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……『れ』

 



“希代美は《世界》に置き忘れられたりなんて、してないよ”


『架空』が、言った。



 もう十一月になろうかと言う季節。なぜ今年ようやく大学生で、大学に通っているはずの繰須兄ちゃんが目の前にいるんだろう。

 しかも。

「……だーから、ガンダムは……」

「……でも、僕はシャア派だしねぇ」

 ……。───何でガンダム?

「あ、希代美」

「何だよ。ノックぐらいしろよな~、お前は」

 いや、ここ私ん()だから。

「何で、繰須兄ちゃんいんの?」

 マジで。

「学校サボった」

 マジで?

「簡潔だね」

 確かに。いや、じゃなくて。そこ突っ込むトコだから。

「何でサボったの? せっかく受かった大学、留年するよ? 伯母さんあんなに喜んでたのに」

『どうしようもない放蕩息子が、やっと真っ当な道に』って、凄い喜んで親戚中に電話してたのに。

「言ってくれるな、希代美。時としてオトナには……」

「繰須はコドモでしょう」

 突っ込んだのは私じゃない。

 言わずと知れた架空。

「……非道いな、お前」

 ────いや、私も架空と同じ、そう思うから。

 言葉は考えた時点で飲み込んだ。




 何で繰須兄ちゃんがいるのかはこの際どーでも良い(良くないけど)

 架空と、ガンダムの話してようと関係無い(物凄い迷惑だけど)

 どーせサボった時の避難指定場所にされてるんだろうから。

「ところでさー」

 ガンダムからマクロスに移行し、その後エヴァからファフナーに行った話は、どうやらゴールしたらしい。

 アニメオタクのやり取りに、平気でついてこれる架空に疑問を持ちつつも(だっていつ観てんのよ、テレビ)、完結したらしいコトで私は読んでいた本を閉じる。……が、話はドコかへ続くらしい。

「何?」

 架空はドコまでもにこやかだ。オタク話に付き合う時も変わらずだった。

「例の、『最愛のヒト』には、逢えたん?」

「───」

 張り付けたように自然な微笑を纏っていた架空の顔は、私から見て久方振りに“驚き”と言うモノに刷り変わっていた。

 目を見開いて、無言のまま停止する。

 私はと言えば。

(それ、『禁句』だったんじゃないかなー)

 と、思うトコで止めた。

「……うーん」

 架空は戸惑うように考え込む。顔には常備の笑顔は無く、何だか困ってると言うよりは何てこと無いコトを言われて一応考えてる、みたいな感じだけど。

「まず、逢えてたら僕は《ここ》にいないんじゃないかなぁ?」

 取り敢えず答えその一。確かに。

 架空が『待ち人』と言うのに逢えていたらこんなトコにいたりはしないだろう。つか。


 逢えたら、どうなるの?


「そっかー。だよなー」

「うん」

 ……。いや、この話はそこで完結したらいかんでしょ?

 何だか天然なトークと化してる問答に、私は堪らず口を挟んだ。

「───架空ってさ、その人に逢えたらどうなんの?」

「お約束としては『消える』とか?」

「繰須兄ちゃんは黙って」

 私の一喝にぶつぶつ何事か零し拗ねながらも、渋々と言った感じで繰須兄ちゃんは引き下がった。

 私はそれに呆れながら、再度架空に問うた。


「うーん? どうだろう?」


 そんな答えかよ。

「真面目な話ね、気が付いたらこんな風になっててさ。今じゃ過去の記憶も曖昧だし、よくわかんないんだよね」


 おい、こら、デタラメ野郎(繰須兄ちゃん直伝)


 にしたって、憶えが無いってのはどんな話ですか。こんな在り得ない状況下になってるのに。

 自分が。

 しかし架空は何でも無いように、むしろ他人事で有るかのように笑って言った。


「僕は、今[意識体]だから。多分、記憶が“薄れてる”んだよ」


 ……。


 それ、とんでもない話なんじゃないの?

 私が口を開くより、早々と繰須兄ちゃんが言った。


「お前さー。それじゃあ例の『待ち人』さんが現れてもわかんないんじゃねーの?」


 繰須兄ちゃんの顔は、大したコトも無い、普段通りの顔だったけど。

 決して通常のフザけた顔はしてなかった。

 対する架空も。


「……そんな不安は無いよ。わかるから」


 余裕でそう躱した。

 何か……とんでもないのは《空気》のほうか?

 末恐ろしくなるような雰囲気だ。これからひどくなると言うなら、私はここから逃げ出す。

 こんな真剣な二人は見たコト無いし。

 架空は平常、笑ってるけど今のは何ら冗談めいた部分は見当たらない。

 繰須兄ちゃんは、真顔で標準装備のいい加減さが無い。


 あぁ、逃げたい。


 私はこんな《空気》駄目なんだ。


「まぁ、良いけどさ」

 繰須兄ちゃんは、こんな一言と共に深く息を吸った。

「そうそう。心配しなくても大丈夫だよ」

 架空も変わらず揶揄うような、人を喰ったような笑顔に戻った。

 皮切りだったように、張っていたかのような緊張が緩和した。緩くなった感覚に、私は胸を撫で下ろす。


「……。わかるんだよ」

 俯いて、無表情。暗示に掛かるかのような、床を這う目線と無言の瞳。


「……」


 呟きは言い聞かせる、みたいな言い方だった。







“例題なる、事象”。




【Then,what next?】

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