一番最初に異世界もの流行らせた奴は今すぐ俺の目の前に出て来い
いいか、絶対に許さないからな。
お前、明日死ぬわ。
あ、前髪跳ねてるよ。くらいのノリでそんなことを最近占いにハマっている友人からさらっと余命宣告を受けたのが六時間前。たった今、俺は死んだ。
生命線短過ぎる……と絶望的な目で俺を見る失礼な友人の顔が走馬灯のように流れながら、急ブレーキの音と誰かの悲鳴を最後に俺の人生はそこで終わりを告げた。痛みを感じる間もなく、ただ真っ白な世界を漂った俺が思ったことはただ一つ。
おい山田、明日じゃなくて今日じゃねぇか。
「あーあ、交通事故か。最近多いんだよねーそれも若い、まだ寿命が残っていた人を引き殺されちゃうと書類がまた面倒で面倒で」
「それって本人の前で言っていいことなのか?」
「あれっ聞いてた? 閻魔様には言わないでね怒られるから。あーまぁとりあえず君、地獄行き」
「……うえええええ?! 何で?!?!?!?!」
「だって君、昔ピンポンダッシュしたことあるでしょ。駄目だよーあれ何回もやられたらノイローゼになるんだから。いつ次されるか考えすぎて夜眠れなくなって挙動不審と人間不信になるんだから」
「いやいやいやいや小学生の頃にやらかしたピンポンダッシュくらいで地獄行きとかいくらなんでも基準低すぎだろ! しかも俺がピンポンダッシュやったのはあの一回きりだし……第一そんなことしたら殆どの人が地獄行きじゃねぇか! 鬼かよ!」
「鬼だよ」
「……うわぁああ?! 本当に鬼だ! マジもんだ!」
「失礼だなー、人をUMAみたいに」
「その類で間違いないだろ!」
次に目が覚めたらそこは既に地獄の入り口だった。現世では裁判が気が遠くなるほど長いというのにこちらはものの一分で判決が下された。意義あり裁判長待って下さいこんなのは酷過ぎます!
「いやー今天国満員でさ。入れないから大体は地獄行きなんだよねぇ。ただまあそんな悲観的にならないでよ。地獄って言っても永遠に生き返れず、死ねないのに死ぬくらい辛い思いをするだけだからさ。とりあえず落ち着いて、」
「出来ないよ! そんなこと言われたら尚更出来ないよ!」
今の話聞いて落ち着ける奴がいたら逆に心配になるだろ! それは既にこの世にも何にも未練のない悲しいやつか、現状も理解できないような救いようのない馬鹿だろ!
「えーでも君って天国に行けるような善行らしい善行してないじゃん。大して驚くような出来事もなければ拍手されるようなことすらあんまないし。28歳でそんな人生送ってきたんだから今更地獄行きなんて怖くもなんともないでしょ?」
「平凡こそ至高の毎日! 戻れないあの頃の退屈だった日々! そりゃ確かに他人に羨まれるようなものではにけど馬鹿にされる筋合いはないぞ! 俺の人生に謝れ! 」
「あ、よく見たら君犯罪歴もあるじゃん。ほら、昔買ってた金魚の餌やり忘れて大量虐殺したことあるでしょ? りっぱな殺魚犯だよー」
「いやだから基準が低いよ! 第一殺魚犯ってなんだよ?! てかそんなのまで犯罪歴としてカウントされてんの?!」
このままだとピンポンダッシュと金魚の餌忘れだけで地獄行きにされてしまう! そんな人生ってないだろ! いやもう俺の人生自体は終わってるけれども!
