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ツきゆく君との過ごしかた!  作者: はなうた
第四章:ツなぐ。
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幕間:真殊のココロ(一)



 初めてこのカフェを訪れた時の気持ちを、今でもたまに思い出す。


 不安で、心臓の音がうるさいくらいに胸を打った。

 まるでどこか遠くの世界に迷い込んだみたいに。

 この場所だけ、外の世界よりも時間の流れが緩やかであるかのように。

 そんな初めて感じる空気が新鮮で。


 怖くもあったけれど、すごくドキドキもした。


 お店の人は優しいし、お菓子やコーヒーも美味しい。

 それに何より、メイリが夢中になってオモチャで遊んでいる姿が嬉しかった。


 でも……。

 でも、まさか。


 ……二度目がこんな形になるなんて、真殊は考えもしなかった。


「あ…………あぁ……」


 声にならない声が、しらず口から漏れる。


 大通りのカフェの裏口から入った狭い部屋。

 床に置かれた赤黒い染みのついた段ボール箱を前に、真殊は弱々しく立ち尽くしていた――






 ――最初に感じた異変は、学校から帰宅した時だった。


「ただいま~……」


 くたびれた声が家の玄関すぐの廊下……その奥へと消えていく。

 そしてため息をひとつ。


 今日も会話に入っていけなかった……。

 年頃の流行には人並みに興味はあるから話題にはついていける。でも、どうしても自分からクラスの輪に入っていけない。

 あと一歩、勇気が出せないのだ。


 そんな日々が、入学式以来ずっと続いていた。


 ……それに、あの先輩とも結局なんの進展もないままだ。


「メイリちゃ~ん……ただいまぁ~」


 いつものように肩を落としながら、とぼとぼと玄関を通ってリビングに入る。

 真殊が向かう先は、三人掛けの白いソファ。いつもその上にいる妹の隣。


「メイリちゃ~…………あれ?」


 毎度きまって、ソファに寝そべりながら「にゃあ」と応えてくれるメイリ。その姿が、今日はそこにはなかった。


「あれ、いない……? お母さぁん? ただいまぁ~」


 学生鞄を肩にぶら下げたまま、キッチン、お風呂場、トイレなどを見て回る。が、誰の気配も感じられない。


「おかしいなぁ……たしか玄関は開いてたはずなんだけど……」


 今日はポケットからカギを出してないし、それはきっと間違いない。

 お母さんが早く帰ってきたものと思っていたのだが、そういえば今朝、今日は残業がどうとか言っていたような……。


 些細な違和感が真殊の胸に渦巻きはじめる。

 ついさっき。

 帰ってきた時のことを記憶から探ってみる。


「そういえば私、ドアノブ捻ってないかも……」


 違和感の正体が、ぼんやり浮かび上がってくる。

 考え事をしていたせいで記憶が曖昧だった。けど、さっきはドアを押し開けただけで、ドアノブには触ってなかった気がする。


 一瞬、泥棒や空き巣の存在を疑うも、確かめた限りでは家の中は何事もないみたいだ。

 それどころか、お父さんもお母さんも。そしてメイリも……。今は家族すらこの家の中にはいない。


 さっきまで抱いていた違和感が、言いしれぬ不安に変わる。


 急ぎ足でリビングを出て玄関へ向かう。

 半ば混乱した思考で玄関のドアを見ると、カギの“つまみ”の部分が変な形で止まっている。

 やっとカギが開くくらいの中途半場なところ。縦でも横でもなく、ナナメを向いた状態だった。

 そして、


「え、これって……」


 シルバーの“つまみ”には微かな、爪痕のような傷が残っていた。


「まさか……メイリちゃん……?」


 今の今まで、全然気にしていなかったけれど。


 考えつくは、ひとつの可能性。


「……探しに、いかなきゃ」


 真殊は帰ってきた時の格好そのままに、慌てて玄関を飛び出した。



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