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『ずっと好きでした!付き合ってください!』
青春ドラマ的なアレ。
というかまさにソレがテレビドラマとして流れている。
「………!ん~っ、これは使えるかも……」
御子柴は何気ない告白シーンを見ていただけだが、クラスの小悪魔としての悪戯心が疼いた。
◇ ◇
「川中さんの好きな人が誰か知る方法だと」
「ええ」
早速、クラスのちょろそうな男子に声を掛けて、悪戯を試みる。
最初のターゲットは舟虎太郎というクラスメイトだ。
「それも本心。川中が意中にしてる男の理想像って奴が、ちゃんと分かるのよ」
「……それは本当なのか?」
「当然。方法知りたい?」
川中さんというのはこの学年を代表する天使の如き、女子生徒。容姿も顔も、性格もどれも天使に相応しい器量で男子生徒にはとても人気のある女子だ。舟も川中さんに好意がある。
そんな川中さんに好きな男子がいるというのも噂としてあるが、付き合いまでいっていないという。川中さんの好みが分かれば、そいつを除いて、他の男子たちから一歩、いや、二歩以上の有利となるのは至極当然の考えであろう。
「どーいう方法だ?」
「教えてあげるけど、絶対にやって欲しいわね。今日中に」
なんかロクでもねぇやり方な予感。
しかし、
「他の男子に教えたら、きーっと先越されちゃうわよー。次は相場でも良いのよー」
「!わ、分かった分かった!教えろ!すぐにやってやる!実践してやる!」
御子柴の口車に乗り込まざるおえない状況。舟はそのやり方を聞いて、すぐに実行しようと思った。しかし、これを実行するという事は恋の終わりでもあった。
◇ ◇
「か、川中さん!」
すぐに休み時間。川中さんに声を掛ける舟。周りは丁度、移動教室のため離れようとしている時だった。
「どうしたの、舟くん」
「あ、その。ちょっと良いかな?」
方法を聞いたわ良いが、それ完全に公開処刑じゃねぇか。
「授業に遅れるような事になるんだが」
「?大事な話?」
大事な話じゃねぇ。完全にドン引きされる話を今からしなきゃいけねぇんだよ。絶対にデカい声は出さない。まったく条件が整っていないのにヤレという。
クラスに残ったのが、自分と川中だけだという事を確認してから、廊下には響かないように小声で伝える。
「す、好きです」
「へ?」
なんていうか、タイミングおかしいだろ。川中も何を言い始めたの?みたいな表情。
「好きなんだ!」
ちょっとカタコト気味の声で告白。これブレブレ過ぎで、気持ちがまったく入っていない。ある意味、からかっているのではと疑われる。なんなんだよ、その方法。
「えーっと、あたしを?」
「う、うん」
こんな告白がもし決まってしまったら、大号外して欲しい。校門前で俺と川中さんが付き合っている事を堂々と宣伝して、俺達は付き合わなければいけない運命にしてほしい。しかし、逆の気持ちもある。
「ごめん。あたし、好きな人がいるから……」
ですよね~~。
分かっているから、全然、悲しまない。そもそも、遊びが込められたような告白だから絶対に評価が下がったと痛感している舟。
しかし、ここからが御子柴のアドバイスである。
「じゃ、じゃあ。どんな男子が好みなんだ!」
「え、」
振られる事を前提に、その子の好きなタイプ及び、情報を得ようという作戦。
振る理由を辿れば理想像に繋がるという敗北を糧にした告白作戦。でも、これただの罰ゲームじゃね?
男の告白を振るというのだから、川中もただ逃げるだけでは済まないと思っている。気持ち悪いとか、そーいう辛辣な事を言う女子でもないから、この作戦が非常に効果的だというのは舟にも分かる。
「やっぱり、背が高くて、顔が良くて、優しい性格で……四葉くんが好きなんだよね」
ちょっともじもじしながら、舟にはない理由を答えていく川中。これ、完全に俺の公開処刑じゃねぇか!
「でも、将来のことはまだともかくね。やっぱり、一緒にいて楽しい人があたしは好き」
「うっ」
「舟くんも友達としてなら、あたしはすごく良いと思ってるから」
「!?ほ、ホントか!こんな、気持ちのなかった告白をしちまったのに……」
天使だ。川中さんって、やっぱり天使だわ。
「ごめんね、気持ちを汲んであげられなくて」
「いや、こっちこそ。ごめん」
深い意味はねぇけど、これで川中さんの好みを知る事ができたから。実りのある大敗北だったよ。
しかし、川中さんはホントに良い子。四葉が付き合う前に、彼女にしてみせる。こんな俺をまだ友達として思ってくれるんだから、……
舟、やや川中に嫌われるものの、川中に対する感情が増すことになる。
◇ ◇
その頃、
「毎度あり~」
「ま、まぁ。お前の話に乗ってやったからな」
御子柴は相場竜彦から5000円を徴収していた。
「川中さんを狙う男子は多いからな。少しでも川中さんの事を知るために舟を使い、なおかつ舟が川中さんに嫌われるという一石二鳥の作戦。見事に成功させるなんてな。全容を知ったら、やらせてやるさ」
まぁ、言わないけど。あんたから5000円を頂けるから一石三鳥なんだよね~♪
「さすが、御子柴。お前、ホントに悪戯だけはすげぇな」
「うふふふ、まぁ私は楽しめればそれでいいのよ」
黒幕は楽しみつつ、何事もなく儲けるのであった。