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シュートの悪魔シリーズ

シュートの悪魔2

作者: 神楽京介

 「東の地獄、西の天国」あの男はそう言った。「知っているか」

 「わかりません」彼にはこう答えるしかなかった。彼にとっては東と西どちらも地獄だったからである。

 この郵便の地域区分局の輸送ゆうパック部には大きく分けて東と西のシュートがある。

 「物量が違うのだ。政令指定都市がほとんどを占める東シュートは当然のように物量が違ってくる。貴様は理解していないのか」

 男の言葉に彼は何も言い返せなかった。そんなことを考える余裕などなかったのだ。ひたすら荷物のコードを読み取り、正しいパレットに放り込むだけの生活を送ってきた彼を誰が責められようか、だがこの男は彼を責めた。

 「楽をしたいならシュートを理解しろ。楽をしたいための準備を怠るな」

 大言壮語を吐くこの男はやがて課長や副部長に連れられ局を後にする。暴言を吐いたためである。

 「貴様は何をしている!」

 男の声がこだました。なんという声量だろうか、誰もが動きを止めた。一人のシュートコーディネーターが地面に荷物を置いたのである。シュートにあふれた荷物を地面の置くことでシュートの決壊を回避することは禁止されていない。荷物があふれたときには地面に置いてもいいとアナウンスされている。だが、男の考えは違った。

 「荷物を地面に置くことは敗北だ」男はそういった。「荷物を地面に置く時間があるならパレットにその荷物を積めばいい。貴様はその荷物を地面に置いて他のやつに処理してもらおうと考えているな。自分だけが助かろうとしている。その行為、シュートを放棄しているに等しい。許されざる行為である。消えろ、貴様など必要ない」

 その言葉の後、モニターで監視して異変に気づいた課長と副部長が彼らのシュートに駆けつけた。

 「こいつ、なんとかしてくださいよ。パワハラじゃないですかー」

 地面に荷物を置いた男は怒鳴り立てた。彼は動けなかった。気持ちではあの男をかばいたかった。だが、言葉が出ない。

どういえば、課長を納得させられるのか。思いつかなかった。

 「ちょっと、こっちに」

 課長と副部長に促されてあの男は連れて行かれた。彼はその姿を見ていた。無表情で見ていた。

 退勤間際、あの男を連れて行った課長に呼び止められた。

 「チルドの担当をやってみないかな。真面目だからぜひやってほしいんだ」

 彼は無表情で答えた。「寒いんですか?」

 「寒いけど仕事は楽な方だよ。シュートはしんどいでしょう」

 彼は課長の目をじっと見ていた。チルドなど誰もやりたがらない。都合のいい生贄がほしいのだと彼は納得した。

 「自分はまだ未熟なのでもう少しシュートで頑張っていきたいと思ってます。すいません」

 課長は、目を伏せて彼の視線を回避した。後ろめたいことがあったのだろう。だが、課長を責めることはできない。

 彼もこれが仕事の一つなのだ。彼にもそれは理解できた。それでも譲れなかった。深く一礼すると、彼は素早く踵を返してその場を後にした。少しでも早くこの場から去りたかった。

 今日は休みである。心を癒やすためにラーメンでも食べに行こうかと彼は考えた。



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