[6]染まる空は何を思う
「うーん。なかなか出てこないわ。」
アンナは1人頭を抱えていた。彼女はヴァルトレアの発生原因について調べていた。
「これだけ文書を調べても何もないなんておかしい。彼らの過去にいったい何があったっていうの?ん?なにこれ?」
とある文書にのり付けの後がわずかに見えた。
「ん?剥がしてみるか。」
ほとんど分からないようなつなぎ目を剥がすと、1枚の紙があった。
「えっと……『未来の者へ。彼らは過去を消そうとしている。私の命も危うい。だからこれを見つけた者が真実を伝えるのだ。』ですって。ここにはいったい何が書かれているの?」
しばらく文書を読んでいたが、
「どういうこと?これが真実なの?大変!早く伝えなきゃ……。」
「何が大変なの?」
突然声がした。
「うわぁ、ってなんだ。驚かさないでくださいよ。」
「こんな遅くまで何をしているの?早く帰りなさい。」
「そ、そ、それどころじゃないんですよ。」
「だから何が?」
「カルヴァトーリの過去についての文書があったんですよ。」
「へぇ……。」
眼の色が突然変わった。
「大ニュースですよ。まさか……ぐはっ……。」
「ごめんなさいね。」
「どう……して……。」
「まだ知られちゃ困るの。ふふっ。永遠におやすみなさい。」
次の日の朝。
「大変です。リーブス研究員がころされたって……。」
「なんだって。」
現場には既に人だかりができていた。
「おい。何があった?」
「あ、ジンさん。」
「説明しろ。」
「はい。朝方別の研究員が殺されているのを見つけたそうです。頭と腹を何かで突き破られていて即死かと。彼女の使っていたものが跡形も無く無くなっているみたいです。」
「つまりは研究内容に関わることか。」
「はい。彼女は以前からカルヴァトーリの過去について調べていたようで、今日定例報告が予定されていました。」
「奴らの過去か。それに関する文書は火事でほとんど焼けたと聞いているが?」
「はい。」
「指揮官!」
「なんだ?」
「殺害方法が…どう考えても人間の手じゃないんです。」
「何だと?」
「傷跡が人類の武器とは思えなくて、一瞬で2カ所抵抗も無しに…確実に殺すつもりで。眠らされてなきゃ厳しいですよ。」
「どういうことなんだ?」
「もうみんな『カルヴァトーリの仕業だ』って騒いでいて…。」
「だがそうだとしてどうやって基地に?」
「基地西側に壊されている部分があるそうで……。」
「何ということだ…ってジンさん?」
「……許さん。つまり彼らの過去には知られてはまずい”何か”があったのだ。」
「確かに…でないとおかしいですもんね。」
「作戦会議をするぞ。今すぐにだ!」
「はっ。」
「ねーサジットアが研究員殺しちゃったみたい。ま、上手くやったみたいだけど。」
「そうか。ここ最近小さな事件が多く起こっているな。」
「戦いの予兆だって言いたいのか?」
「確かに長い年月が流れた。」
「マスター…!」
「もうそろそろか時が満ちるのは。」
「そうかもしれませんね。」
「ふむ……。」
「これからアンナ・リーブス殺人事件に関わる会議を行う。まず報告を。」
「はい。彼女は今朝方研究室にて殺されているのが確認されました。死因は頭部と腹部の傷による失血死。傷の大きさから即死と考えられます。また、研究室内にあったはずの物が1つもなかったことから研究内容に関わる事件と考えています。」
「確かカルヴァトーリの過去、じゃなかったか?」
「はい。」
「つまりは……。」
バンッ!!!
