第2章 第1話
第2章 おっぱいスキャンダル
月曜日、予鈴5分前になっても、さくらさんは来なかった。
いつもは早くから静かに本を読んでいるのに……
「おい赤月、お前うらやまけしからんぞ。なんだあのハーレム状態は! 二畳院さんと一緒ってだけでも許せないのに、もみじちゃんまでバイトに雇っちゃって」
「いや、僕の嫁は魔法少女の彩華ちゃん(はあとまーく)だけだから」
「またまた~、そう言ってごまかす~ もう騙されないぞ。開店前とか閉店後とか、赤月のハーレムじゃん!」
「きららばあさんもいるだろ」
「ああ、あの愛嬌ある婆さんね。お前ストライクゾーン広すぎね?」
隣の席から岩本がウザイ。
親友の岩本は昨日も来てくれた。一昨日は卓球部の連中と一緒だったが、昨日はひとりで。まあホントはチョットだけ僕を心配してくれてるみたいだけど。
「なあなあ、赤月は誰が好みだ? やっぱきららさん?」
「んなわけねえだろっ!」
「じゃあさ、二畳院さんともみじちゃん、あまった方俺にくれ」
「バカ言うなよ、僕らが相手にされるわけないだろ!」
「ま、そりゃそうだけどさ。でも、ちょっとした気まぐれとか、ちょっとした目の錯覚とか、ちょっとしたハプニングとか……」
「うるせえな、そろそろ先生来るぞ」
「ちょっとしたおっぱいぽろりとか……」
ガラガラガラ……
「じゃあ、朝のホームルームを始めるぞ~ 日直は岩本だな~」
瞬間、岩本は急に姿勢を正し一呼吸。
起立! 着席! 礼!
「お前ら~、座って礼するな~!」
起立! 礼! 着席!
「えっと、まずだな~、今日は二畳院が家の情事~、とかで遅くなるそうだ~」
「せんせ~、家の情事、って何ですか~? 家族ぐるみで情事ですか~?」
「すまんすまん間違えた~。家の事情だ~。それから~ 今日は雨だから二時限目の体育は~……」
えっ?
家の事情?
彼女のお父さんは行方知れず、お母さんは実家に帰ってると言ってたけど。その家の事情ってどういうこと? お父さんが見つかったとか、お母さんに何かあったとか? ともあれ、悪い話でなければいいけど……
「なあ赤月、二畳院さんどうかしたのか?」
「いや、僕も知らない……」
結局、彼女が登校したのは4時限目が始まる直前だった。
昼休みになると自分の席で弁当箱を広げる彼女。僕が売店でコロッケパンとメロンパンを買って戻ったときには、彼女の周りにはたくさんの人だかりが出来ていた。
「ねえねえ、あの店の制服って、まるでメイド服ね」
「ええ、元々メイド喫茶の制服だから」
店に来てくれた女子どもが彼女に話しかける。
いかにも典型的な愛想笑いを浮かべる彼女は、しかしどこか元気がなさそうに見えて。
家の事情って何だったのだろうか……
彼女の周りからは友達が引きも切らず、時折僕に視線をくれるけれど、目があった瞬間にサッと逸らされるし……
そんなこんなで彼女と話す機会もないまま放課後のベルを聞いた。
「じゃあな赤月、俺、部活行くわ」
「ああ、また明日な……」
さくらさんは鞄を手にまたクラスメイトと何やらお取り込み中。
なかなか話ができないな……
と、ん?
スマホのSNSに連絡が入る。
ポケットから取り出し目をやると…………
【紅葉ちゃん】
もみじだよ。今日これからデートしましょ!
お店の前で待ってるねっ!
何なんだ、これは。
いきなりこれからとか、どう言うことだ?
僕は(そんなの急すぎ)と返信するけど。
【紅葉ちゃん】
チョットくらいなら待てるから、大丈夫(はあと)!
聞く耳持たねえな、あいつ……
(待っても無駄だぞ、部活あるし……)で送信、っと。
【紅葉ちゃん】
昨日、部活してないって言ったのに。嘘つきいいいいい!
何時までも待ってやるうううううう!
(あの女)は憎いけど、彼女はなんだか憎めないんだよな。
仕方ない、帰るとしようか……
って。
そんなことをしている間に、教室からさくらさんは消えていた。