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ツきゆく君との過ごしかた!  作者: はなうた
第四章:ツなぐ。
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第二十六話:黒い少女



 小柄で、ひょろっと細身の女の子。

 墨汁のように真っ黒な前髪を無造作に垂らし、目元まですっぽり覆っている。

 どうやらこのクラスの子らしいが、すごく陰湿なオーラが身体中からあふれ出ている。


 ついまじまじと目の前の少女を眺めてしまう涼介。

 しばらくして、少女のやや紫がかった唇がかすかに震えた。


「この……に……ご用で……か」

「え?」

「何か……ご用ですか?」


 どうやら、こちらに質問をしているようだ。


「あぁ……えっと、このクラスに朽……」

「……はっ!? あなた……っ!」


 涼介が戸惑いながら尋ねようとしたその瞬間、少女が素早い動作で数歩、後ろに飛び跳ねた。

 そのままスッと、涼介の方向を指さす。


「ど、どうしたんだい突然……?」


 いきなりの奇行。何がなんだかわからない様子で尋ねてみる。

 すると、少女の口から思いがけない言葉が飛び出した。


「……あなた、とり憑かれてるわ!」

「なっ――」


 よく見れば、彼女が人差し指を向ける先は涼介……

 ではなく、そのすぐ隣のめいりだった。


「視える……、視えるわ! あなたにとり憑く悪霊の姿が……!」

「えっ……ちょっと、君?」

「ひどく醜いカエルの怨霊が視える……。このままだとあなた……死ぬわよ!」


 戸惑う涼介に構うことなく興奮気味に繰り返す少女。ビシッ、ビシッと何度も人差し指を突き立てる。

 彼女の陰湿な見た目も相乗して、その光景は非常におぞましいものであった。

 隣の現役幽霊と見比べてみても遜色ない……むしろこの少女の方が断然怖い。


(もしかして、この子……視える人……?)

(わからない。この子のキャラもよくわからない。カエルて……)


 悟られないように互いに目配せする。

 指をさされるのが嫌なのか、めいりの上体は心なしか仰け反っていた。


(僕……カエルの霊とか憑いてるのかな……)

(ううん。涼介にはわたししか憑いてないよ。それにわたしは猫よ)


「このままじゃ駄目よ! 死んじゃうわよ! ヒキガエルよ!」


 言っている内容からして、もしかするとデタラメなのかもしれない。

 ただ、そう判断したところで何が変わるわけでもなく……。


「ちょ、ちょっと! 先輩に向かってなんてことしてんの……!」


 そうして困り果てていると、オカルト少女の背後から別の生徒が走ってきた。

 いかにも平凡な三つ編みの女の子だ。「うーんうーん!」と必死になってオカルト少女の突き出す腕を下ろそうとしている。


 その光景を見るだけで、ふと肩の力が抜けた心地がした。助かったのである。


「先輩……! どうもすみませんでした……っ!」

「い、いやいやっ、別にどうもないからさ……」


 ペコペコと謝罪する三つ編みの女の子。その隣では、若干落ち着きを取り戻したオカルト少女が前髪の隙間から瞳を覗かせている。


「お祓いはぜひ、我が神社へどうぞ」

「ちょっと! 何宣伝してんのっ!? 下ノ怪しものけさんも謝りなさいっ!」

「へ……? 下ノ怪って……?」


 どこかで聞いたことのある……というかここ最近にも耳にした苗字だった。


「あ……はい。この子、あの霊能者の“下ノ怪ヨシコ”の娘なんですよ」

「ま、マジ……っ!?」


 この子が……!?

 あの心霊番組によく出演しているあの有名人のっ!?


 思わずオカルト少女……改め下ノ怪さんの顔を覗き込んでしまう。


「髪の毛で似てるかはわからないけど……そうなんだ……」

「ビックリですよね? ほんとはもっと話題になると思うんですけど、この子、こんな雰囲気だから……。怖いからって誰も寄りつかないんですよね……」


 困ったように話す三つ編み少女。

 たしかにこのオカルト少女からは、危険な雰囲気がムンムン出ている。おそらくこの子が下ノ怪さんのお世話係を買って出ているんだろう。

 なんていい子なんだ。


「アタシ、有名なもので。誰もおそれをなして近づけないの。けけけけけけけけけけけ……」

「……」


 急にふんぞり返って笑い出す下ノ怪ヨシコの娘。その不気味な音に思わず鳥肌が立ちそうになるもなんとか我慢……できず、結局涼介は自分の両二の腕をさすった。


「もう、下ノ怪さんったら……」


 隣では諦めたような嘆息。

 もう一度思った。三つ編み少女、なんていい子なんだ。


「あ、ところで。先輩はどうしてこの教室に?」

「あ……」


 そこでようやく本題を思い出す。あまりに衝撃的な出会いがあったので危うく忘れるところだった。


「あのさ、このクラスに朽咲って子、いないかな?」

「朽咲さんですか? あ、はい。いますよ」

「おおっ」


 どうやらここが真殊のクラスらしかった。これでやっとこの縄張りから脱出できると胸が躍る。


「あ、でも……今日はたしか、お休みしていましたよ?」

「え? そうなの?」

「はい。昨日もいつのまにか早退していましたし……どこか調子が悪かったのかなぁ……」


 ここのところ二年の階に来ていないと思ったら、どうやら学校にすら来ていなかったようだ。

 それに、宿直の時に出会ったのもすでに夜明け前だったし……。


(やっぱり、こないだ学校で寝ちゃったって言ってたから、風邪でも引いたのかもなぁ)


「あ、あの……来週には来るかもしれないですけど……」


 三つ編み少女がおずおずと問いかけてくる。


「あ、ごめんね。いないんじゃ仕方ないし……また改めるよ」

「そうですか。どうもすみません。あの、下ノ怪さんのことも……」

「あぁ~……いや、いいんだよ。じゃあ、ありがと」

「はい」

「お守りはぜひ、我が神社のものを。そして……ヒキガエルには気をつけて!」

「もう! 下ノ怪さん! 怒るよ!?」

「けけけけけけけけけ……」

「……」


 大変おぞましい笑い声を背に、涼介は教室を後にする。

 あの子……なんだか今夜、夢に出てきそうだ。そう思うと再び鳥肌が立った。



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