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ツきゆく君との過ごしかた!  作者: はなうた
第四章:ツなぐ。
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第二十四話:めいりと真殊



 寝ぼけまなこのめいりと一緒に廊下に出るも、どれだけ経ってもいつもの気配は感じられない。

 そのまま昇降口まで辿り着く。普段なら、しばらくしてビシバシと、それこそ痛いくらいの視線を浴びせられるのだが……。


「どうしたんだろ……。やっぱりあの時、問いつめるような格好になったからかなぁ」


 まあ、実際そんなつもりは毛頭なかった。

 ただ早朝の少女の狼狽うろたえっぷりからして、こちらに顔を出しづらくなったのかも……。

 その可能性はないとは言えなかった。


「ところでさ、もう誤解のないように確認しておきたいんだけど……」


 気を取り直して、ゾンビのようにふらふら歩く白髪少女に問いかける。


「昨日の女の子って……本当にめいりのお姉ちゃんなのか?」


 めいりはもぞもぞと目を擦る。


「うん、あの人がわたしのお姉ちゃん」


 そして首についたチョーカーに手をやり、寝起き特有の鼻声のまま言葉を紡いでいった。




 ――朽咲(くちさき)真殊まこと


 それがめいりのお姉ちゃんの名前。

 めいりと彼女は隣街のペットショップで出会い、以降めいりは朽咲家の家族になった。


 深い事情まではわからないが、当時の朽咲さんはずっと家にいて、一日のほとんどの時間をめいりともに過ごしてきた。

 めいりの知識は主に、持ち前の好奇心……そして彼女とそのご両親からの伝達で培われたらしい。

 その中には何やら突拍子もないものが含まれていた気もしたが、まあ趣味は人それぞれだろう。今のところはそう無理矢理納得しておく。


 二人の仲が良好だったことはすぐにわかる。

 その証拠に、一緒にペット同伴可のカフェに行ったり、おそろいのアクセサリーを身につけたり……。

 少なくともめいりにとっては、世界の大半は朽咲さんで占められていたという。


「わたしが今この姿なのも、お姉ちゃんと同じ、人間になりたかったから」

「なるほどな……」


 ただ、ある日を境にして朽咲さんが家をあけることが増え、一緒にいる時間が減っていった。

 めいりはその寂しさも相まって、日に日に『人間になりたい』という欲求が大きくなっていったそうだ。


「そうすれば、一緒にいられる時間が増えるかなって」


 透明な呟き声が、すっかり冷えてきた帰り道の空に溶けていく。

 日が傾くのも心なしか早くなった気がする。

 少しずつ、秋が深まってきているのだ。


 チロチロと水の流れる川沿いを、涼介とめいりは自転車を挟んで歩く。


「でも、気づかれないんじゃ仕方ないけれど」


 やや皮肉まじりに零すめいり。


「そこに関しては……なんとかできるかもしれないぞ」

「え?」

「絶対、とは言い切れないんだけどな。さっき然木に聞いてみたんだ」


 そして涼介はさっきの話をめいりに伝えた。


「あの人、何者……?」


 めいりの疑問にはすごく同意。思わず無言で何度も頷いてしまう涼介。

 この世の中、幽霊を驚かせられる人間なんてどれだけいるのだろうか。少なくとも然木笑海はその一人であった。


「まあ、まだ可能性はある。ともかく今は、めいりのお姉ちゃん……朽咲さんに会わないとな」

「うん……」

「せっかくこうして人間になって、お姉ちゃんと話せるようになったんだ。ちゃんとお礼言わないとな」

「うん」


 はにかんで頷くめいりを横目に仰ぐ。

 そのまましばらく、無言の時間が訪れた。


「さて……」


 朽咲さんに会ってからはめいりの出番。

 そこは問題ないだろうけど、まずはどうやって彼女に会うかだ。

 今までの状況からして、そう簡単にはいかないかもしれない。


 そこで、ふと涼介は思った。


「……というかそもそも、なんでお姉さんは僕の後をつけてくるんだ?」


 涼介の彼女に関する疑問のなかでも、最も根本的なものだった。

 しかも五月から今までずっと、だ。何もなければ普通はこんなことはしないはず。


「それはわたしもよくわからない」

「今朝の様子もどこか刺々しかったし、もしかして恨みでも買ってるのかなぁ……」


 全く身に覚えがないんだけども。


「それはないと思う」

「そ、そうか?」

「うん、大丈夫。涼介はきっと愛されてるのよ」

「それもよくわからんな。てか、それはそれで……」


 ……ストーカーっぽいな。


 そう出かかった言葉を咄嗟に飲み込む。

 さすがにめいりにもあの子にも悪い気がした。めいりの話を聞いた限りでは、そこまで危ない子でもないだろうし。


「まあ、前途多難なのは変わらないけどなぁ……」


 いきなりこっちから近づいていっても、逃げられるのがオチだ。

 でももちろん、このままにもできない。

 なんとしてでも彼女とコンタクトをとらないと……。


「……ん?」


 ふと手に違和感を覚えた。

 見ると、めいりがハンドルを押す涼介の手に自らの手を重ねていた。


「え……っ?」


 突然の出来事に、白髪をまとう少女の横顔を反射的に見やる。

 めいりは穏やかなジト目で笑顔を返してきた。

 これはめいりなりの、いわゆる悪戯っぽい笑みというやつらしい。


「こうして手を繋ぐと、あったかいのよ?」

「うん、まぁな……」


 今まで、親や妹以外の誰かと手を繋いだことはないけれど。

 その記憶に残るほどの温もりを、めいりの手からは感じなかった。


 でも、手を置かれる感触はたしかに伝わってくる。

 ……どこか不思議な気持ちだった。


「お姉ちゃんに愛される涼介なら、きっと大丈夫」

「それ前提のお話になっておりますがっ!?」


 それこそ全く身に覚えがない。

 ただ、めいりの方は希望が見えたと言いたげな表情である。


「わたしもできる限り頑張るから、もうしばらくよろしくね」

「なんだよ、改まって……」

「それと、今までも付き合ってくれてありがとうね」

「おいおい、人の話を聞け?」


 なんだいったい。

 然木といいコイツといい、今日はやけにお礼を言われる日だな……。


 表面ではツッコみながらも、心が温かくなるのを身をもって実感するのだった。



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