そう思いながらも死後の悲惨な人生を変えるべく、俺は出来る限りの力を使って抗議しまくった。
だって俺の犯罪歴ってどっちも小学生の頃のだし! それで悪人として地獄行きならこの世に善人なんていないだろ! そんなことをまくしたてるとだんだん面倒になってきたのか、鬼は手に持っていた書類の束をペラペラとめくりながら俺に妥協案を提示してきた。
「手伝い?」
「そそ。最近は天国も地獄も人が足りなくてね。本当ならこんなの君みたいな一般人に頼むことじゃないんだけど……まぁ、君まだ寿命は残ってるし。今ちょっとつっかえてる業務を手伝ってくれたら天国行きを考えてあげてもいいよ」
「そこまでして漸く考えて貰えるレベルか……」
本来は問答無用で地獄行きだからね、と言われて押し黙る。くそー、こんなことだったらクラスでぼっちの木村に話しかければよかった。それくらいで天国に行けたかは分からないが何せ今の俺には出せるカードがない。既に詰みだ。三パス目だ。
「で……手伝いって何するんだよ? 俺自慢じゃないけど大抵のことは平均レベルしか出来ないぞ」
「君、異世界転生とか異世界転移とかって知ってる?」
「……タイムトラベルみたいな……?」
「まぁそんな感じ。ただしトラベるのは時間じゃなくて世界そのもの」
「To LOVEるみたいに言うな」
「やってることは一種の黒魔術みたいなもんだよね。こっくりさんとかでもいいよ。勝手に次元を捻じ曲げて、別の世界に行っちゃったり、別の世界から人を呼んだり。そういうのがね、最近多くて困ってるんだよ。なんせそれされちゃうとあとで書類に困るからさぁ」
「お前らそれしかないのか」
さっきからそれしか言ってないし、最重要みたいに言ってるけどそれお前の都合だろ。もっと他に優先順位高いのをちゃんと見てくれ。困るのはお前じゃなくて俺とか俺とか俺とかなんだから。
「いやね、実際本当に困るんだよ。俺たちの管轄はこの世界で死んだ人間を地獄か天国に振り分けること。それなのに勝手に次元捻じ曲げて別の世界を行き来されてみ? もしもこっちの世界で産まれた奴があっちで死んだりしたら俺たちがその世界まで言って魂を回収しに行かなきゃいけないし、行ったら行ったであっちの鬼と揉めたりするし、かと言って放って置いたら転生システムで死んだ人間の数が合わないからエラー起こるし、そのせいで書かなきゃいけない書類が増えてまた残業になるし……」
「あー……えっと、でもそれって原因分からないのか? 誰が転生するのかとか」
「分かるわけないだろ。誰がいつ死んで転生したりそのまま転移するかなんていざするまで分からないんだから。世界に人間が何人いると思ってるんだよ。うじゃうじゃうじゃうじゃ増えやがって。いっそ一掃してやろうか」
「何その魔王的思考」
「魔王ならよかったんだよ。倒せばいいから。だけど原因が神様とかの場合が多いからもっと困る」
「えっと、俺どこからつっこめばいい?」
「いや、そのまま黙って聞いててくれ」
「らじゃ」
とりあえずお口チャックでそのまま聞いておくが、大体要約すると……
1、俺が異世界に行く
2、あ? こいつ地球出身じゃね? 強制送還!
3、強制送還させたやつがどうして異世界に来ることになったのか原因探す
4、原因が異世界にあるなら出来る限り原因を潰して二度と起きないようにする
※重要なポイント!
・地球出身者かどうかは気合で見極める
・転生の場合は数をこなせばその内法則が分かるかもしれない
・転移の場合は原因が必ずあるので付き止めなくてはいけない
・ここまでしても天国行きの保証はない ←ウソダロ!
なるほど。分かりやすくまとめてもクソゲーもしくは無理ゲーって感じだな、うん。というか、これって俺がやっていいことなんだろうか? というより、出来るのか?
高校三年間をオール4という前代未聞の成績を持つ俺ぞ? 担任にお前みたいな生徒は初めてだよって苦笑いされた武勇伝を持つ俺ぞ?
