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ツきゆく君との過ごしかた!  作者: はなうた
第三章:ツきとめる。
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第十八話:柳瀬ノ神涼介氏



「先生、落ち着いてよく聞いて下さいね。まず、先生が見ているその白い女の子は害はありません」


 悪戯好き、たまに毒舌という点ではその限りではないけれど。


「へ……? そ、そうなの? じゃ、じゃあなんで柳瀬は、そんなことわかるの……?」

「それは……ごほん」


 ここからが涼介の演技力の見せどころ。

 ひとつ咳払いで心のスイッチを入れかえた。


「実はですね。僕は――」

(“僕”はだめ。ここは麻呂よ。まろまろ)


 開口さっそく、めいりからダメ出しが入る。


(そうなのか? む、難しいな……)


 めいりの意見を参考に、涼介は気をとりなおして演技に入った。


「実は、ワタシは霊などを見る力を持っているのです。ワタシは、かつて平安の世で活躍した陰陽師、その血を引き継いでいる……いわば霊能者なのです」

「お、陰陽師……?」

「いかにも。ワタシのまたの名は“柳瀬ノ神涼介氏やなせのかみりょうすけのうじ”というのです」

「そ、そうなんだぁ……」


 さすがに麻呂は避けたがけっこう上手く言えた気がする。すぐ隣、めいりが手で口を押さえながらプルプル震えているが、けして笑いを堪えているのではないと信じたかった。


 ちゃんと今の話を呑み込めたのだろうか……やや怪しむような態度で、陽菜は二度、三度と頷いていた。


「でも。てことは、その白いのも幽霊ってことじゃ……?」


 おずおずといった様子でめいりを指さす陽菜。


(う~ん……。どうしよう)


 先生の質問をすぐ肯定するのは簡単だが、それだと今以上に怖がらせてしまうかもしれない。……すでに相当ビビってはいるのだが。


 でも今は、少しでも陽菜を安心させるのが重要。

 涼介はどう説明すればいいか、頭を捻る。


(涼介が陰陽師だから、わたしが“式神”ってことにすればいいよ)


 めいりの助け船第二弾。青藍の両目に涙を浮かべている理由は聞けなかったが、言ってることはわかった。


(なるほど、式神かぁ……よしっ)


 おかげで、涼介の頭ではなんとかストーリーが組み上がった。


「その白い少女は、ワタシが従える式神なのです。いわばワタシのお供なのです」

「オトモ……。モンスターを狩るゲームでいうところの、オトモニャンコみたいな感じ……?」

「そ、そんな感じなのです。だから、もしもの時は彼女があなたを守ってくれるのです」

「おぉ……、なんかよくわからないけど、すごいな……」


 さっきまでの恐怖の表情から一転、陽菜の顔には驚きと好奇心が浮かんだ。

 なんとか誤魔化せたようだ。

 めいりはどこからそんな情報を仕入れてくるのか、それは非常に気になるところだが、ひとまずは安心だ。


「ここ最近、この学校にて不穏な空気を感じたのです。その空気を取り除くべく、今夜校内に入る計画を立てていたのですが、先生のおかげで助かりました」


 なのでつい、演技にも興が乗ってしまう。


「えっ、じゃあ中華屋で抵抗してたのも宿直室で抗議してたのも、全部演技だったのっ?」

「うっ……、は、はいっ! そうなのです! 先を見越すのも陰陽道には重要なのですっ!」


 案の定痛いところを突かれた。だが涼介は強行突破する。今までの日常生活で“陰陽道”などとのたまったのはもちろん今回が初めてだ。


 果たして、こんな嘘で通用するのだろうか……。

 かなり不安だったが、


「そうなのか~……。す、すごいなぁ柳瀬……。あ、今から柳瀬先生って呼んだ方がいいですかね?」


 陽菜はすっかり安心しきった様子で感心していた。


「いや、今までどおりでお願いします。敬語もやめて下さいね……?」


 安堵するどころか、逆に彼女のアホさが無性に心配になる涼介だった。


(ふぅ、なんとか上手くいったな……)

(うん。保健の先生がチョロい女だってことがよくわかった)

(そうだな。他人ながら、先生の今後が心配だ)

(あと、涼介の大根役者っぷりもよくわかった)

(そ、それは言われなくてもわかってるよっ)


 涼介自身もたった今、自分には演技の才能はないなと確信しているところだった。

 今回だけは陽菜のチョロさに感謝だ。



 ――コトン。


 ――コトン……。



 なんとか説明を終えてすぐ。

 廊下の向こう……宿直室のさらに奥の特別教室が並ぶエリアから、何か硬質な音が聞こえてきた。


(あ……そうだった。すっかり忘れてた……)


 十数秒に一度くらいの頻度で、何かがテーブルに置かれるような音。

 さっきめいりが言っていた“何か”の存在を嫌というほど思い出させる。


(涼介……。ここは一度、わたしたちで様子を見に行った方がいいかも。保健の先生にはここで待ってもらって)

(う……そうなのか? 気が進まないなぁ……)

(大丈夫。ある意味危ない気はするけど、死にはしないから)

(不安がなお増したっ!?)


 よけい気が進まなくなったが、めいりが大丈夫というからそこまで危なくはないのだろう。

 ここは彼女の言うとおりにするのが得策なのかもしれない。


「え、ここで……?」

「はい。先に少し様子を見てきます。すぐ戻ってくるのでしばらく待っててもらえますか?」

「う、うん……。で、でもすぐ戻ってきてよっ? こんな所で一人は……こわい」

「う……」


 モジモジと呟く先生。

 ここ数分でわかったこと……陽菜先生はアホで天然だった。だがそれが、平凡な青少年たる涼介に痛恨のダメージを与えた。


「こ、この柳瀬ノ神涼介氏にお任せ下さい」

「うん……」


 何とか平静を保って陽菜を説得。

 涼介とめいりは薄暗い廊下の奥へと歩を進めた。


(あ、そうだ。涼介涼介)

(ん? どうした?)

(明日の朝ごはんはブリ大根がいいな)

(なんかすんごい悪意を感じるっ!? どーいう意味だそれ!)


 こんな時にでも冗談をかますめいり。

 これから起きることは、そう大変なことでもないんじゃないか。

 そんな風に思わせてくれた。



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