第6章 第6話
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
父は大きな拍手に手をあげ、そして頭を下げる。
「ボンジュール マダム エ ムッシュ エ ロボ!」
どんな困ったギャグを飛ばすかと冷や冷やしていたが、案外まともな講演だった。
ってか、面白かった。
話はロボットが社会に果たす役割から始まって、そのために必要な要素、それを実現する機能、その土台となる技術について語られる。図やグラフや父が好みそうな萌え萌のアニメ風イラストを多用してわかりやすく面白おかしく説明していく。技術論を語る父はロボットの対比として必ず人間を持ち出した。研究者として熱く技術を語る父だったが、それらはまだ人間には及ばないと結んでいく。何故か? 父の思想は単純だった。目標が人間である限り人間は超えられない。じゃあ目標を『神』にしたら人間を超えられるのかというとそうではなくて、それは最早人間ではないという。だからわたしは二次元との「融和」を目標にするのだと言う。人間は人間、ロボットはロボット、二次元は美少女キャラあってこそだと主張する。最後は技術論だか哲学だか、それとも二次元談義か冗談なのかも分からない話で結ばれていた。
「赤月先生ってやっぱりすごいわね」
「そうかな?」
「面白くて眠くならないし、そんな切り口があるんだって感心しっぱなしよ」
「父は変わり者だから切り口も変わってるんだよ」
「もみじっちなんか講演聞きながら泣いてたし」
「……」
「確かに面白い話だったけど、泣くほど感動するとはね。さすがはもみじっち」
チラリもみじを見ると、確かに目元が赤い。
もしかしてあいつ、中継とは言え父を見るの初めてなのかも。
さくらさんが何かを悟ってなければいいんだけど……
そんなことを考えるヒマもなく、壇上の司会者にスポットライトが当たった。
ではいよいよ、第80回、全国高等学校ロボットコンテストの結果発表へと参ります。呼ばれたチームの代表者とロボットは壇上へとお上がりください。
3分後。
僕たちは壇上にいた。
努力賞、審査委員長賞、特別賞、第3位と表彰が続いていく。
呼び出された高校の代表と選手ロボットが総理大臣から賞状を受け取っていく。
「あの女、今日は機嫌が良さそうね」
「だね」
「でもさっきからチラチラこっち見てない」
「そりゃ店であんなこともあったし、さくらさん正体バラすし」
「そうね。じゃあ」
「っ!!」
左手に伝わるすべすべと温かい感触。
「いよいよね。緊張するわね」
「うん」
では発表します。
第2位は……
ダダダダダダダダダ……
北海道代表、札幌白峰高校ロボット部!
「やったあ!」
「あ、うん。ありがとう一平くん、聖佳ちゃん」
この瞬間、まだ呼ばれていない僕ら星ヶ丘の優勝が決まった。
白峰高校の表彰が終わると僕らの頭上でくす玉が割れる。
僕はさくらさんと聖佳と3人でハイタッチを交わすと表彰を受けにあの女の前に出た。
僕は代表として賞状を受け取る。
「この前はごめんなさい」
「えっ?」
賞状を手渡した瞬間、あの女は耳元で囁いた。
そうして何事もなかったかのようにいったん後ろに下がる。
「では、優勝チーム代表、赤月一平くん、一言どうぞ」
満席の観客、聞こえる大歓声。
いざその前に立つと足が震えるほどだけど……
それらは全部は畑のカボチャだと思って僕は大きく手をあげた。
「みんな、ありがとう! がんばったな聖佳! 今日帰ったら美味しい鰻を食おうな! ケーキも食べような! みんなありがと~っ!」
その後、司会のインタビューも乗り切ると僕は満ち足りた気持ちで壇上を降りた。
でも、本当の本番はこれからだ。
「ねえ一平くん、あの女と何か話をしなかった?」
「べっ、別に。おめでとうって言われただけで」
「本当? 口の動きが違ったけれど」
「そ、そうかな。見間違いじゃ……」
ヤバイ。バレてる。
「それでは恒例、ロボットインタビューです」
壇上では聖佳と2位、3位のロボットが普段通りの面持ちで立っている。
「ロボットって緊張しないよね」
「そうね、聖佳ちゃん以外はね」
ロボットインタビューはロボコン表彰式恒例のセレモニーだ。ただ単に司会がロボットたちにインタビューをしていくだけなのだが、これが結構面白い。
たいていの場合、ロボットは素直だ。バカが付くほどに。
人間と違って隠しごとをしたり、話をはぐらかしたりせず、バカ正直に質問に答える。
「3位になった気分はどう?」
「怖いです。1位じゃなかったら殺すって、部長が言ってたから」
はははははははっ!
