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高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  作者: 日々一陽
第1章 この店は、あたしが監視します!
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第1章 第2話

 休憩室を出ると、ちょうどお客さんが来たところだった。


 カランカランコロン……


「いらっしゃいませ~っ!」


 笑顔で駆ける二畳院さん。

 普段はクールな彼女だけど、お客さまには朗らかだし、キビキビとしてよく気が利くし。

 経理簿を調べて驚いたけど、父は彼女に普通の2倍の時給を出していた。バイトの中じゃダントツだ。でも、彼女の働きぶりを見ているとそれも納得できる。


「おひとりさまですか?」

「はいっ」

「お好きな席へどうぞ」


 僕への態度とは全然違うよな……

 とか思いつつ店内を見ると、そろそろ空席が目立っていた。


「じゃあ、カウンターへ」


 入ってきたのは赤いツインテールがよく似合う制服姿の女子高生……

 って!!


 カウンターに歩み寄る彼女に思わず目を奪われた。


「いらっしゃいませ。こちらがメニューです」


 僕は彼女の前でメニューモニターを起動させる。

 小型の立体映像投写によるメニュー選択システム、近所のレストランでもよく見かける機械だ。


「へえ~っ、案外普通の喫茶店ねっ」


 独りごちる彼女に二畳院さんはお冷やを差し出しながら。


「本日のコーヒーはタンザイアAAです。ご注文はそちらのメニューからでも、店員をお呼びいただいても結構です」


 その客は笑顔で肯くと、メニューを操作し始める。

 くりりと大きな紅の瞳に愛らしい笑顔。

 だけど、僕らが目を奪われたのは、彼女の可愛さだけじゃない。


「驚いたね」


 小さな声できらら婆さん。


「ほんとですね」


 何に驚いたって、彼女のその容姿は店の人気者だったアンドロイドの晶子ちゃんにそっくりだったのだ。赤く長いツインテールにすらりとしても出るところは出ている背格好もそっくり。まあ晶子ちゃんは顔が二次元の美少女キャラだったけど、彼女も晶子ちゃんに負けず劣らず、すんごく可愛い……


 と。


「いだっ!」

「あら、こんなところに一平くんの足が転がってる、わっ!」

「いでっ! 二畳院さん、何度も踏まないでよ」

「あんまりお客さんをジロジロ見ちゃいけないわ」

「……あ」


 そう耳元で囁くと、彼女はその黒髪から甘い香りを残して去っていく。


「あのっ、本日のコーヒーもらえます?」

「はい、本日のコーヒー、タンザニアAAですね」

「ええ」


 注文を確認すると僕はコーヒーを淹れ始める。

 目の前の彼女はメニューを色々操作したり、店内をぐるりと観察したり、僕の作業に見入ったり、何とも落ち着かない。


「そのメニューから無料で最新アニメもご覧いただけますよ」

「そうなんだ。でも、いいです。あまりアニメは見ないし」


 ちっ、アンチ二次元か。


「お待たせしました。タンザニアAAです」


 僕はカウンター越しに真っ白いカップを差し出す。

 彼女はそのコーヒーを軽く啜ると、口をへの字に結んだ。そうして無言のまま砂糖に手を伸ばした。


 スプーンに1杯、

 スプーンに2杯、

 スプーンに3杯、

 スプーンに4杯、

 スプーンに……


 ひとり頷くと、次はミルクを入れる。


 ドボドボ

 ドボドボ

 ドボドボドボドボ


 最後にスプーンでかき混ぜる。


 ぐるぐる

 ぐるぐる

 ぐるぐるぐるぐるぐる


 ………………


「んっ、美味しいっ! このコーヒー、凄く美味しいですねっ!」


 ぱあああっ! っと、愛くるしい笑顔を咲かせる彼女だが、僕は凄く微妙な気分。

 うちの砂糖とミルク、そんなに美味いか……

 しかしそこは客商売、スマイルスマイル。


「喜んでいただいて光栄です」

「このお店のマスターさんですかあ?」

「はい」

「マスターさん、確か高校生ですよね」

「よくご存じで。星ヶ丘の2年です。そう言うお客さんも高校生?」

「はい」


 首を少し傾げてにこりと彼女。

 その可愛さにカウンターの男どもの視線も釘付けだ。


 と。


「その紺色のセーラーは三つ葉高校、ですよね」


 声はカウンターの中に戻ってきた二畳院さん。


「ご名答ですっ。よくご存じですね」

「三つ葉は名門ですからね。あ、ブレンドひとつね一平くん」

「はいよ」


 そうか、あの超名門私立の三つ葉高生なんだ。

 きっとすっごいお金持ちで頭もいいんだろうな……

 いつの間にか僕の真横に立った二畳院さん。彼女のしっとりとした黒髪からは甘美な香りが漂って……

って、近いよ近い二畳院さん、肩触れてるってば!


「そういう店員さんもやっぱり星ヶ丘ですか?」

「はい、星ヶ丘2年の二畳院さくら。気軽に「さくら」ってお呼びください」

「じゃあ遠慮なくそうさせてもらいますねっ。さくらさんはマスターと随分仲がいいんですねっ!」

「そりゃあ同じ高校ですから」


 ちらり僕を見上げて答える二畳院さん……

 近いよ、近いって!


「あ、あのさ二畳院さん。そろそろ休憩したら、もうすぐ4時だよ」

「そうね…… だけど、文芸部の連中がお帰りだわ」


 彼女は男女4人組の元へ急ぐ。


「休憩って、3時の休憩?」


 赤いツインテの彼女は二畳院さんを目で追いながら。


「いや、昼の休憩なんだ。彼女はまだ昼ご飯も食べてなくて」

「人使い荒いんですね、マスター」

「ははは、面目ない……」

「お~い赤月~っ、写真撮ってくれ~っ!」


 その声はクラスメイトの岩本いわもと、卓球部4人組で写真撮ろうとスタンバっている。

 おい、お前ら、男ばっかで写真撮って何が嬉しいんだ?

 それに今、僕はコーヒー淹れてる真っ最中だし二畳院さんはレジだし、きらら婆さんはトイレチェックに行ったし、普及型ロボットは役に立たないし……


「あたしが撮ってきましょうかっ?」


 そう言うが早いか椅子から颯爽立ち上がり駆ける彼女。


「あっ、だいじょう……」


 僕の声が尻すぼみになる頃には、彼女は笑顔で岩本に声を掛けていた。




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