「仕方ないだろ。そりゃ本来は人間にやらせることじゃないが、俺たちが直接行くことはできないんだ。生きている人間に接触するのはご法度でな。破ると二年間雑用係になる」
「雑用係?! 緩いな鬼の刑!」
「かと言って人間に接触せずに済む案件でもないし、だから今まで仕方なく手つかずになっていたが……お前が協力してくれると言うのならそこから片付けようと思う」
「協力するとは言ってないが……まぁ背に腹は代えられないしな。えっとつまり、俺は同じ世界から来たような人を探せば……って、それどうやって見つけるんだ? 異世界の人口が地球の何億倍も少ないって言うのなら可能だが」
「規模はその世界にもよるが、大体地球と同じくらいじゃないか? まぁ人類に限定すると少ない場合が多いが」
「その言い方だと人外がうようよしてるんだな……」
まぁ異世界って言うと真っ先に浮かぶのはRPGみたいな世界だもんな。モンスターとか吸血鬼とかエルフとかいそうだもんな。
いや、それでもやっぱり異世界人と地球人なんて見分けつかなくないか? 一人だけ分かりやすく黒髪黒目とかならともかく、転生だったらもう見た目も分からないだろうし、異世界で日本語話したりしてくれそうにはないし……。
これってもしかして世界規模でウォーリーを探せだったりするのか? 無理ゲーにもほどがある。せめて縞々の服を着てくれ。
「いや、その辺については多分大丈夫だ。何故か異世界に行くような奴は大体目立った行動をしたり、異世界にはない文化を広めていたり、そういう知識を知っていたりするからな。よく探せばその内見つかるはずだ」
「地球人って自己主張強いんだな。ん、でも中には目立ちたくないからって暗躍する奴とかもいるんじゃないか?」
「ああ、俗にいう傍観ってやつだな。だがそれも大丈夫だ。そう言うやつも大体自分は目立たず地味にしているつもりでも気づかないだけでじわじわ目立っていたりちょっとしたことで噂になってたりするから」
「先祖全て忍者と言われていた日本人とは一体なんだったのか」
いや、勿論そんなの外人が喜ぶネタではあるんだけどさ……まぁ大和撫子も侍もとっくに滅んでるんだから忍者も何もないけどな。因みに俺は忍者よりは侍派だしもし異世界で武器を持つことになるならその時は是非日本刀を使いたい。異世界にあったらだけど。剣道とか授業でやったことあるだけで全然出来ないけどチャレンジするくらいは許されるよな?
「さて――説明も終わったところで、それじゃあ今からお前には異世界に行っても大丈夫なようにいくつかスキルをやるよ」
「そうだな。このまま身一つで放り出されたらそこで二度目の人生を終えることになるもんな」
「まずは絶対に必要な『強制送還』とそれに伴う『強制押収』のスキル。お前と同じ地球人に使えばどんなに抵抗したくてもどんな未練があってもどんな試練を与えられていても絶対に即地球に送還、その際そいつの現在持っているスキルを全て押収するというものだ。勿論地球人以外に使っても効果はないが、このスキルが公になると地球からきた奴らが身をひそめるようになるかもしれないから気をつけろよ」
「お、おう……」
これってもしかしなくても、地球で死んで異世界に転生した奴とかはこのスキルで地球に戻る……ということは再び死ぬんだろうか。そして地球で地獄に落ちるのだろうか。え、天国行き? いやその可能性は相手が聖人でない限り考えない方がいいだろう。
……だけどその原因になった俺って、そのことで犯罪歴が増えたりなんかしないよな? 少なくとも一人送還する度に多大な恨みを買う気がするんだが。だってもしそいつが魔王を倒すために召喚された勇者とかでも強制送還ってことだろ? ……恨みを買うのは一人で済むんだろうか。最終的にどれだけの恨みを買うことになるんだ俺は?
