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ツきゆく君との過ごしかた!  作者: はなうた
第三章:ツきとめる。
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第十七話:見回りしようっ!(二)



「誰かって、誰……?」


 目の前に広がる真っ暗闇、その方向をジッと見つめるめいりを交互に見ながら、涼介は聞いてみた。


「あ、違った……」


 するとしばらくして、さっきよりも軽めのトーンでめいりは呟く。

 その声に涼介も今日何度目かの冷や汗を拭った。


「き、気のせいだったのか……。おいおい、ただでさえ気味悪い場所なのに脅かさないでくれよ……」

「ごめんね。わたしとしたことが間違えちゃった」


 てへりと、無論ジト目のままで小首を傾げるめいり。


「“誰か”じゃなくて、“何か”だった」

「そっちの間違いなのっ!? 下方修正かよ!」


 “誰か”でないということは、“人ではない”ということ……。

 じゃあ、なんだ?

 このシチュエーションに最もありそうなのは、


「幽霊とか妖怪とか……? いやいや、そんなのいるわけ……」

「ないですよねー」

「……」


 目の前にいた“そんなの”。

 というより、もう半月ほど絶賛とり憑かれ中である。


「そういえば、そうだったな……」


 あんまり馴染んでたから失念していた。


「じゃあ、あっちにいるのってやっぱり……」

「や、柳瀬っ……!? どうしたんだ急に大声出してっ!?」


 昇降口の方からドタタ、と足音がしたと同時、陽菜が目にもとまらぬ早さで定位置に戻ってきていた。そのまま涼介の腕を両手でがっちりホールド。


 しまった、つい声を出していた涼介。

 どう説明したものか……。本当のことを言って、ただでさえ怯えている先生に追い打ちをかけるのも忍びない。


「す、すみません。ちょっと勘違いしてたみたいで……。何もないので安心してください」


 なので濁すことにした。


「そ、そっか……。ほっ、よかったぁ~。なんか怖いもんでも出てきたかと思ったじゃない……。まあ、さっさと最後のハンコ押しにいこう?」




 そうして、少し落ち着きを取り戻した陽菜を横に添え、心中ビクビクしながら廊下の奥に進んでいく。


 廊下から入り込む月光の影響か、すぐ前を歩くめいりの背中がいつもよりぼやけて見える。


「な……なぁ、柳瀬……」


 すると、裾を掴む陽菜の手……その力がグッと強くなる感覚。


「は、はい、なんですか先生?」

「あの白いの……何?」


 前方を指さす陽菜の顔は、薄暗い中でも引きつっているのがわかった。

 そして、その指の先には白い影……。

 幽霊猫少女めいりが振り返ったところだった。


「あの、人のような……女の子のような……」

「え……っ? 先生にも、めいりが見えてる……?」

「め、めいりっ!? 見えるっ!? ななな何っ!? てかめいりって誰っ!?」

「あ、しまった……」


 完全に失言。そして完璧に混乱している陽菜先生。


 今度こそやってしまった……。

 というより、なんで陽菜先生にめいりが見えてるんだ……?


(たぶん、今の時間は幽霊が姿を出しやすい頃なのよ。それに、今“依り代”である涼介がすぐ側にいる。だからこの人にも見えるようになったのかも)


 めいりは涼介にだけ聞こえるくらいの声量で告げた。

 腕時計を見ると、ちょうど午前二時半。たしかに幽霊と関連性の強そうな時間だ。


(そうなのか……。それにしてもタイミングが悪いな)


「ど、どういうこっちゃ……どういうこっちゃ……えらいこっちゃ……」


 目の前で今にも卒倒しそうな陽菜。何か呪文めいた呟きが零れているがよくわからない。

 涼介は何かいい言い訳を探してみるが、咄嗟には思い浮かびそうになかった。


「涼介、こんなのはどう?」


 すぐさま前から助け船が出た。

 今回の件……そして陽菜の恐怖の対象であるところからの助け船とは、なかなか皮肉なものである。


「こう言えばいいと思う。……ごにょごにょ」

「ふんふん……え、そんなんで納得するのかなぁ……」

「ひぃぃっ!? だだだ誰と話してるのぉぉ……っ!?」

「ああ、すみません先生。怖がらせてしまって」


 少し不安だが、他にいい案が思いつかない。

 それに今の先生はちょっと動転している。それらしく言えばなんとかなるかも……。


 必死な形相で正面からしがみついてくる陽菜。

 その両肩に手を置き、落ち着かせながら、涼介はめいりの言うとおりの説明をすることにした。



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