[12]なにもかもを恨んで笑う
「長、これからどうしますか?」
「いっそ国ごと滅ぼしちゃおうぜぇ。」
「確かに……先のことは分からん。少し考えさせてくれ。」
数日後、全員が集められた。
「これからのことを話す。よく聞いてくれ。」
皆が心配そうに見つめていた。
「まず始めに研究所を跡形も無く壊す。」
「研究所を?」
「そうだ。あやつが行ったこと全てを無かったことにするのだ。」
「どうして?」
「そんなことしたら……。」
「いいんだ。」
「どういうおつもりですか?」
「そして我々に関する情報をできるだけ国から消す。脅したって良い。」
「それってつまり……。」
「そう。サゼルの民は、魂人などというものは”なかった”ことにしてしまおう。」
「それに何の意味があるっていうんです?」
「民衆はこのことを知らない。権力者もいずれ代替わりしていく。そうしていくうちに忘れられていく。これこそがチャンスなのだ。」
「忘れられていくことがチャンス?」
「我々は別の存在なのだ。国の脅威になる未知の生命体、カルヴァトーリだ。」
「なるほど。」
「え!?よく分かんない。」
「待つのか?」
「人々にかりそめの平和を与えようではないか。」
「面白い。」
「ただ滅ぼすだけでは、何も学ばない。積み上げてきた物が全て壊れたとき彼らはやっと気付くだろう。」
「馬鹿な奴らだな。」
「我々の恨みをぶつけるのは今では無い。」
「でも何も知らない、罪のない人を殺したら同じことをしてしまうのでは?」
「先にけんかを売ってきたのはあっちやろ。」
「やろうぜ。」
「まず研究所に向かうぞ!」
「まずいです。奴らの大軍がこちらに来ます!」
「なんだと?」
「いったいなにが起こっているのだ……。」
「っ迎え撃て!」
間もなく研究所は戦場と化した。
「お前たちがいたから、我々は……!!」
「跡形も無く破壊せよ!」
「待て。」
「何だ?」
「壊せば、国民に怪しまれるのでは?」
「確かに。」
「……火事ということにしないか?」
残された研究員たちは1カ所に集められ、そして研究所の至る所に火がつけられた。
「すべて、すべて燃えてしまえ!」
「やっやめるんだ。悪かったから、な?」
「過ぎたことは戻らない。」
「全員まとめて消え失せろ!」
研究所は全焼し、関連する資料、機械は無くなった。
「これでいいんですよね?」
「ああ。」
「家族を殺した奴を殺してやったぞ!」
「次だ、国家にも情報が残っているはずだ。」
「でも、どうやって?」
「難しいことだな。国民に知られてはいけないのだから。」
「失脚させればいい。」
「……?」
「我々が裏から手を回し、権力の座から墜とす。そのあと殺す。」
「名案だな。」
「国に残る資料はどうする?」
「ううむ……。」
「誰かが潜入できれば……。」
「それだ!」
「は?」
「我々の誰かが王政に関与できれば。」
「内部の資料が消せる。」
「カルヴァトーリの一人が長官になることで、国内に残る物全てを消し去り、研究所のこともうまくごまかした。」
「そんなことが可能なの?」
「もちろん。もともと国籍を持っているからな。まぁ脅しもあっただろうけど。」
「だから国には何もない、と。」
「私達が何も知らないわけだわ。」
「君たちに忘れさせることで、復讐では無い別のシナリオを作り出した。」
「……。」
「未知の生命体との戦い、というシナリオをね。」
「別のシナリオ…。」
「その後も疑われる度に消していった。」
「あれからだいぶたちましたね。」
「そうだな。」
「でもまだ少し残っているみたい。」
「面倒だなぁ本当に。」
「で、このあとは?」
「……。」
「回りくどいことは止めようぜぇ。」
「……組織を作るか。」
「はい!?」
「よくあるじゃないか。」
「何がです?」
「ヒーローと悪の組織との戦いというものが。」
「ははっ。」
「面白いことを思いつくものですね。」
「そうだろう?」
「組織かぁ……拠点を作らなきゃですね。」
「拠点、どこにしますか?」
「マーフェスに決まっている。」
「我々の住むべきはあそこだ。」
「でももう国の手に渡っているのでは?」
「奪い返せばいい。簡単だ。」
そうしてマーフェスはカルヴァトーリのものになった。
「どのようなものを作りますか?」
「やっぱでかいのがいいだろ!」
「絵本とかに出てくる怪しい城とか?」
「地下だな。」
「地下?」
「地上は簡単な作りにしよう。」
「えーーーー。」
「魔物の住む地下神殿、なんてのをテーマにしてみたのだが?」
「地下に行くほど敵が強くなるやつ!」
「それも面白い。」
国内に潜むカルヴァトーリの手も借りながら建設は進められた。
「いいものができそうですね。」
「そうだな。」
「すみません。ここをこんな風に変えたら面白くないでしょうか?」
「……ああ。ぜひそうしよう。」
「ありがとうございます。」
「楽しんでくれているな。」
「そうですね。」
「やはり日々の生活はこうであるべき。革新を求めるのもいいが、最も大切なのは充実感だろう。」
「はい。」
「皆、痛みを抱えながらも前を向いてくれている。」
「……この先はどうなっていくんでしょうか?」
「誰にも分からんよ、そんなこと。」
「我々の計画はどこまで上手くいくのやら。」
「なあに、長い人生だ。楽しもうではないか。」
「こうして、マーフェスに巨大な城が建てられた。」
「つまり私達は……。」
「お前たちのシナリオに乗せられていた。」
「大正解!」
「ふざけるな!」
「あらら、怒っちゃって。」
「そんなに軽いことか、これは?」
「ええ。」
「人の命など自由自在だと?」
「……。」
「やっぱり、ユーリさん……ううん、カルヴァトーリは間違っている。」
「かもね。」
「シナリオのすり替えじゃ無い。現実逃避っていうんだ。」
「現実逃避?」
「辛い現実から逃れるために別のことをする。自分たちの本当の姿を忘れるために『物語』を作りあたかも違うものを演じた。」
「ハルト……。」
「戦争は……人の命はそんな簡単じゃない。」
「あなたの言うことも正解だと思うわ、私は。」
「え……??」
「いつか言ったわね、物事は多面体だと。どこにも正解はなくて、人は事に直面するその都度、自分の思う最適解を選ぶだけ。私達にとっての最適解は、別のシナリオを作ることだった。」
「正解は……どこにもない…………。」
「ここにいる人たちの気持ちが分からない訳じゃない。けど、始まったものは戻らない。私は物語の終わりまで自分を信じてみようと思うわ。」
「……。」
「話を戻しましょうか。城が完成してから今に至るまで。」
(自分の思う最適解……。)
「ハルト?どうしたの?」
「ん?いや、何でもない。」
(全てを知ったとき、俺は……。)