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高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  作者: 日々一陽
第2章 おっぱいスキャンダル
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第2章 第4話

     ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 予想された言葉だったけど、意外な理由だった。


「三つ葉に来ませんか!」


 彼女と別れて家への道を歩きながら、その時のことを振り返る。


「やっぱりそういうことなんだね。お母さんに頼まれたんだ」

「違います。これはあたしのお願いです。前にも言ったようにあたしは母から何も頼まれてません!」

「じゃあどうして? 僕が三つ葉に行っても君には何もいいことないだろ?」

「一平さんのためですっ! ツインフェアリーズを再開して、母の顔に泥を塗るという目的はもう達成したんでしょ! 国会でもあの演説は失笑ものだったと問い詰められ、母は発言を撤回までしたんですよ。だったらもういいじゃないですか! 何も意地にならなくても!」

「でも謝罪はなかった!」


 さっきまでの楽しい空気は一変した。


「だってそれは…… 一平さんのお父さんは逮捕容疑を認めたんでしょ。摘発自体は問題なかったわけで……」

「問題だ! そもそもあの法律が問題だ!」

「一平さんが三つ葉に来ないのは、母が嫌いだから、ですか?」

「そうだ。もみじさんには悪いけど、絶対許さない」

「あたしが何を言ってもダメ、ですか?」


 彼女はツインフェアリーズを再開した目的は知っていても、僕とさくらさんの誓いは知らない。それは、あの女への復讐。あの女のおでこに落書きをして、あの女を辞任に追い込む計画はふたりの最重要秘密事項だ。


「無駄だよ。悪いけど、三つ葉には絶対行かない」

「じゃあせめて、せめて、あたしの話を聞くだけでも」

「……」


 彼女の真剣な眼差しに、僕は小さく頷いた。


「先週のこと…… お店が摘発された翌週のこと。珍しく母は早い時間に戻ってきて、そしてあたしに言うんです、「今日、2年に転校生が来たでしょう?」って。でも、あたしそんな話聞いてないから、知らないって答えたら、驚いたような顔をして…… そして、「きっと明日来るから」って言って。けれども次の日も、その次の日も、転校生は来ませんでした」


 彼女は小さく深呼吸をする。


「結局、転校生は来ないまま週末になり、金曜遅く戻った母はネットを見ながら涙をぬぐいました。見ていたのはツインフェアリーズが再開するという小さな記事…… 勿論そのことで母が国会で責められたことは知ってました。でも、あたしには怒ってる風には感じなかった。母のあんな姿、初めて見た。だから……」

「君がどう感じたかは知らないよ。でも、そんなこと僕には関係ない。そもそもあんな法律つくって、父を逮捕して国外追放になんかしなけりゃよかったんだ!」

「それは………… ごめんなさい」

「あ、いや……」

「母は政治家です。人に恨まれることもしたのでしょうね。それは否定しません。あたしが謝って済むとも思ってません。だけど、あたしはそう感じたんです。あたしの話はそれだけです」


 深く頭を下げて、最後に見せた笑顔は、とても悲しげだった……


 日もとっぷり暮れた家へと続く広い道。

 黒く沈んだ空を見上げてゆっくり歩くと、なぜか彼女のあの笑顔を想い出す。

 あの女は絶対許せない。

 なのに何、この罪悪感……


 並んだビルの向こう側、街の灯に照らされて白い喫茶店が浮かんでくる。

 いつもより重い足取りで店に近づいていくと、入り口の前に誰かが立っていた。

 長い黒髪にすらりしなやかなシルエット。弱々しくこっちを向いた彼女に思わず駆け寄った。


「さっ、さくらさん! こんなとこで何してるの!」

「遅かったわね一平くん」

「遅かったって、どうしてここに立ってるのさ」


 手に赤い鞄と白い傘を持った彼女は疲れ切ったようで。


「ごめん一平くん。お願いがあるの。不動産屋さんまで付き合って」

「何だよ、どうしたんだよ」

「お店が閉まるわ、歩きながらお話しましょ!」



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