あ、いや、中には地球に帰りたいって奴もいて逆に感謝される可能性もあるんじゃないか? そうだよな、不本意なパターンもあるかもしれないしな……うん。とりあえず、今は全部忘れておくとしよう。
「それから『世界を駆ける翼』。これであらゆる世界を行き来できる。ただし、これはどこかに地球人がいる世界にしか行けないからな。また、その世界に地球人がまだ残ってる場合も他の世界に行くことは出来ない。だからとりあえず一人送還したらこれを使ってみろ。もしどこにも行けなければ、その世界にまだ地球人がいるってことだ」
「……同じ異世界に地球人が何人もいることってあるのか?」
「何言ってんだ。二人、三人は珍しくもないし、最近じゃクラス単位で転移されたりするぞ」
「クラス単位で?! えっそれ同じ高校のクラスメイト全員異世界にいるみたいな感じなのか?!」
「ああ。そのクラスメイト全員がそれぞれの使命を背負った勇者とか言い出す場合もある」
「めっちゃ勇者の値打ち下がるな。市場が暴落するんじゃないか?」
「そのうち町とか国単位で転移する奴も出てきそうで怖い」
「何それ怖い……」
それは最早異世界乗っ取りだろ。なんだその新ジャンル。誰得なんだよ。需要があるかどうか分からないが、あるとしたらそれはそれで怖すぎるわ。
「あとは『全世界共通言語の取得』だな。これがあればどの世界のどの国に行っても言葉が分かるし文字が書ける。これがないと言葉の取得から始めなきゃいけなくなるからな」
「うわ、それは確かに面倒だな。結構考えてくれてるみたいで助かるよ」
「いやそんなペースで仕事されると俺お前のこと忘れそうだから」
「こんな大事なこと任せておいて?!」
「それで最後のスキルだが――」
「本人すらも置いて行くスタイル!」
言っとくけどそれはマイペースとは言わないからな! 自分のペースで生きていくということは他人を置いて行くことでも他人に置いて行かれた時に使う言い訳でもないからな! 別に誰に向かって言っているとかでは決してなく!
「それだけで異世界に行ったらお前は普通に死にそうだからな。俺からの選別だ。固有スキル『平均化』をお前にやるよ」
「……『平均化』……? それってお前に貰うスキルなのか? 生前から俺が持ってたスキルとかじゃなくて?」
「これは第一印象も仲良くなったあとも言われる台詞の第一位が『普通の人』という悲しい奴のことじゃなくて、『全ての能力値をその世界の平均にする』というスキルだ」
「お前結構俺の生前のこと詳しいなおい!」
しかも知ってほしくないしなんで知ってんだよって思うようなところを的確に! 悲しいとか言うな自分でも思ってるんだから!
ていうか、こういうのは大体仕事がスムーズにいくような凄いチートスキルが貰えたりするんじゃないのかよ?!
「お前このスキルを甘く見るなよ。このスキルがあればこの地球に置いて平凡、異世界では落ちこぼれになるしかないであろうお前でも『その世界での平均的な身体能力や知力』があるし、当然今はない魔力とかも手に入るし世界によっては魔法も使える。世界が違えば勝手も違うんでな。一つの世界に行くだけならまだしも、色んな世界に行く場合はこういうスキルの方がいいんだよ。中途半端に『身体能力向上』とか『治癒力増加』とか『防御力ダイヤモンド』とかにすると世界によってはクソみたいなスキルに変わったりするし」
「えっマジかよ。俺的にそれらがあればとりあえず大丈夫そうなんだが……」
「『語彙力で勝負する世界』とか『コーディネート勝負で地位が決まる世界』とか『中世ヨーロッパみたいな貴族社会』とかだったらクソスキルになるだろ」
「本当だ身体能力も治癒力も防御力も意味ねぇ! クソだ!!!」
確かに、その場合『平均化』のスキルはどの世界でも対応できる優れたスキルだ。
