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ツきゆく君との過ごしかた!  作者: はなうた
第五章:ツたえる。
47/51

第三十八話:傾く天秤

※12/21:後半に真殊視点のエピソードを追加しました!



「倒れたって……」

「あ、診たところ命に別状はなさそうなの。どうやらみんな眠ってるだけで。でも結構沢山だから、残った生徒や先生方だけじゃ保健室に運びきれなくて……」


 そして今、校舎にいる生徒たちに応援を求めているらしい。


「その眠っちゃった子たち……あ、御子神先生もなんだけどね。そのほとんどが二年Cクラスのお好み焼き店のすぐ近くで倒れちゃったのよ……。でもたしか柳瀬くんもCクラスだって思い出してね」


 それで陽菜先生は単身、涼介のことを捜していたという。

 彼女なりに心配してくれていたのだろう。


「そ、そうだったんですか……」

(なんだかオオゴトのようね)


 そこでふと、午前のやりとりを思い出す。

 細身な腰に両こぶしを当て、自慢げにふんぞり返るクラスメイトとのやりとり……。


『そしてボクはなんと……料理担当なのだっ』


「……そうだ、然木は?」


 予定通りなら、今も中庭で元気よくお好み焼きを焼いているであろうアイツ……然木は大丈夫なんだろうか。

 涼介は無性に心配になってきた。


 いくら毎日のマシンガンノイズが煩わしくとも、やっぱり涼介にとっては唯一無二の友達。このまま気にせず放っておけるほど涼介も冷酷ではない。

 仮に無事だとしても、その姿を見ないことには安心できない。


(行かないと……。でも……)


 ちらりと、隣でオロオロする真殊を見やる。


 今もまだ、真殊にはめいりが認識できていない。

 今日の文化祭をキッカケにして、自分と真殊がもっと近づくことができれば、もしかしたら……。

 そう思って、今日一日はこの子と過ごそうと決めていた。

 でも……。


 今あっちに行くとなると、二人のことから一旦離れなければいけない。

 もし事が長引けば、二人は永遠に通じることのないまま、別れることになってしまうかもしれない。


「じゃ、私は先に行ってるから! 柳瀬くんもできれば協力して!」


 そのまま来た道を逆走して去っていく陽菜先生。

 一方の涼介は思わぬ壁にぶち当たりその場を動けずにいた。


(涼介、迷うことない)


 めいりが、起伏のない声で言う。


(中庭に行きましょう?)

(え、でもお前……)


 全く迷いのないめいりの言葉に、涼介は困惑してしまう。


(お友達が心配でしょ? それに、今お姉ちゃんを置いていくからって、お姉ちゃんが涼介から遠ざかるなんてことはないわ)

(でも、今日進展がなかったら、めいりは……、……っ?)


 言いかけたところで、口元にひやりとした感触がする。


 すぐ目の前に立つ白い少女。

 視界の端に見える細い指。


 めいりの人差し指によって、涼介は言葉を遮られていた。

 そのまま、涼介の不安な思いを和らげるような笑顔でめいりは続ける。


(大丈夫。涼介は現役ぼっちの身なのに、今まで十分頑張ってくれたわ。口ではなんだかんだ言いながら、ちゃんとわたしに付き合ってくれるし。例えわたしのためだとしても、お姉ちゃんにも優しく接してくれてるし……。これでも感謝してるのよ?)


 いきなりめいりから告げられる感謝の弁。

 涼介は驚きつつも、どこかくすぐったい気持ちになる。

 ……てか誰が現役ぼっちだよ!

 そうツッコもうとするも、めいりの不思議な雰囲気を前に喉がうまく震えない。


(それにね……。お姉ちゃんならきっと、こう言うに違いないわ)


 めいりは穏やかな表情から一転、いつもの悪戯っぽいジト目でニヤリと片頬を上げた。


「せ、先輩っ」


 するとめいりとは反対方向から……めいりよりも半音ほど高い真殊の声。


「朽咲さん? どうしたんだ?」

「先輩、私も……」


 しばらくまごついた真殊だったが、一瞬目をぎゅっと閉じたかと思うと、


「私も……一緒に行きます!」


 叫ぶようにして言い放った。


「えっ? ……朽咲さん?」

「私も一緒に中庭に行きますっ、お供させて下さい!」

「お、お供って……」


 そのまま、小さな体全体を乗り出すようにして涼介に一歩迫る。

 涼介も思わず後ずさってしまう。


 まるで迷子のようにいつも不安げに揺れていた表情も、今は真剣そのもの……。

 そのまっすぐな眼差しに、涼介は思わず魅入られてしまった。


(ね? お姉ちゃんはもうすっかり涼介を信頼してるのよ)


 したり顔でいばるめいり。

 その自慢げな態度に、涼介もつい笑ってしまった。


(そっか……。妹だもんな、姉のことはなんでも知ってるってことか)

(その通りよ。だから、安心してお姉ちゃんを連れていきなさい)

(なんでそこで上から目線なんだよ)


 ツッコミと一緒に葛藤を吐き出したおかげか、胸がいくぶん軽くなった気がする。


「……よし、わかった。じゃあ朽咲さん。これからちょっと急ぐけど、僕についてきてくれるかい?」

「は、はいっ!」


 そして、涼介たち三人は笑海のいるであろう中庭に向けて走り出した。



 * * * * *



 真殊は意気揚々と、涼介の背中を追いかける。


 あの日。風邪を引いた時にお見舞いに来てくれたあの日から……柳瀬先輩は、何かと自分のことを気にかけてくれる。

 いつかの放課後、一方的に身の上話をしてしまった時だって、まるで自分のことのように真剣な表情で耳を傾けてくれていた。


 そんな先輩のおかげで、極度の人見知りな自分も最近では、学校の子たちと最低限言葉を交わせるようになった。

 とくにクラスメイトのみっちゃん、下ノ怪さんたちとは友達っていえるくらいに仲良くなった。


 それはきっと、柳瀬先輩のおかげ。


 ただでさえいつも周りで怪しい行動をとっていた私なのに。なぜここまで優しく接してくれるのだろう……。

 いくら考えてもよくわからない。


 でも一つだけたしかなことがある。

 今の私は何一つ、先輩にお礼ができないってこと。


 先輩は何が欲しいだろうか。

 どうすれば、先輩は喜んでくれるだろうか。

 いくら考えても、いい答えには辿りつけずにいた。


 ただ、やっとこうして、恩返しする機会が訪れた。

 大変な時だってわかってはいるけれど、涼介のサポートをできると思うと、それだけで真殊の胸は躍った。


(先輩……、私、先輩のお役に立てるように頑張りますね)


 そんな視線で、涼介の背中に訴えかける。

 自分よりも一回りも二回りも大きな背中を見つめる。

 すると、ふと目の前に白い“ボヤ”のようなものが見えた気がした。


(あれ……)


 少し目が霞んだのか、一度ブレザーでごしごしと目元を拭ってみる。

 でも、涼介の背中につくボヤは消えることはなかった。


(おかしいな……。ちょっと疲れが溜まってるのかも……)


 その幻影のような白に懐かしさを感じながらも、真殊は腕を大きく振って涼介の背中を追いかけた。



※12/21:『*印』以降のエピソードを追加しました。大変失礼しました。

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