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ツきゆく君との過ごしかた!  作者: はなうた
第五章:ツたえる。
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第三十三話:然木の自信



 戸惑いを隠せず、涼介は窓際にいるめいりを見やる。


 ――真殊との本当の再会。


 それがめいりの願い。

 でも、あと二週間以内にそれを実現させないと、彼女はこの世界から消えてしまう……。


「そうそう。以前言い忘れていたが、お前から幽霊を引き離す方法にこの手もあったのだ。ボクとしたことがうっかりしていた」


 笑海の声が涼介の混乱した脳内に響く。


 たしかに、はじめは積極的に日常の平穏を求めてそんな話を聞いた。

 でも今となっては、どう幽霊を留められるのか……なんて、全く逆のことを考えている自分がいる。つくづく都合の良い思考だと、少しばかり自己嫌悪。


 ふと、めいりと目が合う。めいりはどこか眠そうな瞳を擦りながらひらりと手を振って返した。


「おいおい……呑気に手振ってる場合じゃないぞ、めいり……」


 自分の存在がどこにいくかもしれないピンチ。だというのに緊張感のない当の本人。

 涼介の不安がいっそう増した。


「どうした柳瀬。やけに焦っているようだが?」


 そんな様子を察知して、笑海が声をかけてくる。


「え、ああ、まあな……」

「お前が幽霊の未練を晴らそうと躍起になっていることはボクも知ってはいるが……どうやら変わってきているのは手段ではなく動機ようだな」

「う……」


 いつも病的なまでに話すばかりの笑海だが、ところどころで急に鋭くなる。

 涼介は図星を刺されて思わず口ごもった。


「うん……どうにかして、思いを遂げさせてやりたいんだよ」


 そしてようやく絞り出した答え。

 涼介の中の一番底……そして中心にある思い。


「うむ」


 答えを聞いた笑海は、どこか安心したような表情を浮かべて左右の腕を組み直す。


「まあ、どちらにしても大丈夫なんじゃないかな」

「え?」

「幽霊が消滅するまでの期限内に未練を晴らす。それはもちろん、幽霊にとっても依り代にとっても一番円満に収まる方法だな」

「ああ。でもそれが上手くいくかどうか……」

「その方法も心配いらないんじゃないか?」

「え……?」


 そうひどく楽観的に言ってのけたクラスメイト。


「二週間。たしかにあっというまだが……今の状況からすれば心配いらないさ。それに……」


 そして涼しげな表情を一転、それはそれは嫌らしい笑みを浮かべて涼介の二の腕を小突いてきた。


「ボクは知ってるんだぞぅ? 最近お前が一年生女子と仲良しこよしなのをなっ」

「ぐ……っ、然木よ、お前もか……」


 ここにまた勘違いする輩が現れたのである。


「てか、なんでお前がそれを知ってるんだよ……」

「ん? それは、最近お前がボクの話を聞いてくれないからだ。放課後になるとさっさと教室を出て行って、一体どこに向かうのかと思えばお前、なかなか可愛らしい子と一緒にいるではないか、んん?」

「まあ……端から見ればその通りだけど……」

「それにあの少女、いつもお前の後をつけていた子だろぅ? ボクはわかってる。一年Aクラス、朽咲真殊……あの子が今回の幽霊騒動に絡んでいること、あの子が幽霊の未練の対象ということをなっ!」

「な、なんだって……!」


 然木のテンポのいい言葉遣いに涼介はついノってしまったが、つけられているのは以前にも言ったことがあるし、最近一緒にいるのも別に隠してはいない。

 要は、知ってても不思議でないことを自慢げに話されただけなのだった。


「てか、お前……朽咲さんのことも知ってるんだな……」


 それに教えていないはずのフルネームとクラスまで把握しているとは。

 涼介は恐怖すら覚えた。


「それはそうだ。あんなぬるいストーキング、たとえ九十六時間不眠の状態でいても気づく。だからここ数日間かけてボクが手本を見せてやっていたのだ」

「うん、見せてないからな。誰も気づいてないんだから。てか僕すら気づかなかった」


 本物のストーカーここに現るだった。その気配すら漂わせないとは、もはやステルスの類である。


「……それに、ボクの話そっちのけで向こうに行かれるもちょっと悔しかったからな」

「腹いせかぁ~……!」


 最後に眉間を寄せてボソリと呟くあたり、そこが本音だと涼介は確信した。



「ということで、柳瀬。きっと大丈夫。これからきっとうまく事が運ぶさ。ボクを信じろ」

「ということでかどうかはわからんけど……まぁ、信頼してるよ」


 謎の説得力に気圧され、涼介は不思議となんとかなると思ってしまうのだった――






 ――そして二週間後。


「おいおい……話が違うんじゃないか? 然木……」


 結局、事は一向に変化する気配を見せず。

 めいりの状態も真殊の様子も何も変わらず、涼介たちは文化祭当日の朝を迎えたのだった。


 人気の少ない住宅街の通り、キーコキーコと寂れた音を鳴らしながら自転車を走らせる。

 もちろん、後ろでサーフィンでもするかのように立つ幽霊の姿は半透明のまま。

 希望は全く見えてこないが、反対に悪化もしていないことが涼介にとっては救いの材料だ。


「でもやっぱり不安だ……。というか、めいりはなんともないのか? その状態以外にさ」

「ううん、全然平気よ」


 でもお日さまの光を手で防げなくなった、と手を頭上にかざして自転車サーフィンを続けるめいり。

 こんな時にでもマイペースなヤツだけど……いや、だからこそ、急に消えるとなるとやっぱり気が気でない。


「あ、涼介」


 すると、唐突に名を呼ばれる。


「ど、どうしたっ? 何かあったのか!?」


 慌てる涼介。だがよく聞けば、めいりの声は依然としてのんびりしたものだった。


「今日は、少し寄ってほしいところがあるの」

「寄ってほしいところ?」


 そのまま、涼介はめいりの示す方向へと自転車のハンドルをきった。



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