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ツきゆく君との過ごしかた!  作者: はなうた
第一章:とりツく。
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第一話:めいりさんの電話



 九月に入って数日経ったが、いまだに夏らしい蒸し暑さが残っている。


 そんなある日の夜。

 柳瀬涼介やなせりょうすけは自室のベッドに腰かけ、風呂上がりで火照った全身をエアコンの涼風に晒していた。


 今日も色々と疲れる一日だった。

 教室では相変わらず変な噂話を延々と聞かされ、登下校時は正体不明の女子生徒に後をつけ回され……。

 疲れる原因はこの二つだ。たった二つ。されど、時間に直せば“学校にいるあいだずっと”である。


「しかも、これが毎日だもんなぁ……」


 ちなみに前者は一年半、後者は約三ヶ月続いている。


「ふう……」


 自分の身の回りにはちょっと変なやつが多い気がする。薄々思ってはいたけど、自分は変なものを寄せつける体質なんじゃないか。

 そんなことを思いながら、無造作に両足を前に投げ出す。


 涼介はどこにでもいるような平々凡々な高校二年生である。

 口数は少なめで人付き合いがあまり得意ではない……俗に言う草食系ではあるが、特にそのせいで苦労はしていない。

 最近一番苦労したことといえば、学校生活以外ではこの一人暮らしに慣れることくらいだ。


 彼は一年前から地元を離れて、このアパート『出笛荘でてきそう』で一人暮らしている。

 入学した高校が、実家から通うには少しばかり遠すぎたのだ。

 はじめの頃は洗濯に掃除、食事の準備など……その全てを自分でしなければならないことに人並みに苦労した。母親は数年前に他界していたものの、父と妹、三人で過ごす実家暮らしが恋しくなることもしばしば。

 でも一度慣れてしまえば、一人は一人で気楽なものだ。


 そして、学校生活で溜まった疲れを癒やすため、今日もこれから気楽な一人時間を満喫しようとするところ――


 ――だったのだが、ベッド脇に放られたケータイが突然震えだした。


「ん……電話? こんな時間に珍しいな……」


 知らない番号だった。

 まあ、怪しい電話ならすぐ切ればいいか。そんな気持ちで通話ボタンを押してみる。

 すると、受話口から流れてきたのはよく通る女性の声。


『わたし、めいりさん。今ゴミ捨て場にいるの』

「え――?」


 プツッ、と音がして唐突に通話が切れる。


「なんだ……?」


 思わず耳をケータイから離し、ディスプレイを見つめながら首を傾げた。

 全く抑揚のない、涼介とさほど変わらない頃の少女の声に聞こえた。


 それよりも、彼女が口にした言葉が気になる。


 ――メリーさんの電話。


 わりとよく耳にする都市伝説のひとつ……そのフレーズだった。


 そういえば今日、クラスメイトの然木(つれぎ)もそんな話をしていたような。

 都市伝説やら怪談やらの類が大好物なクラスメイト。

 彼女が言うには……。


 ――ある家族が引っ越しをする際、その家の少女が“メリーさん”と名付けた人形をゴミ捨て場に捨てた。

 その数日後、少女の元に“メリーさん”と名乗る女の子から電話がかかってくる。

 “メリーさん”は電話のたび徐々に少女の家へと近づいてきて、最終的にかかってきた電話の内容は……


 『今、あなたのうしろにいるの』


 そして、少女が振り返ると、そこには――



 ……といった内容だった。


 手に持ったケータイに視線を落とす。

 一番有名どころのオチだとたしか、メリーさんの声に振り返った少女は、翌日行方不明になっていたり、最悪の場合、自分の部屋で何者かによって……。


「え、てことは僕……狙われてるのか……?」


 一瞬顔が強ばる。が、それと同時に涼介は疑問も抱いていた。


 そういえばさっきの通話相手、声だけ聞けばたしかに伝説通りの少女のようだ。

 でも、彼女が名乗ったのは微妙に違う名前だった気がする。


 考えられるのは、メリーさんの名をかたった悪戯……。そう思った途端、さっき感じた恐怖は幾分和らいでいく。


「ふぅ、まだこんな悪戯するヤツなんているんだな」


 涼介は色んなことをポジティブに捉えることに長けている。

 普段から癖のある人間との巡り合わせの多い彼が長年にわたり築き上げてきた、悲しくも前向きな能力。


「ん?」


 すると、再び電話がかかってきた。

 さっきと同じ番号からだ。


「じゃあ、なんだ。次は『今、酒屋さんの前にいるの』か? 残念ながらこのアパート周辺に酒屋なんてないんだ」


 プラスに捉えたあとの涼介は強気だった。その勢いもあって、さっきの少女の声を聞くのが楽しみにすらなっていた。それほど耳に心地よい声音だったのだ。

 意気揚々と通話ボタンを押す。

 同時に、キッチン横の冷蔵庫に飲み物を求めて立ち上がる。


 だが、その軽い足どりはすぐに止められてしまう。



『わたし、めいりさん。今、あなたのうしろにいるの』



 ……え?


 今にも消えそうな声が通話口から……そして、ケータイを当てていない方の耳にまで流れ込んできた。


 あ、あれ……?

 これって……悪戯なのでは?


 涼介は何度か目をパチパチとしたり、指で擦ったり、だがどうしたところで事実は変わるわけでもなく……。




 つまりは、目の前に少女が立っていたのだ。



 なぜかうしろを向いて。



※2014.9.25 文章構成をやや変更しました。ストーリー展開に変更はありません。

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