も料理好きなんだ!今度一緒に作ろーよ」
う、ヤバい。
最悪のパターンだこれ。趣味被り。
料理出来ないのバレちゃうじゃん…私料理なんて小学校の家庭科でしか作った事ないよ、家庭科は3だったし…
「あ、でも私ベトナム料理専門だけど大丈夫?」
にははは!秘策!
逃げ道は作ってある!
「嬉しい!私最近ベトナム料理に興味あったんだよ!」
…
なんだか腹が立ってきた。もしかして私を馬鹿にしてるのだろうか?
「ほんと?じゃあ今度トムヤムクン対決ね、負けたら死刑で」
「あれ、トムヤムクンってタイ料理じゃなかった?」
似たようなもんじゃねえかあ!
「蚊がとまってるよっ!」
ぺち!と軽く頬を叩いておいた。
「ありがと!」
爽やかに微笑む犬丸さんを見てほんの少しだけ罪悪感が…
目覚めるかい!
なんで、なんでやねん…叩き返さへんの、なんで?
なんか、ごめんね
と心の中で謝罪しておいたので罪悪感は全く無かった。
「じゃ、またね」
そう言っていつものY字路で別れた。
「…一応トムヤムクンの練習しようかな」
ボソリと呟いた。