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9.病院

人が行き来する音と嗅いだことのある匂い。

薄く瞼を開くと、長細い蛍光灯が目に入った。


廊下を通る人の服装を見て、ここは病院だとわかる。

近くには誰もいない。身体が怠くて、すぐには起き上がることができない。


それより私の身体からはコードが延びていて横にはモニターが置かれている。テレビのドラマなんかで見たことがある、心電図だ。腕には点滴も繋がっている。まるで重病人みたいじゃない。

横になったまま病室を見渡すと、窓から空が見えた。まだ昼間のようだ。


どうしてここにいるんだっけ。

今日は何日?何曜日?


しばらく天井の繋ぎ目を目で辿りながら誰か来ないか待ったけれど、誰も来ない。何回か人は通ったのに、立ち止まる様子はない。みんな忙しそうだ。

枕元にあるナースコールを押すと直ぐに医療スタッフが駆けつけてくれた。若い女性の看護師さんだ。


「目が覚めたのね、気分はどう?頭が痛かったり、ふらふらしたりしない?」


少し頭が痛いと答えると、急に動かさないようにして暫く横になっているように言われた。



ひどく長い夢を見ていたような気がする。

だけど不思議と気分はすっきりしていた。


誰かが病室に入って来る気配がして視線を向けると、母親だった。


私の、懐かしい母親。


「お母さん…。」


少しやつれた様に見える母親は、暫く驚いた顔でこちらを見て思い出した様に駆け寄ると、私が目を覚ましたことを確認するように何度も名前を呼んだ。


「良かった…!お父さんにも連絡しなきゃね。」



話を聞くと、私はあの後夕方まで目を覚まさず、異変を感じた養護教諭が家と病院に連絡して、この病院に運ばれたらしかった。


そして、一週間も眠ったままだった。


「色々調べてもらったけど脳波も心電図も何ともなくて…。このまま植物状態になるかと思った。」


声を詰まらせる母親を見て、心から安堵した。


「心配かけて、ごめんね。」



夕方になると主治医の先生が回診に来てくれた。

その頃には起き上がれるようになり、退院の許可がおりた。


「もうすぐお父さんが車で迎えに来てくれるからね。」


良かった…。

家に、帰れるんだ…!



何がきっかけでこうなったのかはわからない。私の恐怖心が生み出した悪夢だったのかも知れない。


退院の手続きを終えた頃、私が目を覚ました事を聞いて急いで駆けつけてくれた父親が到着した。

ナースステーションに挨拶をし、私は清々しい気分で病院を後にする。


車に乗り込み、ようやく家に帰れると、ほっと一息。


もう怖い出来事は忘れよう。

林間学校の、あの怪談のことも。


ん?あの怪談って何だっけ?



「さあ、帰りましょう、ミント。」


「はーい。」



===あとがき===


『タオルケット』を読んでいただき、ありがとうございました。


実は私自身、小5の林間学校で友達に聞いた「布団から足を出して寝ていると…」の話が忘れられず今だにビクビクしています。


そんな中で生まれたお話。

Web公開の処女作でした。

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