表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツきゆく君との過ごしかた!  作者: はなうた
第三章:ツきとめる。
25/51

第二十一話:再会、ふたつ



 結局、涼介たちが解放されたのは午前四時前……そろそろ早朝と呼べる時間帯だった。


 トシさんは晴れ晴れとした様子で生物準備室へ帰っていった。「また夜中か夕方頃にでも遊びに来てくれや」と再会の約束まで取りつけられ、人生で最大の“変わった友達”ができたと実感する涼介だった。


「それにしても、陽菜先生置いてきたことすっかり忘れてた……。大丈夫かなぁ」


 そのまま小走り。校舎で唯一電気の点いた部屋――宿直室へと向かう。


「先生、すみません。遅くなりました!」

「あら、柳瀬くん。おかえりなさい。遅かったけど、大丈夫だった? 怪我とかしてない?」


 扉を開けた途端、香ばしいコーヒーの匂いが鼻腔を撫でる。

 そして、予想外に穏やかな笑顔の陽菜先生が猫なで声で語りかけてくる。


 柔らかくのほほんとした雰囲気の先生……。

 昼間の初対面時はトキめいたりもしたが、今となっては吐き気がするほどの違和感がある。


 間違いない……今の陽菜先生は、『保健室の天使バージョン』だった。


「先生……今更どういう風の吹き回しで?」


 尋ねた途端、先生の眼光がギラリ。それ以上言うなということらしい。

 すると、先生はいかにも可愛げのある小走りで近づいてきて、涼介の耳元で告げた。


(今ちょっとさ、緊急事態が発生してて……)

(はぁ、緊急事態ですか)

(そうなの。ところでさ、さっきの白い女の子……そう、式神だっけ? あの子は?)

(え? いや、すぐ隣にいますけど……見えないですか?)


 首を左右に振る陽菜先生。どうやら今、彼女にはめいりが見えないらしい。


(もう“朝”だしね。力が弱くなってるのよ)

(そうなのか?)

(うん、普通の人が“視えやすい”時間帯は限られてるの。真夜中と、あとは……)


 めいりの話を聞きつつ、まだ紺色一色であろう空を見ようと、窓に目を向ける。


「ん?」

「ひっ……!」


 その途中、一人の少女と目が合う。

 湯気立つコーヒーの置かれたテーブル。そのすぐ前に座る小柄な女子生徒。

 どことなく陽菜先生(ぶりっ子ver)に似た雰囲気で、止まっていると人形にも間違えそうなほど可愛らしい子だった。


「ああ……なるほど」


 陽菜が化けの皮を着なおした理由がわかった。


「先生、この子は?」

「あ、あわわわ……」


 少女はどういうわけか、涼介が視線を送るたびいちいち過敏に肩を跳ね上げる。制服のリボンの赤色からして、どうやら一年生らしい。


「はじめまして、僕は二年の柳瀬涼介。そんなに怖がらなくてもいいよ?」


 あまり怖がらせないように、おずおずと少女に話しかける涼介。

 そこでふと違和感を覚えた。


「あれ、君……どこかで」


 会ったことあるような……。

 でも、涼介に一年生の知り合いはいない。

 どこかでよくすれ違ったりするのだろうか。

 それとも……


「……あっ! もしかして、君!」

「ちちち違います! その予想は果てしなく間違いです~!」


 明らかに動揺する少女。くりりとした瞳を大きく見開き、全身を駆使して慌てている。だが、陽菜と違って、その姿もどこか上品である。


「んん、なんかすごく失礼な空気を感じたんだけど……まあ、いいわ。柳瀬くん。この子ね、どうやら文化祭の準備で残ってて、そのまま教室で居眠りしていたらしいの。それでここで保護してるのよ」


 陽菜先生がいきさつを説明してくれる。が、涼介の頭は驚きで支配されていた。


 ……そうだ、この子。

 茶色の髪を頭の両サイドで結ってあり、時折呼吸に合わせてひょこりと動く。


 以前、正面から向き合った時は大きなマスクをしていた。

 それに、いつもはビシバシと擬音がつきそうな視線でこっちを見てきた。


 だから、すぐに気づかなかったけれど……。


「いつも、僕の後をつけてくる……」

「し、知りません知りません! これっぽっちも知りません! せ、先輩の記憶障害のせいです~っ!」

「記憶障害て……」


 なぜか酷い言われようだった。


「ううん、でもなぁ。人違いってわけでもないと思うんだけど……」


 この慌てっぷりからして、きっと間違いない。でも断固否定する少女。


(あ、そうだ。めいりはどう思う?)


 そういえば、もう一人事情を知っている者がいた。涼介はさっそく尋ねてみる。

 だが、涼介の声が聞こえていないのか、めいりはじっとその少女を眺めていた。

 珍しくジト目ではない。青藍の瞳が涼介からでもハッキリと見える。どうやら彼女なりに目を見開いているようだ。


(めいり……?)


 その呼びかけに応えることはなく、一歩少女の元へ近づく。

 そして、


「お姉、ちゃん……」

「――!」


 その呟きに、涼介もすぐさま少女の方に視線を向けた。


 膝元にちょこんと置かれた小さなにぎり拳……その片方の手首には、ペールブルーのブレスレットが優しい色を浮かべていた。



 ここまでお読みいただきありがとうございます。今回で第三章終わりです。


 次章からは起承転結でいうところの転~結に入っていきます。そしてその後に閑話も投稿する予定ですので、よろしければもう少々お付き合いくださいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