誰かが机を叩いた。
「あーもー面倒くせぇ。西側の崩壊からどう考えてもカルヴァトーリの仕業だろ?」
「落ち着けって、ジン。」
「早急に侵攻の準備を!」
「つまり。リーブスの調べようとした"過去"には何か秘密がある。そしてそれは彼らにとって知られてはまずいことだった。彼女は何らかの結論に辿り着いたが、それによってカルヴァトーリに殺された。こう言いたいのだな?」
「はい、総帥。」
「だがこれにかんしてひとつ疑問が残る。」
「何でしょうか?」
「どうやって彼らが彼女の結論を知ったか、だ。」
「確かにそうだ。」
「知りようが無い。」
「そんなことどうでもいいんです。早急に手を打たなければ真実はさらに遠くなる。」
「そうは言ってもなぁ。」
「ここ最近派手な戦いは起こっていない。」
「大義名分には十分すぎます。どうかお考えください。」
「……分かった。」
会議室がざわついた。
「マーフェス侵攻をおこなう。日付は年が変わった1月2日。目的は殺人事件の真相追究だ。」
「ですが総帥……。」
「ちょうど新しい武器の開発もしていただろう?」
「それはそうですが…。」
「黙って屈する訳にはいかん。仲間がひとり殺されているのだから。」
「分かりました。手配します。」
(30年ほど前にも暗殺事件があったと聞く。いったいどうやっているのだ??)
「侵攻が行われるんだって。」
「まじか。」
「ついに戦場デビュー?なんてね。」
「僕らまだまだ未熟ですから。」
「あーいきてぇ。本物見てみてぇよ。」
「新人数名の選抜チームが組まれたわ。」
「わっ。びっくりした。」
「ふふっ。もちろんあなたたちも選ばれた。」
「うわぁ…。」
「ついに戦場に行ける。」
「経験しておくのも大事だって、ジンが言ったそうよ。」
「へぇ……。」
「それまでに少しでも強くなっておきましょうね。」
「ちょっと怖ぇ。」
「なーに?ビビってるの?男のくせに。」
「っうっせーな。」
「いつも通りね。ふふっ。」
(ずいぶんとお気楽ね。何があるかなんて分からないのに。)
「ユーリさん?どうかした?」
「えっ?ああ。久しぶりの本物の戦場ねっておもって。ここ数年わりと静かで平穏だったから、この侵攻がきっかけにならないといいわ。」
「どういうこと?」
「戦いが勢いに乗らないといいけどってこと。何がきっかけになってもおかしくない状況だったから。……最後まで笑っていられるといいわね。」
「?」
「あっ。何でも無いわ。戦場では気を引き締めて!」
慌てように顔を見合わせる4人であったが、
「はいっ!!」
と元気に返事をした。
そこからはあっという間だった。各々が侵攻に向け準備を進め、気を引き締めていた。
「侵攻してくるみたいですよ。」
「そうか事態は思ったよりも急展開だな。」
「暗殺なんてするから面倒なことに……。」
「内部の犯行に見せかけることをしておけば……。」
「やめるんだ。過ぎたことにいちいち文句をいうべきでは無い。過去から学ぶのも大事だが、今を見失ってはいけない。」
「今は目の前の敵に集中せよ、ということですね。」
「全力で迎え撃つのだ。家族たちよ!」
ヴァルトレアも争いの気配を察し、備えていた。
(この侵攻次第では、止まっていた時間が再び動き出す。待ちわびていた時は近いのかもしれない。)
ついに1月2日がやってきた。
「これから戦場に向かうんですね……ううっ緊張してきた。」
「肩の力を抜けよ。サディ。」
「でも……。」
「大丈夫よ、きっと。私達以外にも沢山の隊員がいる。一等隊員だっているんだから。」
「必ず事件の真相を明らかにし、ヴァルトレアを追い詰めるのだ。気を引き締めていけ!いくぞ!!」
指揮官のひとり、セトヴレルのかけ声と共に、オラシオン軍はマーフェスへと向かっていった。
「勝てますかね。」
「さあな。過去についての手がかりが得られればいいが……。」
「焦らないことね、ジン。案外灯台下暗しかもしれないでしょう?」
「ああ、分かっている。」