だって俺今言われた三つの世界に飛ばされたらすぐ死ぬ自信あるもん。語彙力ないしセンスないし高い教養とかないし。それがその世界の平均値になるならとりあえずは生きていけそうだしな……。
「それから、これはスキルと言うよりは俺の作ったアイテムみたいなものなんだが……『マーカー』と『万能収納具』をお前に貸してやる。『マーカー』は、もしかしたらこいつ地球人かな? とか、なんか地球人についての情報知ってそうだな? とか思った奴に会った場合にこれを使えば、この先どこにいてもそいつの居場所が分かる。ただし俺のマーカーは5色しかないからな、6人目を保存したければどれか1人を消せ。頭の中で念じれば自動的に出来るようになってるから」
なんかその言い方だと俺が異世界で殺生をしないといけないみたいだろ。ちゃんとマーカーを消せて言えよ。分かっててもその顔で言われると背中が寒くなるんだよ。
「あと『万能収納具』だが、これはなんとなく想像つくだろ? どんな大きさのものでも吸い込んで収納するし出そうと思えばすぐ出せる。まぁアイテムボックスってやつだな。ただそれと違って持った時に思い浮かべた形に変わるから、リュックでもただの袋でも箱でもその時良さそうなものにして常に持っとけよ。なくしたら殺すからな」
「そこは俺が念じれば好きに出して好きに消せるとかじゃないんだな」
「スキルじゃなくてアイテムだって言ったろ。誰かに盗まれたら入ってるものも一緒に盗まれるからな。勿論中は見えないから何が入っているのか分からないと出せないが、お金とかは盗まれかねないから用心しろよ」
そうだな。たったさっき感激した『平均化』のスキルがあっても持ち物全部盗まれて身包み剥がされたら残るは奴隷ルートしかないもんな。肝に銘じておくよ。
「そんで最後が『ナビゲーター』だな。世界によってはお前の『平均化』した知識では役に立たない場合もあるからこいつをつけとく。こいつは『全知全能』のスキルを持つからな、聞いたら何でも答えてくれる。ただし答えてくれるだけで他には何もしてくれないから、まぁ百科事典だと思っとけ」
「異世界版百科事典……いや、想像しただけでかなり助かりそうだ。俺あんま異世界系のって詳しくないしな」
山田なら詳しかったんだが、あいついっつも昼休みその話ばっかりするから殆ど聞き流してスマホゲームとかやってたしなぁ……。
まさかこんなところでオタククラスメイトの話をもっと真面目に聞いておけばよかったなどと後悔する羽目になるとは思わんだ。いやだってあいつの話長いんだもん……異世界系の話って今すげぇいっぱいあるらしくていつまでも喋るネタが尽きないみたいだし……。
……ん? そう言えば俺、結局いくつ異世界飛行しなきゃいけないんだ? 正直規模が全く分からないんだが。
「規模って言われても、それこそ考える奴の数だけあるからな」
「? 考える奴の数だけ? えっと、それがどういう意味かは分からないんだが、数で言うと……?」
「さあ……とりあえず10万くらいじゃないか?」
「え? 何、急に戦闘力の話?」
「悪いが俺の戦闘力は260だ」
「初期大魔王様じゃん。現代で考えれば普通に強い。地球簡単に征服出来る強さある」
後半0が延々と続く数字になるから感覚麻痺してくるけど最初は1万超えるだけで地球人としては破格だったんだよな……まだみんな地に足つけて戦ってたし……。
野菜人沢山出てくるようになってから急に数字劇的に増えて最終的に全員当然のように空飛び始めるけど。伝説とか言われてたのに気がついたら子供がなるしⅡとかⅢとか終いにはゴットとか言い出してよく分からなくなるけど。
「まぁそれでも面白いから人は全てを許す――って、はあ?! じゅ、10万?! なんだその頭悪い奴が言い訳代わりに使うような数字?! その数の中で何人いるか分からない地球人探していくとか何年かかる作業だそれ?! 俺二度目の人生今度は大往生とかしない?!」
