[3]永遠の平和を求めて
王政軍の指揮官や政府の人々が集まって話し合いが行われた。
「何か対策をしなければ。」
「王殿は何か考えがおありでしょうか?」
「奴らに負けない軍を作ることとしたい。」
「王政軍を強くするではいけないのでしょうか。」
「それでは勝てないのだ。王政軍は規律ときちんとした仕組みが皆無だ。数人を外国へ留学させ、軍というものを学んでこさせたい。我々は無知であるからの。」
「確かに、しっかりとした何かを作る必要がありそうですね。」
「街の回復とともに、城の北にあるハリマンの森の跡地に基地を建てよ。そして16歳以上、男女問わず、戦闘員を集めるのだ。」
「武器はどうしましょう。」
「彼らは普通の剣や銃では殺せない。」
「魔術を使ってはどうでしょうか。」
「どういう意味だ?」
「彼らは『自分たちには魔の力が宿っている。』と言っていたそうですから、魔には魔で対抗するべきでしょう。」
「しかしそんなものがこの世に存在するはずがない。もっと現実的なものをだな……」
「魔術はある。」
「どこに?」
「東方の国に存在している。そしてこの国には東方からの移民族がわずかながらいる。」
「そうですね。王殿、いかがいたしましょうか。」
「うむ……今はそれに賭けるしかない。できるだけ早く準備を整えよ。」
「了解です。」
基地がほぼ完成した頃、武器の開発が始まった。
「カルヴァトーリについて研究している有能なリンカトとホーク、そして東方民族であり、魔術を使えるミン・レイバチャをお連れしました。」
「3人ともよく来てくれた。君たちには奴らを封じる武器を開発して欲しい。」
「それに我の魔の力が必要であるというのじゃな。」
「はい、ミン殿。封じる力を見つけ、武器と融合させることは可能でしょうか。」
「愛する国のため全力をもって取り組もう。」
「協力に感謝する。」
こうして3人は必死に研究をした。そして遂に、対抗する力を見つけ、武器が完成した。
「これでどうじゃ、王よ。」
「何と素晴らしい。ありがたい。」
「これで奴らを殺すことができますね。」
「ああ。大いに感謝する。」
「彼らを必ず倒しておくれよ。」
「はっ。この命に賭けて必ず。」
「マスター!奴らが対抗する武器を……。」
「恐れるな。大丈夫だ。」
「黙って朽ちればいいものを」
「ははっ。面白いではないか。楽しもう戦いを。」
「イエス!マスター!」
「名はどうする。」
「組織の名前か。」
「うむ…ヴァルトレア……サーヴ神話……。そうだ!『オラシオン』はどうだ。」
「『オラシオン』ですか。祈りの神の名前ですね。」
「素晴らしい。よいではないか。」
「決まりですな。」
「こうしてオラシオンとしての活動が開始されたの。初めは志願者なんていなかったそうだけど。」
「そりゃあそうよね。誰だって怖いよ。」
「初代総帥はグルエルト7世。」
「誰だ?知らないな。。」
「当時は貴族の権力が強かったの。だから重要な役職ははぼ貴族だった。」
「役に立たなさそうだね。」
「そうね。その後は実力で選ばれるようになったわ。」
「ねぇユーリさん。指揮官になるにはどうすればいいの?」
「指揮官?うーん……実力と知識、判断力がいるんじゃないかな。」
「そっか。難しそう。」
「ジェイナ、なりたいの?」
「うん。」
「ところでさ、オラシオンができて、ヴァルトレアは対抗してこなかったの?」
「ええ。恐ろしいほどの沈黙。」
「何でだろうね。」
「さあ?」
「オラシオン、か。」
「祈りの神。祈りなんてまやかしさ。」
「また戦争するんですかぁ、マスター?」
「待て。待つんだ。」
「なぜ?」
「早まるな。知らぬままの侵攻など自滅だ。奴らも力をつけてきている。我々ももっと強くならねばならぬ。」
「オラシオンの情報ねぇ…」
「策はある。」
「なんです?」
「スパイだ。」
「スパイですか…上手くいきますかね?」
「そもそも誰がいくんだ?」
「無茶です、マスター。そんな危険な橋を渡らなくても他に方法はある。」
「力には力を知には知を。奴らが頭を使うなら、それ以上のことをするほか勝利はない。」
「ですが誰が?上手くやれるやつなんていますかね。」
「サジットアはどうです?」
「なんと!そんな実力者が行くのか?」
「面白い。それだけの実力者なら上位の幹部になれる。そうすれば上層部の情報が得やすいのではないか?」
「ああそうか!その考えには賛成するね。」
「ではすぐ手配を…。」
「待て。時が満ちるまで。とんとん拍子の話がどこにある。辛いかもしれぬ。だが待て。奴らが忘れた頃に。奴らがさらなる脅威になるまで。分かってくれるな?」
「はい。」
「ぶっぱなしてやらぁ!」
(正しい時など分からぬ。皆が勝てる日など分からぬ。しかし、今ではないのだ。きっと………。)
「マスターはどれほどの年数がかかるとお考えで?」
「そうだな……何十年とかかるだろう。」
「そんなにぃ?」
「ああ。焦るな。少しずつこの国を闇で喰らいつくすのだ。それに時がたてばたつほど過去は忘れられていく。我らの恐怖を知らぬものたちが多ければ多いほど良いのだ。」
「どういうこったぁ?」
「いずれわかるさ。」
「ところでユーリさん。」
「何かしら?」
「今、武器は誰が作ってるの?」
「確かに気になるなぁ。今も魔術師がいるのか?」
「秘密な部分も多いけど、研究によって人工的に作り出している、という感じかな。」
「人工的!?驚いた。」
「魔術を研究したみたいね。詳しくは私も知らないけれど。そのおかげで多くの種類の武器が生まれたの。」
「なるほどな。」
「人工的に作り出された武器が彼らに効果があることは確かだから大丈夫よ。」
「使ってみたいなぁ本物。」
「えっ?」
「だって訓練じゃヘンテコな人形切るだけだし、実戦したいなぁと思ってさ。」
「ハルトは殺しに抵抗はない?」
「無い訳じゃないけど……。カルヴァトーリは殺されてもいいって思ってるよ。」
「そう……。」
やや曇った表情を見せた。
「俺は父さんを殺されてるし、ここにはそういう人が多いと思う。」
「実戦はそうなに甘くないわよ?」
「でもさぁー。」
「実力の無い人間が戦場にいても邪魔なだけ。無意味よ。だからこそ、今の訓練が大切になる。」
「うん、そうかも。」
「話は変わるけど話の中に何度か出てきたサーヴ神話って?」
「ハルトったら……聞いたことないの?王国に伝わる神話だよ。」
「確か150話くらいのお話があったはず。」
「うわっそんなに。」
「1度読んでみるといいわ。面白いのよ?」
「はい!!」
キラキラした眼でサディが答えた。
ハルトがボソッと言った。
「読書バカだな。」
「だいぶ話がそれちゃったわね。」
「終わってないの?」
「ええ。それとももう充分?」
「聞きたい聞きたい!」
(さて、彼らはどう思うかな。真実を知っても笑うかしら。キラキラした眼……。恐ろしいわ。勉強は嫌いなのに。)