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ツきゆく君との過ごしかた!  作者: はなうた
第一章:とりツく。
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第四話:めいりさんと、また明日



「どうやら、お互いにとって悲しい事態になってるみたいね……」


 冷凍庫の氷と二重のビニール袋で作った簡易氷嚢をその小ぶりな鼻に押し当て、めいりはほんの少し不機嫌そうに呟いた。

 二人は再び涼介の部屋にてテーブルを挟んで座っている。


「その台詞さっきも聞いたな……」


 あれから、めいりは何度かの帰宅を試みた。

 だがそのたびに、目に見えない“何か”に阻まれた。


 まるで壁のような何か。

 その場所で指先を突き出してみると、スポンジのような粘土のような……なんとも言い難い感触がした。

 レーザービームを放つと見事に跳ね返ってきた。めいりは咄嗟に避けたものの、ビームはアパートの屋根の一部を破壊しながら消えていった。

 そのうしろでは、涼介がブリッジの体勢でなんとか生きながらえていた。


 それ以降もあれやこれやと策を講じてみたが、結局めいりは帰れずじまい。


「そういえば以前、どこかの胡散臭い心霊番組でどこかの胡散臭い自称霊能者が言ってたことがあるわ」

「そこからして胡散臭ぇな……」


 初めて出会って数十分。涼介は、めいりの性格とその対応の仕方をなんとなく掴んできていた。

 可憐な容姿と幻想的な雰囲気を持つ少女。

 それとは対称的に、ところどころでおかしな言動を挟んでくる。

 しかも幽霊。けったいな技を使う。

 そのクセ普通に歩いたかと思えば、壁(?)にぶつかって痛がる。鼻を赤くする。


 ……ようは“変なやつ”なのだ。


 だが今回に限っては、マリンブルーの瞳にやや影が差し、表情も真剣だった。


「幽霊っていう存在は時として、“依り代よりしろ”と呼ばれるものに憑くことがあるの。それは無機物であれ、生き物であれ、憑く霊次第だけれど……。一度その“依り代”に憑いてしまうと、霊は魂を縛られてしまう。つまり、霊はそこから離れられなくなるってことなの」

「胡散臭いって言ってたわりにやけにまとまった説明だな……」

「その霊能者、『つまりワシらと霊の社交ダンスや~』とか叫んでたわ」

「うん胡散臭い。ていうかそれお笑いタレントだろ」


 お笑いタレントくだりのグルメリポーターだろ。

 ただ、その話の出所と信憑性は非常に怪しいものがあるが、現状を見てみるとあまり笑えなかった。


 色々と試してみてわかったこと。

 それは、単にめいりが帰れないだけではなく、正確には、


“彼女が涼介の居る場所から一定距離以上離れることができない”


 ……ということなのだった。


「“依り代”に憑く行為は一回ぽっきり。その霊能者“下ノ怪しものけヨシコ”さんがそう言ってた」

「そっちだったか~!」


 色々とツッコミどころのある内容と説明だったが、つまりはこういうことだ。


「めいりは僕を依り代として、とり憑いちゃったってこと……?」


 ようやく痛みがひいたのか、氷嚢をテーブルに置いてこくんと頷くめいり。


「マジか……。それにしても、いったいいつ……て、さっきのアレしかないよな」

「うん。あの薄汚れた傀儡かいらいのモノマネをした時ね」

「そんな忌み嫌わんでも……」


 技をパクられた挙げ句、ボロカスに言われる本場メリーさん。彼女が少し哀れに思えてきた。


「と、いうことで。これからお世話になります」


 めいりはテーブルから少し離れ正座する。そのままうやうやしく三つ指をついた。

 まるで初夜を迎えるお嫁さんのようで、思わず息を呑みそうになる。

 だが、涼介は今それどころではなかった。


「……やっぱり、そうなるのか?」

「とーぜん。わたしはあなたに憑いたんだから、四六時中……それこそ死ぬまで離れられないのよ?」

「うっ……」


 ズバリと言われ、「大変困ったことになった」と涼介は改めて思う。

 自分の周りにまた一人“変なやつ”が増えてしまった、と。

 しかも今回は幽霊で、四六時中ときた。


 今までなら、どんなに疲れることがあっても自宅でのプライベート時間を確保できていた。だからこそ、慣れない一人暮らしもやってこられたのだ。

 だが今回の件で、ついにその“最後の砦”までも崩されるハメになってしまった。


「じ、じゃあ、僕は一生……君にとり憑かれたままなのか? すぐ離れられる方法は他にないのかっ?」


 自分ですら女々しいと思う。だが聞かずにいられなかった。涼介はそれほどまでに逼迫ひっぱくしているのだった。


 その問いに、それまで下げていた頭を上げるめいり。その拍子に白い髪がさらりと流れ、細い肩をワンピース越しに撫でて落ちる。


「方法は、あるわ」

「えっ、どんな?」

「あなたが今すぐ死ぬこと」

「ああ、なるほ…………ん?」


 一瞬、耳を疑う。


「あなたが今すぐ死んだら、わたしもすぐ解放される」

「ん、無理」


 即答だった。

 涼介はまだ十七歳なのだ。ようやくこれから、人生における様々な幸せイベントを経験していく年頃。

 ただでさえ今までろくなことがなかったのに、このまま死んでたまるか。


「そもそも“死ぬまで離れない”って意味じゃ全く変ってないじゃないか」


 そんなことを言いながら、


 ――死ぬまで離れない。


 その言葉はもっといいシチュエーションで聞きたかったと切に思う涼介だった。


「ですよね……。じゃあ、仕方ない。これからどうぞよろしく」

「うぐぅ……、わ、わかったよ。よろしく……」


 めいりの無邪気な笑み(※ただしジト目)を見て、がっくり項垂れる涼介。半ば諦めの境地でそのままベッドに歩み寄り、ぱたりと倒れ込むように体を横たえた。


 もう、今日は疲れた。

 寝よう。

 明日にはきっと良い案が浮かんでるさ。今は、可愛い女の子としばらく過ごすとでも思っておけばいい……。


「わたし、めいりさん。今あなたと添い寝してるの」

「わあ! や、やめい! てかいつのまに!?」


 気配もなく背中にくっついていためいりを剥がす。「いやん」とか媚びた猫声を放っていたが無視した。

 仕方なく涼介はめいりにベッドを譲り、床に座布団を敷いて寝ることにした。


(はぁ~。これからどうなるんだろう……)


 お世辞にも寝心地の悪いフローリングの上で、深く溜め息を吐く。


 まぁ、うだうだ考えても仕方ない。寝る。明日にはなんとかなるだろう……。


 ……。


 なんとか……なるのか?



 全く先の見えない不安に駆られながら、そのまま涼介の意識はまどろみの中に溶け込んでいった。



 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 第一章全体でプロローグの位置づけでした。少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

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