「だから今まで誰も手をつけてこなかったんだろうが。あとお前もう死んでるから。それ以上は年取らないっていうか、その辺はサービスで10年くらい若くしてやるから泣いて喜べ」
「泣くけど喜べねぇよ! てかそれで俺天国行き考えるレベルとかどう考えてもおかしいだろ! 即天国行きもおかしくないだろ! 第一お前らの基準だと誰だったら天国行けるんだよ?! どんな僧よりも徳積みまくるぞ俺!」
「人間が生きている時間で積んだ徳如きが数万年生きる鬼に通じると思ってんのか? たまに私は虫も殺したことがありませんとか抜かす坊主来るけどそんなん資料には乗らないからな。毎日座ってただけで誰も救ってやしないくせに偉そうにしやがって」
「生まれてから死ぬまで殺生しないなんて現代世界で生きるうえでどれだけ大変だと思ってんだお前! それが資料に乗らないでなんでピンポンダッシュは犯罪歴に乗るんだよ! おかしいだろ!」
「傷つけなかった人を記録するんじゃなくて傷つけた人と助けた人を記録していく感じなんだよね。だからお前は地獄行きなんだよ分かる?」
「くそっ反論の余地がない!」
やっぱりあの時木村に声をかけるべきだったんだ! 更に言えばその後親友になってさえいれば今頃は違っていたかもしれないと言うのに……!
「因みにな、善行はいくつ積んでも絶対に悪行を帳消しにすることはないからそれも覚えておくといいぞ。何人救っても殺人歴が消えることはない。意図しなかった殺人に悔やんでその後100人救おうがその死んだ一人は永遠に死んだままなんだから当たり前だろ?」
「死後の世界はどこよりも厳しいんだな。その理論だとジャンヌ・ダルクとかも地獄行きだし」
「俺の管轄は日本だからそいつは知らないけど、最近で天国行きになったのはごく普通のおばあちゃんだったな。人と口論がしたことがあるくらいで、感謝されてきた数が普通の人間の3倍くらいあったから第一審査で天国行きだった。久しぶりに天国行きの説明なんかしたわ俺」
「そのおばあちゃんすげぇ。てか第一審査とかあるんだな」
「善行と悪行が多いと長引くことがあるから凄いと何十審査とかまで行くぞ。まぁ君は第一審査で地獄行きだったけどね(笑)」
「いや(笑)じゃねぇわ。てかお前今初めて笑ったな。なんでここで笑ったのかは検討もつかないけど、笑った顔ムカつくから今まで通り仏頂面でいて欲しい」
「お前鬼に向かって凄い口聞くね。今すぐ地獄に落としてやろうか?」
「言葉通り?!」
地獄に落とすはよく喧嘩とかで聞くけどこんなに怖いことはないだろうな。
というか職務乱用じゃないのかそれは。いや、そもそも俺にこんな仕事頼んでいる時点でまともな仕事はしてないが……。
「あー、うん。もうとりあえず面倒なことは抜きにして一回やってみようぜ」
「トランプのルール説明が面倒な奴の言う台詞はやめろ! 第一やってみようって、一回やってみて駄目だったら救済措置をくれる奴だけが言える、」
「はい最初だけ強制送還~いってらっしゃ~い」
「おいごら待てぇええええ!」
一生懸命伸ばした腕は憎らし気にこちらを見て手を振る無気力な顔をした鬼には届かず、代わりに空気に溶けるようにして消えた俺の体は今まで感じたことのない浮遊感と、頭に残り続ける言葉だけを残してその場から見事すっぱり消え去ったのだった。
あー、とりあえずだな。
一番最初に異世界もの流行らせた奴は今すぐ俺の目の前に出て来い!!!
元は連載用に考えていた設定だったのですが、プロットが一行に進まないことと、とても完結できる気がしなかったためプロローグだけを短編風に仕上げました。需要があったら連載も考えたいと思っています。