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高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  作者: 日々一陽
第1章 この店は、あたしが監視します!
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第1章 第7話

ぴんぽんぱんぽ~ん!

タイトル変更しました。

理由はショパンの事情ってことで。


ではでは、1章の最終話、お楽しみください(作者謹白ぺこり)。




     ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「何よ何よ何よ、何なのよ~あの泥棒ねこおおおおおおおおおおおお~~っ!」

「危ないって! 包丁振り回したら危ないって、お~いっ、さくらさ~んっ!」

「一平くんも一平くんよっ! あんな女にあっさりコクられて! 誇りってものはないのっ! 自尊心ってものはないのっ! プライドってものはないのっ! やっぱり胸は大きい方がいいって言うのおおおおおおおおおおおお~っ!」


 予め仕込んでおいた夕食の準備をしながらも、さくらさんは大荒れに荒れた。

 ってか、完全にキャラ崩壊してるし。


「まさかまさかまさかあんな色仕掛けで来るなんてっ! でも一平くんは裏切ったりしないわよねっ?」

「もちろんですよ、ご主人さま」

「この店のご主人は一平くんでしょ~っ! わたしは悪魔よっ!」


 ご機嫌が泥沼だな、こりゃ……


「じゃあ野菜スープとジュースは運んどくよ」


 今日の夕食は彼女とふたり、店のカウンターで食べることにした。

 僕が先に座ると、目の前では美味しそうにチキンソテーを盛りつけるさくらさん。

 でも、その可憐な口元はぎゅっと結ばれ、少しだけど震えているのが分かる。


「お待たせしたわね」


 ……カツン


 アメ色のソースが香る一皿が僕の前に現れる。


 彼女は僕の左に座ると、幼稚園児みたいにお行儀よく手を合わせた。


「いただきます」

「ごめんね、さくらさん。晩ご飯の材料まで買って来てくれてさ。お金は後でちゃんと払うか……」

「何を言っているの? この分は残業10分つけるって約束したじゃない」

「でも食材分は別に……」

「ねえ一平くん! わたしにサービス残業させる気かしらあああああ?」


 ご機嫌90度だな、こりゃ。


「あ、じゃあ、その。いただくね」

「……はい、どうぞ」


 さくらさんはようやく少しだけ微笑み、暫く自分の皿をじいっと見つめる。

 しかし、一向にナイフとフォークを持つ気配はない。


「……じゃあ、お先に」


 暖かくジューシーなチキンソテー、でも今日の味は何か物足りない。


「……ねえ一平くん」


 やおら彼女も肉を一口切り分けると、しかし食べずに皿に戻して。


「一平くんはどう思うの」

「どう思うって?」

「彼女のこと…… 確かに彼女が言う通り、(あの女)がどんなに血も涙もなく残虐非道で一平くんやわたしの家族を切り裂いた悪の張本人だとしても、それはもみじっちの所為じゃない。彼女は(あの女)とは別の人間。もしかしたら、その可能性は宝くじの一等に連続当選するよりもずっと低いと思うけど、彼女は悪い人じゃないのかも知れない……」


「さくらさん、正直に言うよ。僕はね、もみじさんのこと、どうしても悪い人には思えないんだ。もちろん僕たちを監視しているのは事実だと思う。今日だって店のレジとか棚とか休憩室の本棚とかをチェックしていたし。でも、声を掛けたら彼女は「監視作業中ですよっ」ってハッキリ認めるんだ。僕の中に彼女を嫌いになる理由はどこにもない」


「そう、よね。一平くんの言う通りよね。じゃあ、やっぱり一平くんはもみじさんと、その……」

「あ、ああ。それはない。僕の嫁は魔法少女の彩華ちゃん(大好き)だしね。それより何より約束したじゃないか、一緒にやるって。ふたりであの女に復讐するって。それまではそんなこと有り得ないだろ」

