スキとアコガレ
今回は沙英ちゃんと夕輝くんのお話を別視点で。
物語には別視点が必要、そうは思いませんか?
私、安田鈴乃には好きな人がいる。みんなが私に向かって「あの人が好きなんでしょ!!」って口々に言うんだもの。絶対にそうに決まってる。相手は一つ上の剣道部の先輩、遠藤夕輝先輩だ。かっこよくて、イケメンで、ワイルドで、とにかくすごい先輩だ。今は夏休みに入ったばかりで、剣道部員の私は毎日暑い中練習に行く。もちろん遠藤先輩に会うためだ。そうじゃなかったらとっくに辞めている。私は運動神経がいいわけでも悪いわけでもなかったが、運動が好きか嫌いか聞かれたならば、嫌いというだろう。だってみんなから「だるそうに走るね」とかいつも言われているから。
今日も朝から部活がある。私はベットから起き上がって気合を入れた。
「よし、今日も元気にがんばるぞ!!!」
☆ ☆ ☆
部活に来て、今日も遠藤先輩の観察をする。はぁ、いつみてもカッコいいなぁ。
ぽけーっと遠藤先輩を見ていると、顧問の梅山先生に
「こらー!!鈴乃さぼるなー!!!」
とすぐに叱咤される。慌てて返事をして、練習に真面目に取り掛かる。数分後、梅山先生の合図で私たちは休憩に入った。
休憩に入るとすぐに、友達の恵美ちゃんが私の方へやってきた。そしてにまにまと笑うと、いつもの話になる。
「もう、鈴乃いつも先輩のこと見ちゃって、かわいいんだから~~~」
「え、恵美ちゃん…!!やめてよはずかしいよぅ…!!」
「いいじゃないの!!みんなわかってるんだしさ、応援したくなっちゃうんだよね」
桐島先輩も応援しているんだし、絶対イケるって。恵美ちゃんはそう付け足して私の頭をわしゃわしゃ~っと撫でる。と、そこで休憩が終わり、私たちは部活を再開した。
☆ ☆ ☆
あれぇ…なんか遠藤先輩がいないような…
休憩が終わった後の練習メニューをこなしていると、私はそのことに気が付いた。キョロキョロと辺りを見ても、先輩の姿は見えない。それどころか桐島先輩と先生の姿も見えない。どうしちゃったんだろう…?
「は~いみんな~。先生がサボり魔捕まえて説教している間に休憩取っちゃって~」
そこに桐島先輩の声が入ってくる。サボり魔とは遠藤先輩のことだろうか…?遠藤先輩がそんなことしないと思うけどなぁ。
返事をして休憩に入る。休憩中、先生と戻ってきた遠藤先輩は、先生がやめと言うまで素振りをしてから、みんなから離れたところで休憩を取る。私は恵美ちゃんと話していると、急に桐島先輩が私に薄いピンクのタオルを差し出してきた。
「はい、これ~」
「??先輩、私自分のタオル持ってます!!」
「違う~。夕輝に持ってったげて~」
私が自分の持っているタオルを取り出すと、桐島先輩は遠藤先輩を指さしてそう言った。え、でも先輩が持って行ってあげればいいんじゃ?そう思った私の心を見透かしたのか、応援してるって言ったじゃんか~と言いながら私にタオルを握らせ、背中を押す。
「タオル多く持ってきちゃったんでって言って渡しなさいよ~」
「え、あ、はい!!!」
桐島先輩からそう言われて、慌てて返事をする。遠藤先輩の方へ近づくと、何やら忘れたようでカバンの中をガサゴソとあさっていた。
「え、遠藤先輩……!」
「ん?どうした」
遠藤先輩がくるりと振り向き、私と目が合う。はぁ…カッコよすぎて死んじゃうよ…というかどうしよう、ありがとなとか言われて抱きしめられちゃったら…!!!それこそ世界の終わりだね!!!でも世界終わったら困っちゃう…!
「わたし、タオル多く持って来ちゃったので、よかったら使ってください!!」
ようやく言葉が出てきて安心する。でも先輩はタオルを受け取らず、私とタオルを交互に見てなんだな悩んでいるみたいだ。ど、どうしよう…!
