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ママと呼ばないでっ!  作者: 黒砂糖
2/7

その2






「いや~すごい迫力だったね~」


 にこにこしながら教室の机で突っ伏すわたしに牛乳パックを手渡すのは、私よりも遥かに背高で大柄でありながら私と同い年の幼なじみという非常識な特権を有する少女。

 小鳥遊(たかなし)朱鷺(とき)

 幼稚園ではじめて会った時は私よりも小柄で「おねえちゃん❤」と舌足らずな可愛い声で私がどこへ行くにも私の後ろをちょこちょこついてくる世界一可愛い妹だったのに、とっくの昔に背丈も成績も私を追い抜いてしまった学園一の才女。

 高校一年で東大模試A判定ってどこのギフテッドよ。

 そんな私の想いを知ってか知らずか、彼女は不審そうに私の顔を覗き込む。


「あれ、飲まんの?」


「飲むぅ~!」


 朱鷺の手にある牛乳パックをひったくるようにして一気飲み。

 乙女の成長に牛乳は必須。

 無心に嚥下する私を、じーっと眺める幼なじみ。

 今朝の騒動の顛末を聞きたいんだろうなあ。

 ため息一つ。


「……聞いてた?」


「聞いてた聞いてた」


 私が反応するや、多忙な母親にようやく構ってもらえた娘のようににこにこして応える。


「通学バスから降りた途端あの大炎上だもの、てっきり御堂真奈美さまが現実(こっ)世界()に転生したかと思ったよ~」


 誰だよ御堂真奈美って。


「で、やっぱりアレなの?」


「アレですわよ、奥さま」


「櫻子先輩だったらアレじゃないと思ったんだけどね~」


「櫻子先輩だったらアレじゃないと信じていたのに……!」


 肩をぷるぷる震わせてぶわっとあふれる涙を両の手のひらで覆う私によしよし、と髪を撫でて慰める朱鷺。

 そう。

 私はモテる。

 確かに。

 だが、私が望んだのはもうちょっとその手心というか、真っ当でノーマルなモテかただったはず。

 それがどうして――。




「バブみを感じる女子高生総合ランキング一位・小日向陽菜さん」(ニヤニヤ動画)


「出会って即オギャる女子高生殿堂入り・小日向陽菜さん」(オギャッター速報)


「母であり娘であり恋人でもあったかもしれない女子高生終身名誉会長・小日向陽菜さん」(赤いお兄さん同盟)




 ――こうなるんだよおおおおっっっ!!?


「おかしいでしょっ!?大体母性を求めるなら、朱鷺のほうがよっぽど母親っぽいでしょうがっ!?」


「私、そんな年齢(とし)じゃなかとよ~」(赤面)


「これが持てる者の余裕か……!」(血涙)


「?」


 おっとりした口調で否定する幼なじみに、仄暗い殺意が芽生える。

 不思議そうな顔できょとんとする幼い仕草とは対照的に、暴力的なまでにたわわに実った見事な果実。

 一方、こちらは地平線が見通せそうなくらいどこまでもフラットで不毛な大平原。

 小学生時代の服が余裕で袖を通せるんだぞこん畜生。

 

「お姉ちゃんは頼りがいあるからね~。しょうがないよ」


 こちらの恨みがましい視線をどう解釈したのか、朱鷺はそんなことをいう。

 ていうか幼稚園時代のその呼び方やめい。


「こんなちんちくりんに母性を求める奴らなんかに頼られたくないっす。いやマジで」


「……そう?」


「そう!はーっ、せめてharunaさんくらいのタッパと美貌とカリスマがあったらなーっ」


「それ、『せめて』っていわなくね~?」


 苦笑混じりの突っ込みに無言で同意しつつ、スマホをぬるぬる操作して表示したのはお目当ての少女の画像。

 haruna。

 「奇跡」「伝説」の二つ名がつくレベルのカリスマ系JKモデル。

 画面越しでも抑えきれない圧倒的なオーラ力を前に、ただただひれ伏すのみ。

 まさに天使。

 畏れ多いことに猫っぽい顔立ちとか声とか私とそっくり。

 光栄至極なことに名前だって一緒だ。

 いってみれば、小日向陽菜の超上位互換ヴァージョン。

 神様、なぜ私をこの美少女みたいに造ってくれなかったのですかぁっ……!

 またしても喉奥からカール自走臼砲がせり出しそうになるのを、間延びした声が遮る。


「そういえば、今日転校生が来るって聞いたけど~」


「またかよ」


 露骨に舌打ち。

 バブみを感じる女子高生を追い求めての転校生(バカ)、いままで何人いたのやら。

 今度はお昼休みの屋上での告白か、それとも朝のホームルームで皆の前での特攻か。

 どっちにしろ真っ黒な未来しか見えない。

 厄日だ。

 うんざりした顔であろう私に、朱鷺はいつものにこにこ笑顔でいう。


「心配するようなことじゃないと思う」


「?」


「きっと今日はいい日になるよ~」


 それだけ言うと、彼女は自分の席にさっさと戻って周囲の友達と談笑に興じ始めた。

 なんのこっちゃい。

 




 結論からいえば、朱鷺の台詞は正しかった。

 そう。

 確かに正しかったのだが――――。





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