[9]生きる意味を教えて
「なんで!」
「頭を使いなさいな。一般的にスパイをする理由は??」
「え?敵の情報を得る?」
「内部から壊すってのもあったな。」
「考えれば分かるでしょ?」
「じゃあなんで僕らに指導を?」
「利用価値があるかなって思って。ふふっ。」
「嘘だ…。」
「戦わなくちゃならない?」
「もちろん。」
「どうして戦争をするんだよ!!」
「諦めなさい、ハルト。遥か昔から決まっていたことなんだから。」
「昔……?」
「どういうことだ?」
(面倒なことになってきたな。)
『サジットア。』
「はい?」
『もう時は満ちたのではないか?』
「はぁ……。」
『最後の戦いだ。あらすじ紹介をしてやれ。』
「ですがこれまで必死に……!」
『いいんだよ。真実を知るときだ。』
「……分かりました。」
『頼んだよ。』
「了解です。」
「なんだ?」
「ねぇ昔のこと知ってる?」
「全っ然。記録が残ってないからな。」
「いいわ。」
「へ?」
「教えましょう。過去のことを。少し長くなるけど。」
「いいの、セイラ?」
「頼まれたのよ。」
「ふーん。」
「この土地に最初にやってきたのはサゼルと呼ばれる民族だった。」
(そこから!?)
サゼルは荒れた土地を耕し、長い年月をかけて1つの国を作り上げた。民族に伝わる神話を元に”サーヴ神話”が誕生した。サゼルの民は自然を愛し、豊かではなかったが平和に暮らしていた。
しかし建国から100年以上たった頃に国は変化した。他民族がやってきたのだ。主に北からアラノール人、南東から褐色のルビェ人であった。サゼルの民は嫌な顔ひとつせず彼らを受け入れた。しかし、それが悲劇の始まりとなってしまった。
移民らによって国は急速に発展したが、サゼルの民の”自然と共に生きる”という信念は揺らがなかった。
「自然もいいが、国のためこの土地を開発させてくれ。」
「断る。」
「街の中に木を植え花を植えればいいだろう?」
「それでは駄目なのだ。」
「しかしですね……。」
「何度来てもお断りだ。」
なんとかわずかに残った自然を守ろうと必死だった。しかしそれは、他の民族にとっては邪魔でしかなかった。
「どうしたらいいものか。」
「自然が大切、ねぇ。」
「他国に遅れをとらぬよう開発が重要だというのに。」
「面倒な民族だ。」
「機械のほうがよほど便利だというのに。」
「長!!」
「なんだ?」
「そろそろ妥協しませんか?」
「駄目だ。ここで負けることは一族の恥だ。」
「ですが……。」
「最初にいたのは我々ではないか。受け入れてやったのだ。」
「確かに我々の国です。」
「自然を愛し、大切にしてきた先祖の為にもこの場所だけでも守りたい。」
「これ以上の抵抗は……争いになるかもしれません。」
「構わん。」
「構わんって……。」
理解する心が少しでもあれば、譲り合えば、それで終わりだったが、そうはならなかった。
リゼラの西にカヤンという街があった。そこに1人の研究者がいた。その名はヴェイ・ハーメルン。両親を早くに亡くし、魔術、というものに魅了されていた。性格は歪んでおり、目的のためなら犠牲をいとわなかった。”魔物”と呼ばれる生物の残魂を彼は集め、こう考えた。
「これを人間と融合できないか?最強の兵器になるじゃないか。」
恐ろしい計画だった。
「魔物なんかいるかよ!」
「この世界には知らないこともまだあるのよ。」
「変なやつがいたもんだな。」
「そんなの危険すぎるわ。」
「もちろん最初は反対する人が多かったさ。」
「?」
すぐにハーメルンは計画を王国に伝えた。
「そんな危険なことができるか!」
「確かに強いかもしれないが。」
「だいたいその”器”の人間はどうする。」
魂を入れる人間を誰にするか、そこが1番の問題だった。死ぬかもしれない実験に賛同し、立候補するものはいなかった。
「計画に必要な器が見つからない。どこかに死んでもいい人間はいないのか!」
数日後、彼は1つの結論にたどり着いた。
「サゼルの民でいいではないか。」
「サゼルの民たちを?」
「はい。捕らえる理由はいくらでもある。」
「しかし……」
「そろそろ嫌気がさしているのではないですか?」
「それはそうだが……。」
「捕らえれば土地も手に入る。」
「確かに。」
「先住民との争いなんてどこの国にもあることではないですか。」
「サゼルの民たちにはほとほと困っている。が、魂の融合というものは許されないのでは?」
「大丈夫ですよ。彼らは我々と共に戦う”兵士”になるんですから。」
議論は数日にわたったが、王国側は論破され、サゼルの民を捕らえることが決まった。
「大変です!」
「何事か!」
「王国が、王国軍が攻めてきました。」
「!!」
「……強行手段にでるようです。」
「やはりこうなるのか。」
「はい。」
「用意していた部隊で迎え撃て!」
「は!」
こうして戦いは始まった。数週間にわたったが、やはりサゼルの民が負けてしまった。
「王国にはどれだけの兵がいるのか……。」
「我々の土地を開発しても……構わない。だがこの城だけは……!!」
「早くそう言えば死者は出なかったのになぁ。」
「我々は……。」
「もういい。捕らえろ!」
「了解。」
「どういうことだ!説明しろ!」
「我々はあなたたちを反逆罪で捕らえるよう命じられました。」
「何……だと……。」
マーフェスに住んでいたサゼルの民は捕らえられ、すべてハーメルンの研究所に運ばれた。
「何だというのだ。子供らは関係無いではないか。」
「気付いてないのか?」
「はい?」
「お前たちは厄介者なんだよ!」
「なっ!」
「自然を愛し生きるとか古くさい。」
「古くさいだと!?」
「今は技術が進んでんだよ。」
「自然は我らに恵みを与え……。」
「あーいいって。」
「どうせ死ぬのだから。」
サゼルの民は、何もしていない女性、子供たちも含め、全員反逆罪で死刑となった。しかし刑は表向きのもの。実験の器にされるのだ。
「なにがどうなっている。」
「すぐにわかるさ。」
(刑は執行されないのか?)
「ヴェイ!」
「はっ。」
「準備はできているか?」
「もちろんです。ひひっ。」
「何がおかしい?」
「国が私のために動いてくれるとは。」
「我々は結果を求めている。」
「必ずや成功させますよ。」
「人体兵器か。」
「他国との戦いに使えますね。」
この頃には反対するものも減っていた。人権だとか命の重さよりも、未知なるものへの興味、自国の強さへの欲望が勝っていたのだ。
「十分な用意はもうできている。始めよう。」
「死亡リスクは?」
「あるさ。拒絶反応は避けられない。」
「そうですか。」
「順に連れてこい。まずは、男にしよう。」
「こうして融合実験は始まった。」
「非現実的な話だな。」
「でも目の前にいるのは誰?」
「それは……。」
「まぎれもなく被実験体。」
「お前たちは人なのか?」
「元をたどれば。まぁ、もう人とは言えないでしょう。」
冷ややかな瞳で、どこか寂しそうにそう言った。
「心の中に残る魔物、鬼、物の怪、何と言ってもいいわ。それらは私達にこう言う。」
『生きたいなら戦え!』
「戦え……。」
「きっと生きることは何かとの戦い。必ず犠牲が伴う。」
「だから人を殺してもいいと?」
「その言葉、そのままあなたたちに返すわ。」