場内から笑いが起きる。
そうなのだ、これがロボットの答えだ。
いや、賢いヤツもいるけどいくつか質問をしていくとどこかでボロが出る。
「あなたを開発したロボット部の普段の姿を教えてください」
「はい、先生に隠れて部室でお菓子食べてます。ジュースも飲んでます」
「大丈夫ですか、そんなこと暴露して」
「はい、先生に言わなきゃ大丈夫です」
わははははは……
「先生方、寛容の精神ですよ、ここは大目に見てくださいね」
司会も慣れたものだ。僕の横で青ざめていた札幌白峰高の連中が安堵の表情を見せる。
「では、優勝した聖佳号です。優勝して言いたいことは?」
「カイジョウのミナサン、学校の皆さん、そしてロボコン関係者の皆さん、ありがとうございました。優勝できたのは皆さんが応援してくれたおかげです」
「すごく模範的な回答ありがとうございます。ところでロボット部の人たちはどんな人たちですか?」
「ヤサシイ一平兄さまとキレイなさくら姉さま、とっても仲良しで、とってもお似合いです」
「なんかおのろけ聞いてるみたいですね。では、ロボット部に秘密はありますか?」
「アルトオモイマス。デモ、ワタシは知りません。わたしが知っていたらすでに秘密じゃありませんから」
「なかなかボロを出しませんね。じゃあロボット部の普段のことを教えてください」
「ヤサシイ一平兄さまとさくら姉さまがケーキの食べさせ合いっこをしています。はいあ~ん、って。勿論ワタシも仲間に入れて貰います」
「そのおふたりは恋人同士?」
「イイエ、ワタシのお父さんとお母さんだから、もっと仲良し」
「それじゃ夫婦になりますよ?」
「ハイ、ジカンの問題です」
「じゃあいつもイチャイチャと?」
「イイエ、もっと心の部分で通じ合ってマス」
結局。
聖佳はさんざん僕とさくらさんのおのろけを披露してインタビューを終えた。
さくらさん困ってるだろうな、そう思いチラリ彼女を見ると「優勝したんだし大目に見ましょうよ」ってな顔をしていた。
「では、いよいよ優勝した聖佳号への優勝冠の授与です。内閣総理大臣・朝風明希さま宜しくお願いします」
いよいよだ。
主賓席から再度あの女が登壇する。
笑顔で彼女を待つ聖佳。
聖佳と朝風総理が壇上で相対する。
「聖佳ちゃんの髪飾りとお母さんの髪飾り、同じだね」
「ひゃっ! って、もみじさんいつのまに」
「さっきからずっといましたよ。背後に」
「忍者か」
壇上では朝風総理の手で聖佳に金色の冠が授けられる。
軽く会釈をした聖佳は冠を授かるとあの女の顔を真っ直ぐに見る。
「…………」
「…………」
そうして。
「ありがとうございます。お母さん」
聖佳はあの女の手を取りキスをした。
「お母さん?」
不思議そうなさくらさんの声。
一方もみじは上機嫌だ。
「お母さんだってさ、お兄ちゃん!」
「えっ? お兄ちゃん?」
「あっ、えっと、さくらさんこれは……」
「ねえ、どういうこと? どうしてもみじっちが一平くんをお兄ちゃんって呼ぶわけ?」
「だからそれはその…… 言い間違い……」
一方、壇上の朝風総理は聖佳に向かって問いただす。
「わたしがお母さん?」
「はい、わたしのお母さんですよね!」
と、突然、壇上であの女が涙を隠すように俯いた。
「ねえ一平くん、あなたやっぱり何か隠してるわねっ!!」
「えっ、それはその……」
「ねえ、もう言っちゃおうよ」
「何を隠してるの? もみじっちも知ってるのね! 言いなさい! 正直に白状しなさいっ!」
「それでは最後に主賓を代表して内閣総理大臣の朝風明希さまからの総評を伺います。総理、宜しくお願いします」
司会の声に小さく頷いた朝風総理は聖佳を軽く抱擁すると演壇の前に立った。