「ありがとう…… そうよね、一平くんには彩華ちゃん(やさしい)がいるものね。ホントに一平くんってバカよねっ!」

「バカって何だよ、バカって!」

「バカだからバカって言ったのよ! あんな尻軽な泥棒猫でも日本の総理の娘なのよ」

「『但し』総理の娘、だろ」

「ああ、そうね。それこそが彼女最大のウィークポイントだものね…… さあ、食べましょうか。冷めちゃうわよ」


 彼女は氷よりも美しく微笑むと、自分もチキンソテーを頬張る。


「今日の売り上げも予想の1.5倍だったよ。この調子でいけば……」

「ちょっ、ちょっと待ってね一平くん」


 急に立ち上がったさくらさん、カウンターに入って何かをササッと混ぜ合わせる。


「ごめんなさい。味付け、足りないわよね。このソース使って!」

「あ、ありがとう、悪いね」

「何言ってるの? 悪いのはわたしでしょ? これじゃぜんぜん美味しくないもの。一平くんも不味まずかったら不味いってハッキリ言ってよね」

「そうだね、ごめん」

「また謝る! 違うでしょ、謝るのはわたしでしょ!」


 僕は見ていた、彼女がちゃんと味見していたのを。だから、もしかしたら、この味が彼女の味かと思った。それならば喜んで食べようと思った。だけど、それを言うとまた怒られそうな気がする。


「ともかく食べようか」

「……一平くんは本当に優しいわよね。それに引き替えわたしは……」

「そんなことないよ、僕だって怒るときは怒る。困るよさくらさん、これがもしお客さんに出す料理だったらどうするんだ? 君はうちの看板なんだよ。みんなが君目当てで来てくれるんだ…… ってね」

「はい、ごめんなさいマスター」

「って、はははっ」

「ふふふっ!」


 ……

 なんだか不思議な気分だ。


 学校で初めて彼女を見たとき、きっと僕の人生には何の関係もない人だって思った。それが彼女の第一印象。どこか遠く、声を掛けることすらできない存在。そんな彼女が今、僕の隣で笑っている。


「明日は学校ね」

「そうだね、でも、本当によかったの?」

「何のことよ?」

「店のこと。さくらさんってさ、この店でメイドしてたことを学校じゃ隠してたんだよね。それなのに先週あんなに宣伝してくれて、学校の連中をたくさん召還してくれて。バレちゃったよね、ここで働いてるの」

「ああ、そのことね。別に隠してたんじゃないわ。言わなかっただけ。だけど明日からは面倒くさいことになりそうね」

「そうだね、さくらさんってみんなの憧れの的だからね。男子だけじゃなくって女子にもさ。ルックスだけじゃなくって何でも完璧だしね」


「…………」


「僕は岩本と竹本にスッゲー怒られたよ。どうして今まで教えてくれなかったんだって。さくらさんにお絵かきとか萌え萌えきゅん! とかしてもらえるんだったら、小遣い全部貢いでもよかったのにって」

「ふふふっ、一平くんの親友にだけは今度特別にやっちゃおうかなっ?」

「やめた方がいいよ。あいつらすぐ他の奴らに言いふらすからさ、収集つかなくなるよ」

「それもそうね。でも、お客さん、たくさん来てくれてよかったわね。あの女に復讐する前に空腹で死んじゃ困るものね」

「そうだね。あ、でも君は時給制だから売り上げ減っても関係ないだろ」

「シフト減らされるわ」

「そんなことできるもんか。さくらさんがいなかったら誰も来やしない。腹ぺこで死ぬのは僕だけだ」

「そんなことさせないわよ。一緒に復讐するまで死なれちゃ困るもの。一平くんのお店は絶対に繁盛させてみせるわ。ねえ一平くん」

「……ん? (スープを飲みながら)」


「このお店に問題とか、困ったこととか、何かあったら真っ先にわたしに言うのよ。隠しごととかはナシよ」

「あ、うん、わかった。じゃあ、さくらさんも隠しごとはナシね」

「ちょっと待って、そう言ってわたしのスリーサイズ聞き出そうとか思ってないでしょうね」

「あ、バレた? さすがさくらさん鋭い、ってイデデ~ッ!」

「今夜、一平くんがそれでハアハアするのなら教えてあげてもいいわよ」

「しねえよ、ってか、数字の羅列じゃできねえよ!」

「どうせわたしの胸はざんねんですからねっ!」


 ぱしっ!


