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高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  作者: 日々一陽
第1章 この店は、あたしが監視します!
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第1章 第3話

「あたしがお撮りしますねっ! 操作? はい分かります、じゃあいいですか~っ!」


「「「「いえ~いっ!」」」」


 おいコラ温泉卓球部の野郎ども! みんなで鼻の下をビヨ~ン伸ばしてニヤニヤするんじゃねえ…… と心で叫ぶ。


「一平くん、彼女はお客さんでしょ!」


 二畳院さんが慌てて戻ってきた時には卓球部の記念撮影イベントは終わりかけていた。


「そうだけど、手が放せなくて」

「しかし意外ね。三つ葉ってもっとこう、高慢で偉そうで世間知らずでワガママで、ってイメージがあるんだけど、彼女はなんか違うわね」

「そうだね。しかもすっごく可愛いし。あんな子がバイトにきてくれたらいいよな…… な~んてね」


 しまった。二畳院さんの機嫌を損ねたかも……

 恐る恐る悪魔さまの顔色を伺う、しかし彼女は無表情のまま。


「確かにね。滅多に見ない掘り出し物かもね。でも、三つ葉の子がバイトするかしら?」

「ははは、そうだね。きっとすごいお金持ちだよね」


 そんな話をしていると彼女は笑顔で戻ってきた。


「ごめんなさいっ、勝手なことしちゃって」

「いえいえ、こっちこそ申し訳ありません。でも、助かりました」

「あの人たちってマスターのお友達?」

「ええ、カメラ持ってたのが岩本って悪友です。卓球部の仲間を連れてきてくれて」

「なるほど、だから今日は大盛況ってわけですか」

「ははは、まあその通りで」


 彼女は椅子に腰掛けるとまた砂糖だらけのコーヒーを啜る。


「ここって前はメイド喫茶だったんでしょ?」

「はい、よくご存じで」

「どうして普通の喫茶店に?」

「それはその、実はうちの店は先週摘発を受けて……」

「はい、知ってますよ。二次元愛禁止法違反ですよ、ね」

「話題になりましたからね。それでメイド喫茶と言う形態は色々と……」

「反省したってことですか?」

「いいえ、反省なんかしませんよ、ぜ~んぜん(きっぱり)」

「そうね、反省すべきは二次元愛禁止法の方よね」


 僕の横で、誰にともなく二畳院さん。


「悪いって思わないんだったらメイド喫茶にすれば良かったのに」

「でもまた摘発されたら困りますから。朝風総理ってしつこい女ですからね」


 淡々と語る二畳院さん。

 お客さん相手にはスマイル絶やさない彼女なのに……


「もしかして、さくらさんって朝風総理がお嫌いですか?」

「当然でしょ。だってこの店はあの女に潰されたんですよ! この一平くんのお父さんは何にも悪いことしてないのに有無を言わさず逮捕され、国外追放になったんですよ!」

「ホントですか? でも、何も悪いことしてないのにタイホはされないでしょうに?」

「それは」


 僕は何か言おうとする二畳院さんの前に出た。


「容疑は『アンドロイドによる二次元愛の助長』です。父は元アンドロイド研究の第一人者で、研究所をやめても最新のアンドロイド開発を続けていました。父が開発した晶子あきこちゃんというアンドロイドは、我々と同じ食事を摂り、それをエネルギーに動くという画期的なシステムを持っていて、しかも彼女の人工知能は人間と全く区別が付かないレベル。見た目もアニメの美少女ヒロインそっくりで、まさしく生ける二次元ヒロインだったんです。彼女は店でも大活躍で、そのルックスと気の利いた会話でお客さん達に本物のメイドさんみたいにしたわれました。そして遂にはアンドロイドの彼女に本気で愛の告白をしたり、無理矢理抱きしめキスしたり、店外に連れ出しデートしようとするヤツらが現れたんです。それが青少年の健全な育成を阻害したと言い掛かりを付けられて」


