[8]影の闇はすぐそばに
人と人との戦いは続いていく
平穏な日々から戦場に向かう若者
そこに待っているのは何なのか
平和か?
それとも破滅か?
結末は誰にも分からない
物語は交わり、繋がり、絡まっていく
幸せを手にするのはいったい誰だ
答えは進まなくては分からない
さぁ行け!
立ち止まっても時は動かない
新拠点バルクットはすぐに完成した。廃村であったため建物に困らなかったのである。
制圧の3日後、作戦会議が開かれた。
「今後、どのように攻めていけばよいのだろうか。」
「敵の本拠地に近いということは、今まで侵攻に参加してこなかった……。」
「強敵がうじゃうじゃいるだろうな。」
「どうする、ジン?」
「陣形はさほど変えなくていいだろう。」
「ほう。」
「切り込み隊は剣術、その後ろに数部隊……。」
彼らの会議は夕方まで続いた。
「長いね。」
「早くいきたいなぁ。」
「戦に作戦は必要だからしかたない。」
「ここまでする必要ある?」
「時代が動くかもしれない戦いだからな。」
『緊急事態発生。緊急事態発生。』
アラートが突如鳴り響いた。
「何だ?」
「外で何かあったのか?」
一同は慌てて外にでた。
「あーあ。結界なんか張っちゃって。面倒だなぁ。」
そう言いながら、溶かすように結界に穴を開けた。
「よっこらせっと。」
「何者だ!!!」
「いとも簡単に結界を破ったぞ。」
「つまりは人間じゃない。」
「カルヴァトーリか。」
「わざわざ敵のところに何のようだ?」
「やぁ。初めましてかな。ふーん。拠点ってこんな感じなんだ。」
若い男はあたりを見渡した。緊張も殺意も感じさせずに、遊びに来た様子であった。
「何者か?」
「誰だっていいでしょ?」
「よくないな。」
「敵の拠点に1人で来るとは死にたいのか?」
「ちがうよー。」
「どこまでもお気楽なやつだ。」
「とりあえず捕らえろ!!」
数名が武器を持って向かっていった。
「まだ何もしてないじゃん。」
口を尖らせながら、ひらりと躱して緑色の光を放った。すると隊員が倒れていた。
「安心して。眠らせただけ。」
柔らかく不気味に笑った。
「なんか他のやつと違くね?」
「確かに。」
「誰も殺さない。」
「逆に怖くね?」
男は徐々に司令部へ近づいていった。
「貴様は誰だ?」
「なんでみんなしてそう聞くのさ?」
「は?」
「名前なんて知らなくても困らないでしょ?」
(まるで友達と話すようだな。)
「何が目的だ?」
「迎えに来たんだ。」
「誰をだ?」
「それとも戦場へと我々を招いているのか?」
「うーん結果的にはそうかな。」
「結果的??」
(意味不明だな、さっきから。)
「覚悟はいいか?」
「待って、待ってってば。」
「命乞いか?」
「僕の目的聞いたくせに、無視するんだ。」
「あ?ああ。迎えに来たってやつか?」
「そ。別に戦う気はないの。」
(何だこの余裕。それほど強いと言うのか?)
「何もしてこないね。」
「意外と臆病なのかもね。」
「へぇ!勇敢な若者がいたもんだ。」
「ひっ。」
「バカ!空気読みなさいよ!」
「まあいい。目的を話すとしますか。」
男は何かを地面に置いた。すると音声が流れ出した。
『長らく待たせたね。』
(何だ?)
『大変な任務にもかかわらず、愚痴も言わず、しかも十分すぎる結果をもたらしてくれた。』
「なんのつもりだ?」
「いいから最後まで黙ってて。」
『ありがとう。お疲れ様。帰っておいでサジットア。』
そこでプツンと切れた。
「だってよ!」
「貴様ふざけてるのか?」
「いたって真剣だよこっちは?」
「今のは……。」
「あれれ?おかしいな?なんで返事しないの?」
「当たり前だ。」
「?」
「ここに、サジットア、という隊員はいない。」
「何かの間違いか、バカにされているのか。」
「うーんそうじゃなくて。」
「終わったか??」
「まだ。」
しばらく黙り込んでいたが、突然、
「わかった!!」
と嬉々として叫んだ。
「気にしてるんでしょ?こんなところでやるわけない、知らないって。大丈夫。僕が来たってことはそういうことだから。」
「演技か?」
「変なやつ。」
「捕らえますか?」
「そうだな……。」
(敵の実力が未知数すぎる。)
「早く出てきて!大丈夫だから。」
しばらく沈黙が続いた。
「分かったわ。」
誰かが答えた。男の顔が一層明るくなった。
「嘘でしょ?」
それはユーリだった。
「焦らさないでよ。」
「ごめんなさいね。突然だったから。」
「連絡なくてごめんね。」
「なにも拠点でやらなくても……。」
「面白いじゃないか。」
「そうですけど。」
「信頼しているものの裏切り。」
「どんな顔をしているのか分かるぜぇ。」
「ああ。」
「どうします?このあとは。」
「そうだな……。」
「セルジアットの追及は免れないでしょう。」
「戦争だぁ。」
「黙れ。うるさいぞ。」
「これから始まるのだ。長らく止まっていた歯車が動き出す。」
「おかえり!」
男はユーリに抱きついた。
「これからは一緒だね。」
「ええ。」
「さ、やることやって帰ろう。」
「まだ何かあるの?」
「うん。」
「どういうことだ!説明しろ!」
「お前はカルヴァトーリなのか?」
「騒がしいね。」
「そりゃあねぇ。」
「ユーリ。」
「ん?」
「お前は何者だ?」
「何者でしょう?」
「ふざけるな!お前はそいつの仲間か?」
「……。」
「オラシオンにいるのはなぜだ????」
「はぁめんどくさいわ、あいかわらず。」
「何だと?」
「言わなきゃ分かんないわけ?」
「なっ……。」
「あとね、ユーリティア・セルジアットは偽名なの。」
「ねぇその格好やめない????」
「あぁ?忘れてたわ。」
そう言うと、指をパチンと鳴らした。すると髪の色と瞳の色が変わった。
「やっぱりこうじゃなきゃ。」
「変装していたのか。」
「改めて自己紹介するわね。私の名前はセイラ・サジットア。よろしくね。」
「カルヴァトーリなんだな?」
「ええ。スパイね。簡単に言えば。」
「スパイ……。」
「オラシオンは駄目ね。偽造データに気付かず、入隊できちゃったわ。」
「それじゃあずっと……。」
「スパイとして情報を送っていた。」
「嘘だろ?」
「我々の情報は筒抜けだったということか。」
「長かった、本当に。」
「うん。お疲れ様。」
「一等隊員になるのは大変だった。」
「よく分かんない。」
「もっと上の役職につければよかったんだけどね」
(総隊長や指揮官にもしなっていたら……。)
「最悪だ。」
「残念だわ。私はずっと側にいたのに。」
「くっ。」
「大変です、総帥!!」
「そんなに慌ててどうした?」
「セルジアット隊員は……敵のスパイだったようです。」
「!!」
「情報がだいぶ漏れているかもしれません。」
「いますぐバルクットに繋いでくれ。」
「了解しました。」
「何ということだ……あの子が??」
「してやられましたね。」
「ユーリは何期生だ?」
「たしか19か20期だったかと。」
「やられたな。」
「はい。」
「さてエルトレイン?もう一つの仕事ってなんだい?」
「えっとね……。」
「ユーリさん!」
「ん?」
「なんで……嘘だろ?」
「現実よ、ハルト。」
いつもと変わらない口調でそう言った。