[19]未来はいつも心の中に
「不思議な場所だ。」
「あちらから音が!」
「行くぞ。」
「さあてどう仕末しようかな。」
バンッ。
扉が勢いよく開いた。
「そこまでだ。」
「!」
「総帥…!」
「ほぅ……よくぞここまで。」
「私が相手をしよう。」
「そうか。」
「覚悟!」
2人の力は互角のようだった。
「戦いとは縁遠そうだと思ったがなかなかだ。」
「決着を今、着けるのだ。」
「援護するぞ!」
その後も激しい戦いが続いた。
「手強い…。」
「なんという魔力。」
(これで本当に良いのか?)
ハルトはまだ悩んでいた。
(カルヴァトーリがいなくなって、それで?)
「おい!ぼさっとするな!」
「っあ、はい!」
「君たちには本当に手を焼いたよ。何人殺した?」
「数えてなどおらん。」
「国滅ぼしの民族。これは今も変わらんな。」
「……。」
「君たちは間違えた。あのとき素直になればよかったのだ。」
「自然を捨てる選択肢などない。」
「民を守るどころか殺した。」
「!」
「虚しいな。」
「ふん…お喋りな人間だな。」
「駄目だ。」
「全然当たりません。」
「この人数相手に……すごいぜ。」
「適当じゃ駄目なんです。何か考えないと。」
「ぐわっ。」
「ジンさん!」
「このまどろっこしい若僧から仕末しなくては。」
(まずい。)
「よそ見とは余裕だな。」
「ははっさてどうする。」
「攻撃範囲が広すぎる。」
「近づけない。」
「どうすれば?」
「不意を突くしかない。」
「うーん。」
「お前!」
「え?俺?」
「頼まれてくれるか?」
「作戦会議は終わったかな?」
「行くぞ!」
「はい。」
素早く不規則に動き始めた。
(揺動か?めんどくさい。)
「攻撃を忘れるなよ!」
(でも避けられる。一掃してしまえば………ん?)
「今だ!」
一斉に攻撃を仕掛ける。
(1人少ないぞ!どこに……。)
ドスッ。
剣が心臓を貫く。
「当たった……!」
「やった!」
「勝ったな。」
「ふぐっ……。」
膝をつくマスター。
(うまい……だが!)
「奴らの強さはどれくらいになるんでしょうか?」
「早ぇうちに摘んでおきてぇな。」
「勝算は?」
「五分五分といったところか。」
「圧倒的に俺らだろうがよぉ。」
「憎しみに燃える力はすさまじいのだ。」
「マスター…。」
「明日のことは今は分からん。例え何があっても主たるもの、最後まで倒れるわけにはいかん。」
(そうだ。。私はまだ……。)
『力が欲しいか?』
(!)
『我はお前に力を貸すと約束した。』
(……。)
『このままでは死ぬぞ。』
(まだ終わっていない!)
『野望はまだなしえていないのか?』
(そうだ。人間たちは何も学ばない。いつだって争うばかり。)
『……。』
(1度ゼロに戻すのだ。そして再び創るのだ!)
『その闘志は我がこの体に入ってから1度も消えることはなかった。いいだろう。蘇り、我の力を最大限使うといい!』
(ああ。ありがとう……!)
「これで終わったのか?」
「お、おい!」
「なんだ!?」
急に体が光り始めた。
「まさか……。」
「力が、湧いてくるぞ!」
「死んでいない!?」
姿は以前とは異なり、手には竜のうろこのようなものに覆われ、つばさのようなものがはえていた。
「まだ死ねない!!」
「これで刺せば死ぬんじゃないのか?」
「急所を確実に狙ったのに…。」
「意志のつよさ、か?」
「え?」
「何か我々の常識を超えることが起きているようだ。」
「ふはは!私は無敵になった。この力でこの国を滅ぼして見せよう。」
「どうしたら……。」
「来ないのか?ではこちらから。」
巨大なツメが地面を抉る。
「さっきより強い!!」
「まずい。」
「力はどこから湧いてきているのだ?」
激しいぶつかり合いが続くも、マスターの力はすさまじかった。
「ジンさん!大丈夫ですか?」
腕を負傷したようだった。
「平気だ。まだ戦える。」
オラシオン側の疲労は目に見えていた。
「大変だな人間は。疲れやすくて。」
「この人数でも厳しい。どうしたものか。」
「あれ?ハルトは?いないよ?」
「な!?」
ハルトは1人部屋の外にいた。最初の攻撃で飛ばされていた。
「おっかねぇなあのツメの攻撃。」
天井を見上げて、
「どうにかなんねぇかなぁ。」
攻略法を考えながら、ふとある言葉が浮かんだ。
世界は変わっていくもの。そして歪められるもの。
「どんな気持ちで言っていたんだろう。俺らはカルヴァトーリを倒したいと言っていたのに。」
ときどき見せた不思議な笑顔が思い返される。
「もっと早く気づければ…………。」
勝てたかもしれない。そう言おうとしたが、
「あれ?でも結局こうなっちゃうのか。昔から決まっていたことだし。うーん……。」
「あ!いた!」
「サディ?」
「何してるの?大丈夫?」
「ああ。」
「さ、行こう。……ってハルト?」
「……どちらも自分を正しいと思ってる。」
「へ?」
「だから争うんだ。……俺はまだ和解の道があると思ってる。」
「……。」
「言葉でわかり合う道があるなら……。」
パンッ。
「なっ。」
サディが頬を叩く。
「何ふざけたこと言ってるんだ!ここで止めなきゃ悲しみの連鎖は終わらない!」
「でも……。」
「お父さんと約束したんでしょ?倒すって!」
「それは……。」
「僕は怖かったけど……ハルトが……。」
「お前も孤児?」
「……うん。……ぐすっ。」
「じゃあ一緒にオラシオンに入ろう!」
「え?」
「やり返せるんだよ!強くなって戦うことができる!」
「……死にたくないよぉ……お母さん……。」
「一緒なら大丈夫。な?」
「カッコいいなって思ったんだ。僕にも何かできるんじゃないかと思ったんだ。それなのに、あと少しのところで何を言ってるんだ!!」
「ごめん。」
「仇を討って!」
「それじゃ一緒なんだ。」
「!」
「僕らも、彼らも。殺し合い、悲しみ、憎み合う、無限のループの中にいる。」
「……。」
「何とかできるのは今しかない。」
「……。」
「やっぱり駄目か?」
「……言いたいことは分かった。」
「!」
「でも僕にも解決法は思いつかない。」
「そうだよなぁ。」
「誰もがハルトのように考えているわけでもない。」
「……。」
「とりあえず皆のところに行こう。話はそれからだ。」
「分かった。」