「イッデ~ッ ってそういう意味じゃなくってさ。数字は数字じゃん。実際にこの目でどうなってるのか見てみないとなんともって、イデデデデ~ッ!」


 耳を引っ張られたり、頭叩かれたりとやられたい放題な僕。


「もう大げさね、たいして痛くないくせに」

「でも、さくらさんって強そうだし本気で叩かれたら複雑骨折じゃすまないだろ…… って、ん?」


 殴られるかなと身構えた僕に、しかし彼女は腕まくりをして。


「ねえ、触ってみて」

「え、何? 急に腕出して」

「いいから触って。わたしの力こぶ、頑張ってこうなのよ」


 白くなめらかな彼女の腕に触れ、だと?

 非の打ち所なく美しいさくらさんだぞ、そんなこと許されるのか?

 でも、人差し指でちょっと突くだけなら、と思って恐る恐る触ってみた……


 って、なんだこれ!

 スベスベで、ふにふにで、ふにゃふにゃで…… すっごい柔らかくエロっぽい弾力……


「ね、全然硬くないでしょ」

「あ、うん。どこに筋肉あるのかわからない」

「そうよ、筋肉なんて付いてないもの。わたしは脂肪で動いてるから」

「それ、人類じゃないってこと?」

「一平くん、やっぱり死にたいのかしら?」

「いやその…… それは天使とか妖精とか、そう言う意味で……」

「上手い言い逃れね、いいわ、許してあげる。あのね一平くん、わたしは力も弱いし、運動も苦手。見かけでよく勘違いされるけど、足だって遅いし、喧嘩しても一平くんにかないっこない。完璧なんかとはほど遠い、ごく普通の女」


「何か、意外だね」

「……ありがとう。褒め言葉として受け取っておくわね」

「…………」


 結局。

 さくらさんはその日、10分の残業手当で1時間居残った。


 彼女が帰っても、僕の頭は何度も何度も(あの感触)を蘇らせて僕の気持ちを狂わせた。

 すべすべと柔らかい彼女の力こぶ。いや、触ったのは力こぶなんだぞ、力こぶ。それも人差し指でつんつんとしただけ。それなのに何でこんなエロい気持ちになるんだ? ホントになんだこの気持ち。僕ってヘンタイなのか。


 そう言えば、父がいつもアンドロイドの晶子ちゃんを改良しながら言ってたっけ。人間の見た目とか声とかを似せるのは難しくない。でも、人間の温かみを再現するのは難しいって。そしてそれは人にとって一番大切なことなんだって。


 彼女の感触、それは絹のように繊細で、ふにふにと柔らかで、そして……

 って、いけない、これ以上考えるのは止そう。

 明日から彼女を直視できなくなりそうだ。




【あとがき】


 再開したツインフェアリーズは順風満帆。

 さくらと一平の最初の目的も達成されてふたりの仲もきゃっきゃうふふと……なりそうな中、突然現れ、さくらと一平を振り回した朝風もみじ。


 ふたりを監視しすると言い切り、一平に急接近する彼女にさくらの気持ちは火炎逆噴射の連続。果たしてもみじは敵か味方か、それとも……


 さて。

 このお話は150年後の日本と言う設定です。

 その日本では夫婦別姓が当たり前の世界で、週休三日が当たり前の世界で、アンドロイドロボットが当たり前にいる世界。でも人の心も恋する気持ちも何一つ変わっていません。


 一説によると狩猟生活を捨て、危険な争いから遠ざかった人類の脳はゆっくりと変化を遂げて、そうして人の行動も考え方も価値観も変わっていくと考えられているようです。

 まあ、僕が死んだ後のことだしどうでもいいと言えばいいんですが、多分未来ってそう言う変化も含めて起こるのでしょうね。これは即ち人の心も恋する気持ちも変わらない、って言う先の前提を破壊します。朝風総理が力を入れる人口減少対策、2017年の今考えられているその対策常識は150年後に見たら全くナンセンスなのかも知れません。


 でも、この物語では人は人に恋します。人は人を信じます。その辺は安心してご覧ください。


 さて、次章。

 二畳院さくらの強さと脆さ、その鍵は語られざる彼女の過去にあった。

 一平すら驚き、心から突っ込んだその過去とは。

 彼女が朝風総理を心底恨むその理由とは。


 次章「おっぱいスキャンダル」もお楽しみに。



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