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ツきゆく君との過ごしかた!  作者: はなうた
第二章:ツきまとう。
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幕間:思い出は壁を隔てて



 いっぱい遊んだしいっぱい食べた。なので彼女は眠くなった。



 最低限の物だけが置かれた簡素で狭い部屋の中を、のそのそと、ベッドの方へ歩いていく。

 他の部屋からは物音ひとつ聞こえてこない。どうやらみんな、もうお昼寝をはじめているようだ。


「ふや……ふぅ」


 大きくあくびをして寝そべりながら、クッションに頭を預ける。その水玉模様の青いクッションは彼女のお気に入りだ。


 そのまま、窓の外の景色にぼんやりと視線を流す。


 外では大勢の人たちが行き交っている。子供たちはわいわいはしゃぎながら駆け回り、大人の人たちは難しい顔をしながら早足で……。色んな人が近づいてきては、再び遠ざかっていく。

 そんな光景を眺めながらウトウトしていると、ずっと遠くの方から三つの人影が近づいてきた。


 家族、だろうか。

 小太りの男の人とホッソリとしているが優しそうな女の人。

 そして、もう一人……。

 男女二人のうしろを歩く、無表情の女の子。


 姿形は違えど、どこか面影の似た三人だった。


 ――?


 その中で、女の子だけ、明らかに様子が違った。

 整った輪郭に丸みを帯びた柔らかそうな頬。くりっとした、大きくてキレイな目。

 隣の女の人に似て優しそうな顔だが、その表情はぼんやりとしていてどこか頼りない。

 ずっと遠くを見ているようで、本当は何もその目に映していないような……そんな虚ろを顔に浮かべていた。


 ――どうして、そんな顔をしているのかしら……。


 女の子の無表情を見て、なぜかこちらが悲しい気持ちになってしまう。

 さっきまでの眠気はいつのまにか消え去っていた。今は無性に窓の向こう――見えない壁を隔てた向こうにいる女の子のことが気にかかる。


 両親であろう二人は、しばらく女の子に向かって声をかけていた。女の子の反応は今ひとつ鈍い。

 その会話に耳を傾けながら起き上がる。改めて見ると、女の子の顔は精巧に作られたお人形のように可愛らしかった。


 ――あ。


 ぼんやりと見つめていると、ふと、その子と目が合った。瞬間、心の中で何かが音を立ててせり上がってくる。

 熱くて、ぴりぴりと痺れたような……でもすごく心地よい感覚だった。

 女の子もこちらを認識したようで、円らな目を何度かパチパチとしばたたかせている。


 ――今しかない。


 なんの根拠も理由もなく、そう思った。


 ――どうしたの?

 ――お腹空いたの? それとも痛い?


 ――どうして、そんなに悲しそうな顔をしてるの?


 女の子の耳に届くようにがむしゃらに声をあげる。何度も何度も。

 それでも何一つ、言いたいことは届かない。


 薄々わかってはいた。自分と女の子とを隔てる“見えない壁”は、どうしようもなく厚く、硬いのだ。


 やがて、彼女はすっかり疲れてしまい、ふぅと一息。いつも全力で遊んではいるけれど、こんなに声を出したのは今までなかったかもしれない。

 なんだか悔しい。でも、続きはこの渇いた喉を潤してからにしよう。

 そうして彼女は身を翻し、


「……わぁぁ~」


 酷く感情のこもったその声に、はっと顔を上げた。


 女の子が窓のすぐ側で、こちらを向いていたのだ。どうやら無意識に声を漏らしたようだ。

 その円らな瞳はキラキラと宝石のように輝き、頬はだらしなく緩んでいる。今にも零れ落ちてしまいそうなほど素敵な笑顔だった。


 ――声、届いたのかな。


 その子が初めて見せてくれた屈託のない笑顔。その記憶は数年経った今も、彼女の脳裏で簡単に甦る。


 その笑顔は彼女が、



 メイリが見た――“お姉ちゃん”の初めての笑顔だった。



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