私はタオルを床に置き、脱兎のごとく恵美ちゃんの元に戻った。よくやったじゃんとかやったねとか恵美ちゃんが言ってくれて、少し嬉しくなると同時に、きりきりと締め付けられるように胸が痛んだ。
☆ ☆ ☆
梅山先生の号令とともに部活が終わる。私がうーんと伸びをすると、後ろから男の人の声が私を呼んだ。
「安田さん」
「なぁに??」
振り向けば同じ剣道部員一年生男子の須崎弥也くんが、私を見ていた。弥也くんは実は中学校も同じで、中学校三年間と高校一年のクラスが同じだったりする。私とはちょこちょこ話してはいたが、あまり関わりはなかった。
弥也くんは真面目な顔をして、確かめたいことがあるんだ、と私に言った。
「あのさ、安田さんは本当に遠藤先輩のことが好きなの?」
「弥也くん何言っちゃってるの…?好きに決まってるじゃん!」
私は胸を張って答える。そんな私を見て、弥也くんは深いため息をついた。
「じゃあ、どんなところが好きなの?」
「かっこよくて、イケメンで、ワイルドで強そうなところ!」
「それって言ってる内容ほとんど同じだけど。他にはないの?」
「ん~、みんなが好きなんでしょって言ってくるんだから、そうにきまってるじゃん。だってこれが…そう、好き…これが好きなんだ…だよね?違うの?」
私でもなんだかわからなくなってきちゃって、最終的に弥也くんに質問返ししてしまう。弥也くんはそんな私の返事を聞いた瞬間に、こぶしを握ってふるふると震えだす。
「それ以外に思わないのにみんなから言われるってだけで…?なんで、なんでなんだよ。そんなのは絶対に違う…!」
「み、弥也くん??」
弥也くんはそう言い残すと私を置いて帰っていった。
「弥也くん、なんで怒ってたんだろう…」
☆ ☆ ☆
次の日の部活では部長の発表と新人戦まで一週間切ったという話を先生にされた。でも私は昨日の弥也くんが気になって、肝心の部長が誰になったかを聞き逃していた。梅山先生の話が終わった瞬間、みんなはドラ○もんなんているわけないし持っていないし、そもそも先生がそんなネタに走るとは…とざわざわとしていた。弥也くん、どうして起こってたんだろうなぁ。
次の日も、その次の日も、私は弥也くんが怒った理由についてずっと考えていた。
そして迎えた大会当日。いつもなら先輩ばかり見てはしゃぐところなのだが、ずっと弥也くんばかり見ていた。そういえば最近、恵美が私に先輩が~っていう話をあまりしなくなったなぁ。
そのまま大会は終わった。結果は惨敗、当然のように私が足を引っ張りまくっての結果だった。どこかに飛んで行ってしまったみたいに気持ちが入らない。
先生の話も終わり、そのまま帰ろうとすると、恵美に呼び止められる。
「ねぇ、部活で町のお祭り行くって!」
「あ、うん。わかった」
「遠藤先輩に近づくチャンスだよ、頑張ろう!!」
部活のみんなでお祭りかぁ。恵美ちゃんに返事をして、私は家に帰った。
☆ ☆ ☆
「はい、これ前に借りたタオル」
「あ、ありがとうございます」
「こちらこそありがとう、助かったよ」
祭りの会場に来て早々、先輩にピンクのタオルを渡される。あ、これ桐島先輩から渡してって頼まれたやつ…!桐島先輩の方を見ると、しーっというポーズをされたので、私は黙った。また胸がキリキリと傷んだ。
☆ ☆ ☆
「え、遠藤先輩!!」
「ん、何?」
「楽しいですね」
「そうか?」
私はあの後からずっと遠藤先輩の斜め後ろすぐを歩いていた。振り向けば他の部員たちが数メートル後ろからぞろぞろと歩いてくる。そして私が遠藤先輩から離れようとしたりすると、また元の距離に戻される。そんなことが続いていた。さすがにこれ以上は無理、そう思った私は後ろを振り返りバッテンサインを出す。
「っあー…ねぇ、かき氷食べようよ!」
部員の一人がそう言ってくれ、私はこの状況から解放された。
☆ ☆ ☆
冷たいかき氷を食べて、知らずのうちに力が入っていた表情が緩む。遠藤先輩はみんなから離れたところで一人立っていた。しゃりしゃりとかき氷を頬張る私、そこに弥也くんが近寄ってきた。
「ねえ、先輩が好きなんでしょ?疲れてる先輩のためにも、かき氷一口あげてきたらどうなの?」
「え、なんで?ヤダ…!」
「別に僕は安田さんのやつをあげてきたらとは言ってないんだけどな。ほら、僕のを貸してあげるから行ってきなよ」
弥也くんのかき氷を渡されて、足早に先輩の元へ向かう。早く終わらせたい、その一心だった。先輩、一口どうですか?そう言ってスプーンを差し出すと、先輩はいらないからと言いながら後ずさりをした。と、その時先輩がぐらりと後ろへ傾く。見ると、桐島先輩が遠藤先輩を私から離すように、自分の方へ引いていた。
それを見た私は傷つくというより、妙に安心した。これでいいんだと、何故か思った。気が付けば目の前から先輩二人の姿は消えていて、私は一人残される。そんな私の肩を誰かが叩いてくれた。
「…ごめん。安田さん、僕」
「弥也くん、私ね、先輩が好きなんじゃなかったよ。ただアイドルみたいにカッコよくて、恋に恋して憧れてただけなんだ。だから――」
振り向いてにっと笑う。振り向いた時に、相手が泣きそうな顔なのは予想外だったけど、思っていた通り弥也くんが私の肩を叩いてくれた人だった。
「ありがとう、弥也くん!」
さよなら、恋に恋してた私。
この話を読んだ方が、少しでもキャラに共感してくれたらいいなとおもってます。とは言ってもサブのお話なので結構すっ飛ばして書き上げました。
余談ですが私的なお気に入りは沙英ちゃんかなぁ。努力が実らないと話になりませんもの。
気軽に書いた作品がここまで続いて尚、頭の中からぽんぽんアイデアが出てきていて、書いてる本人が驚きです。まさか私が恋愛作品を書くなんてねw