 敢えて話はしなかったが、父は彼女を、アンドロイドの晶子ちゃんをまるで自分の嫁みたいに愛していた。いつも真顔で「お前の母さんはこの晶子ちゃんなんだぞ」と言ってはばからなかった。実は彼女を誰より本気で愛していたのは間違いなく父だった……


「なるほどね。しかし、朝風総理が推進した二次元愛禁止法は国会もで承認された、ちゃんとした法律ですよね? 国民の8割が支持すると言う調査結果も……」


「8割のためなら2割は死んでもいいんですかっ! 確かに二次元厨は少数だ。8割には何が楽しいのか分からないだろうね。でも、だからって、それ犯罪なの? 子孫を残せなかったら犯罪なの! そんな法律を…… あの女はそんな法律でこの店を潰したんだ。しかも、まるで狙ったかのように施行と同時にここへ踏み込んできた。あの女は、あの女は僕の家を狙って……」


「一平くん……」


 肩をツンツン突かれた。

 見ると、目の前の彼女、赤いツインテの子の顔から、今までずっと絶えなかった笑みが消えている。


「あ、ごめん。つい語っちゃって。気分悪くしました? もしかしてお客さん、朝風総理のファン、とか?」

「いいえ、ファン、って訳じゃないですよ」

「良かった……」


 でも、知らない人の前で言い過ぎた。

 今後店ではこの話題は避けるべきだな……


「ところでマスター、入り口にある貼り紙ですけど」

「ああ、給仕さん募集のヤツ? 時給安いでしょ?」

「まあ、そうですねっ」


 彼女はまた楽しそうに笑うと。


「あたしが応募してもいいですか?」

「ええ、そりゃあ勿論…… って、えええええええええ~っ!」

「どうしてそんなに驚くんですか? あたしじゃダメですか?」

「え、いや、そんなわけない。ってか、あの時給だよ?」

「はい、分かってますよ。文字くらい読めますし」

「って、三つ葉でしょ! お金持ちだし進学校だし」

「星ヶ丘だって進学校じゃないですか?」

「いや、僕らはその、貧乏だし金ないし、貯金もないし、最近焼肉屋行ってないし寿司屋行ってないしカップ麺ばかりだし……」

「一平くん落ち付いて!」


 二畳院さんはグラスを並べる手を止めて。


「貼り紙にある通り、営業は週末の休日、即ち金土日のみになります。ですからシフトも週末のみ。それでもいいですか?」

「はい、その方があたしも都合がいいです」

「三つ葉のような私立進学校は金曜授業だったりしませんか?」

「そう言うカリキュラムもありますけど、あたしは違うから」

「そうですか。一平くん、彼女の履歴情報もらったら?」

「あ、ああ、そうだね」


 僕は店舗用の電子ノート(昔はタブレットと呼ばれていたらしい)と取り出すと、彼女に手渡した。彼女は小さな水色のポシェットからスマホを取り出すとそこにかざす。

そうして。


「はい、これがわたしの履歴書です」

「ありがとう。えっと、三つ葉高校の2年生で名前は朝風あさかぜもみじさん…… って」


 いや、そんな偶然あるはずない。


「朝風って総理と同じ苗字なんだね。珍しいね。あのさ、同じ苗字だと「や~いはがねの女~」とか言われて、からかわれたりしない?」

「ええっと、それはないですね。だって、彼女は実際あたしの母だし」

「へえ~っ、そうなんだ。お母さんな……ん…… なんだってえええええええええ~っ!」


 朝風もみじと言う名の、その女の子は椅子から立ち上がると、にこりと笑顔で会釈した。

 反応に困り、横の二畳院さんを見ると……

 彼女も驚いていた。

 まるで帽子の中から白いハトが100羽同時に飛び出してきたかのように、完全にフリーズしていた。

 そんな僕らを楽しむように微笑む彼女。

 僕はやっとの思いで声を出す。


「えええっと…… ど、どうして? 総理のお嬢さまともあろうお方が、どうしてここでバイトをしようと?」


「監視ですよ、監視。この店が二度と摘発されないよう、あたしがおふたりをを監視してあげるんですよっ!」



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