[17]1つの人生
セイラが使ったのは弓矢ではなかった。
「うわっ。」
「まるで生き物のように刺が動く。」
「ふふっこれが本当の私。どう?格好いいでしょう?」
「……。」
「負けませんよ!」
「いくぞ。」
しかし攻撃はことごとく防がれてしまう。
「あなたたちの戦い方は知っているわ。」
「くそぉ。」
「何でもっと早く気づけなかったんだ。」
くすりと笑う。
「そりゃああなたたちが愚かであるからよ。」
「同じ人間だろ?」
「そうよ。分かりやすいヒントも教えていたのに。」
「?」
「未知の生命体ではないことをね。」
「どういうこと?」
「サーヴ神話。」
「!」
「神の名を、もちろん別の意味をも持つけれど、私達の名前にした。」
「それが同じであることを示していたのか。」
(ユーリさんはときどき不思議な表情をしていた。どこか悲しげで皮肉めいた顔を。それは僕らに対して……怒りを抱いていたからなんだ。)
「ま、いいわ。お喋りは終わり。」
セイラの猛攻が始まる。
「避けるので精一杯です…。」
「強い…。」
すると、
「ぐぁぁぁぁっ…。」
「!」
「リトス!」
「あと5人ね。」
「おい。大丈夫か?」
「駄目だ…もう…。」
お腹が貫通していた。。
「あとは頼んだ。……あいつらを必ず……!」
ふと父親の顔が浮かび歯を食いしばる。。
「……ああ。約束する。」
「やっぱり知らないこの方がやりやすいわね。情も何も無いし。」
「なんてことを!」
「戦争なんだから割り切らなきゃ。友の屍の上を進め!ってね。」
「ふざけんなよ!」
「楽しみねぇ。」
急に上空から人が降ってきた。
「見つけたぞ。」
「あらあら。」
「誰?」
「なんで入ってきてるのかな、ジン?」
「下がっていろ中坊。こいつは俺が倒す。」
あまりの形相に下がるハルトたち。
「怒っていらっしゃるようで。」
「あたりまえだ。」
「手合わせするのは何年ぶりかしら?ふふっ。」
「まるで別人だな。……!」
(1人やられている。が、この傷……。)
「セーイラー?助けに来たよ。」
「エル!」
「さっきの!」
「この男は私が相手をするわ。あっちの5人をお願い。」
「はーい。」
「君らに恨みは無いけど仕方ないよね。」
「黙ってやられる俺らじゃない。」
「そうかい!」
「ははははは!たのしいねぇジン!」
「何がだ!」
「ふふっ。」
(なかなか手強い。)
「くっ。」
刺の一斉攻撃を躱すが、
「ジェイナ!」
「えっ?」
ドスッという音がした。
「きゃぁっ……。」
「あれれ、当てちゃった。あなたが避けたせいね。」
(やっぱりそうだ。)
「この方法もありね。」
「うわぁぁ。」
「エル!」
「へん!どうだ!」
「やっぱり駄目か。」
「おい!」
「何かしら?」
「お前殺人事件について何か知っているな?」
「いいえ。」
「嘘をつけ!俺は傷跡を見た……同じだ!あの隊員のと!」
「同じものを使う人がいるかも知れないわよ?」
「スパイであったことを考えても、お前が……。」
これまで顔色1つ変えなかったが、急に、、
「はははっはははは。」
大笑いし始めた。
「何がおかしい?」
「ふふっ。ご名答。」
「な!」
「犯人は私よ。だって”過去”が暴かれそうだったんだもの。まぁ結局無意味だったけど。あなたたちは真実を知ったんだから。」
「貴様ぁぁ!!!!」
「なーにそんなに怒ってるの?つながりは無いと思ってたけど、もしかして好きだっ……。」
ものすごい速さで攻撃をする。
「珍しいわね。まぁいいじゃない。真実が知れて、そのうえ私のスパイが分かったんだから。」
「ふざけるな!」
「だから言ったじゃない。灯台下暗しだって。」
「……なっ。」
「ふふっ。」
2人の力はほぼ互角だった。
「とりつく島もないね。」
「うん。」
刺を片っ端から切っていくジン。
「回復するのが面倒ね。」
「そりゃあよかった。。おりぁぁぁっ!」
会心の一撃を防ごうとするも、刺が耐えきれず直撃した。
「やった!」
その場に倒れるユーリ。急所は外したようだった。
「っやられたわ。」
「お前とはいろんな事があった。」
「突然何?」
「親玉はどこだ?」
「殺さないの?」
「生きてこその償いもある。」
「……あなたも私と同じで知り合いはやりにくいのかしら?」
「……。」
「そこまで!」
「うーん。やっぱりジンは強いや。」
「アルもなかなかだったよ。」
「2人に遅れをとってるなぁ。」
「そんなことは気にしないの。それぞれのペースがあっていい。」
「ありがとう、ユーリ。」
「お!そろそろ食事の時間だ!行こう。」
「そうね。」
「ああ。」
「今日はなんだろなあ!……うわっ。」
「ちょっ大丈夫?」
「壁にぶつかる馬鹿、初めて見た。」
「馬鹿ってひどいなぁ。」
「もうっふふっ。」
「2人ともーー!」
「ああ楽しい。永久に続いて欲しいくらいに。」
「僕も!2人といると楽しい!」
「大げさだな。ほら行くぞ。」
「はーい。」
(あれは……本心だったのかもしれないな。……俺はお前が憎い。でも、なぜか手が震える。思い出が、楽しい時間がよみがえる。ああ、くそっ。)
「…早くすれば?回復しちゃうわよ?あなたに殺されるなら文句はないわ。」
「俺は…大将の首を捕る。」
「は?」
「いつぞやはお前にとられたからな!」
「何を言うかと思えば…いいわ。」
パチンッ。指を鳴らした。すると、
「うわあああああ!」
目の前に基地が現れた。
「近いからトラップがあったんだけど。」
「すげぇこんなんだったのか!」
「いくといいわ。地下に進めばマスターはいる。」
「いいのか?」
「さぁね。」
「すげぇすげぇ!まさに魔王城だ!」
「うるさい!あんたね…いたた。」
「無理はしないで。」
『セイラ。』
「!」
『何をしている?遊びではないぞ。』
「無理です。」
『何だと?』
「私も人間。長い時間をともに過ごしたものたちを、何も感じずに殺せるほど私は…冷酷になれない。」
『……。』
「命令に背き、敵を招き入れる。許されなくて当然…。」
『分かった。』
「!」
『私が決着をつけよう。お前にこれ以上の苦痛を…与えるわけにもいかんよ。』
「了解しました。」
巨大な門が開いた。
「いってらっしゃい。」
「ユ…セイラさん…。」
「健闘を祈るわ。」
「行くぞ!」
ジェイナを残し、中に入っていった。
「どうして?」
「どうしてでしょうね。心は時に理屈では説明できないものよ。」
「…。」
「さあて、どうなるのかしらね。」