表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/21

[12]なにもかもを恨んで笑う

おさ、これからどうしますか?」

「いっそ国ごと滅ぼしちゃおうぜぇ。」

「確かに……先のことは分からん。少し考えさせてくれ。」

 数日後、全員が集められた。

「これからのことを話す。よく聞いてくれ。」

 皆が心配そうに見つめていた。

「まず始めに研究所を跡形も無く壊す。」

「研究所を?」

「そうだ。あやつが行ったこと全てを無かったことにするのだ。」

「どうして?」

「そんなことしたら……。」

「いいんだ。」

「どういうおつもりですか?」

「そして我々に関する情報をできるだけ国から消す。脅したって良い。」

「それってつまり……。」

「そう。サゼルの民は、魂人みたまびとなどというものは”なかった”ことにしてしまおう。」

「それに何の意味があるっていうんです?」

「民衆はこのことを知らない。権力者もいずれ代替わりしていく。そうしていくうちに忘れられていく。これこそがチャンスなのだ。」

「忘れられていくことがチャンス?」

「我々は別の存在なのだ。国の脅威になる未知の生命体、カルヴァトーリだ。」

「なるほど。」

「え!?よく分かんない。」

「待つのか?」

「人々にかりそめの平和を与えようではないか。」

「面白い。」

「ただ滅ぼすだけでは、何も学ばない。積み上げてきた物が全て壊れたとき彼らはやっと気付くだろう。」

「馬鹿な奴らだな。」

「我々の恨みをぶつけるのは今では無い。」

「でも何も知らない、罪のない人を殺したら同じことをしてしまうのでは?」

「先にけんかを売ってきたのはあっちやろ。」

「やろうぜ。」

「まず研究所に向かうぞ!」


「まずいです。奴らの大軍がこちらに来ます!」

「なんだと?」

「いったいなにが起こっているのだ……。」

「っ迎え撃て!」

 間もなく研究所は戦場と化した。

「お前たちがいたから、我々は……!!」

「跡形も無く破壊せよ!」

「待て。」

「何だ?」

「壊せば、国民に怪しまれるのでは?」

「確かに。」

「……火事ということにしないか?」

 残された研究員たちは1カ所に集められ、そして研究所の至る所に火がつけられた。

「すべて、すべて燃えてしまえ!」

「やっやめるんだ。悪かったから、な?」

「過ぎたことは戻らない。」

「全員まとめて消え失せろ!」

 研究所は全焼し、関連する資料、機械は無くなった。

「これでいいんですよね?」

「ああ。」

「家族を殺した奴を殺してやったぞ!」

「次だ、国家にも情報が残っているはずだ。」

「でも、どうやって?」

「難しいことだな。国民に知られてはいけないのだから。」

「失脚させればいい。」

「……?」

「我々が裏から手を回し、権力の座から墜とす。そのあと殺す。」

「名案だな。」

「国に残る資料はどうする?」

「ううむ……。」

「誰かが潜入できれば……。」

「それだ!」

「は?」

「我々の誰かが王政に関与できれば。」

「内部の資料が消せる。」



「カルヴァトーリの一人が長官になることで、国内に残る物全てを消し去り、研究所のこともうまくごまかした。」

「そんなことが可能なの?」

「もちろん。もともと国籍を持っているからな。まぁ脅しもあっただろうけど。」

「だから国には何もない、と。」

「私達が何も知らないわけだわ。」

「君たちに忘れさせることで、復讐では無い別のシナリオを作り出した。」

「……。」

「未知の生命体との戦い、というシナリオをね。」

「別のシナリオ…。」

「その後も疑われる度に消していった。」



「あれからだいぶたちましたね。」

「そうだな。」

「でもまだ少し残っているみたい。」

「面倒だなぁ本当に。」

「で、このあとは?」

「……。」

「回りくどいことは止めようぜぇ。」

「……組織を作るか。」

「はい!?」

「よくあるじゃないか。」

「何がです?」

「ヒーローと悪の組織との戦いというものが。」

「ははっ。」

「面白いことを思いつくものですね。」

「そうだろう?」

「組織かぁ……拠点を作らなきゃですね。」

「拠点、どこにしますか?」

「マーフェスに決まっている。」

「我々の住むべきはあそこだ。」

「でももう国の手に渡っているのでは?」

「奪い返せばいい。簡単だ。」

 そうしてマーフェスはカルヴァトーリのものになった。

「どのようなものを作りますか?」

「やっぱでかいのがいいだろ!」

「絵本とかに出てくる怪しい城とか?」

「地下だな。」

「地下?」

「地上は簡単な作りにしよう。」

「えーーーー。」

「魔物の住む地下神殿、なんてのをテーマにしてみたのだが?」

「地下に行くほど敵が強くなるやつ!」

「それも面白い。」

 国内に潜むカルヴァトーリの手も借りながら建設は進められた。

「いいものができそうですね。」

「そうだな。」

「すみません。ここをこんな風に変えたら面白くないでしょうか?」

「……ああ。ぜひそうしよう。」

「ありがとうございます。」

「楽しんでくれているな。」

「そうですね。」

「やはり日々の生活はこうであるべき。革新を求めるのもいいが、最も大切なのは充実感だろう。」

「はい。」

「皆、痛みを抱えながらも前を向いてくれている。」

「……この先はどうなっていくんでしょうか?」

「誰にも分からんよ、そんなこと。」

「我々の計画はどこまで上手くいくのやら。」

「なあに、長い人生だ。楽しもうではないか。」



「こうして、マーフェスに巨大な城が建てられた。」

「つまり私達は……。」

「お前たちのシナリオに乗せられていた。」

「大正解!」

「ふざけるな!」

「あらら、怒っちゃって。」

「そんなに軽いことか、これは?」

「ええ。」

「人の命など自由自在だと?」

「……。」

「やっぱり、ユーリさん……ううん、カルヴァトーリは間違っている。」

「かもね。」

「シナリオのすり替えじゃ無い。現実逃避っていうんだ。」

「現実逃避?」

「辛い現実から逃れるために別のことをする。自分たちの本当の姿を忘れるために『物語』を作りあたかも違うものを演じた。」

「ハルト……。」

「戦争は……人の命はそんな簡単じゃない。」

「あなたの言うことも正解だと思うわ、私は。」

「え……??」

「いつか言ったわね、物事は多面体だと。どこにも正解はなくて、人は事に直面するその都度、自分の思う最適解を選ぶだけ。私達にとっての最適解は、別のシナリオを作ることだった。」

「正解は……どこにもない…………。」

「ここにいる人たちの気持ちが分からない訳じゃない。けど、始まったものは戻らない。私は物語の終わりまで自分を信じてみようと思うわ。」

「……。」

「話を戻しましょうか。城が完成してから今に至るまで。」

(自分の思う最適解……。)

「ハルト?どうしたの?」

「ん?いや、何でもない。」

(全てを知ったとき、俺は……。)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