カレーにちくわなんてありえない
サブタイに偽りあり。
カレーにちくわは、うちの母親がマジでやりました。感想は控えますが。
夕食はカレーだった。
母さん曰く『多少手を抜いてもバレない』との事で、ウチの食卓はカレー率が高い。
別に不満はないけどね。カレー好きだし。おいしい。
「桜花さんのカレーは最高ですよね。ね、アキラちゃん」
「今日はアキラちゃんの好きなチキンカレーですよ、良かったですねー」
「アキラちゃんの分、お肉少ないですね。僕の分あげましょうか?」
無視。ツーンとそっぽを向いて黙々と食べる。あ、でもお肉はもらっておこう。お皿を出す。ゲット。またそっぽを向く。
「ツンとしてるアキラちゃんもかわいいよハァハァハァでもお肉はもっていくのですねハァハァハァ」
またデジカメで撮影を始めた。父さんマジで変態なのかな。なんかどうでもよくなってきた。
「食事中にデジカメはやめて。母さんも何か言ってやってよ」
「食事が終わったら殴るから安心なさい」
撮影が終了した。
「ごちそうさまー」
部屋に戻って勉強でもするかな。その前にもう少し荷物整理か。PC早くネット繋がらないかなー、ゲームやりたい。面白そうな新しいネトゲを見つけたのだ。
「アキラ、後片付けをやってくれないかしら」
ん?珍しいな。家事は多少手伝ってるけど、台所は母さんだけで仕切ってたのに。別に良いけど、と答えると『じゃあこうやるのよ』と色々教えてくれた。
「水を切った後、軽く拭いて、お皿は一度ここね。ちゃんと乾いたらこっちの食器棚に」
「これはラップをかけて冷蔵庫のここに。これはタッパーに戻してここに」
「お玉はこっちね、他の調理器具はこの場所だから。覚えておいてね」
ふんふん、と頷きながら一緒に片付ける。なんか台所の説明を色々とされた。なんだろう?今までこんな事なかったのに。
まあいいや、深く考えないでおこう。
「ありがとう助かったわ。母さんと一緒にドラマでも見ない?」
「んー、部屋に戻って片付けする。勉強もしなきゃだし」
母さんの言うドラマって月9ってやつだしな。たしか恋愛物だったはず、興味ないや。母さんが不満げな顔で『アキラもこういうのにちゃんと興味を持ってくれないと……』とかブツブツつぶやいてる。なんかイヤな予感するな。さっさと部屋に逃げよう。
「アキラちゃん、絶対に消すのでメモリーカードは返してくれませんか?」
せっかく忘れかけてたのに蒸し返すなよ!
「絶対に返さない」
「他の画像も入っているのです、お願いしますお願いします」
「……返してもいいけど、父さんとは二度と口をきかない」
「そのメモリーカードは謹んで贈呈します、アキラちゃんのお好きなように」
弱いな父さん。そういえばオレに殴り飛ばされた後、『なかなかのパンチです。だが、我が家では二番目ですね』とか言ってたな。一番は母さんか。
なんか気の毒になってきた。あの画像だけ消してカードは返すかな……。
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よし、だいたい片付いた。
勉強机には参考書。PCデスクにはパソコン。本棚にはマンガと小説。ベッドは窓際。枕元には目覚ましとガソタヌフィギュアが一個。カレンダーがあってポスターの類はなし。
シンプルだな、うん。
枕元のフィギュアに目をやりながら少し昔の事を思い出す。
これをくれた友達。小学校5年の冬、いきなり消えるように転校していった、オレの親友。
体力もなく、女顔で、大人しい子供なんて格好のからかいの対象だ。
イジメとまではならなかったが、結構な頻度でからかわれれば、当然内向的になる。友達らしい友達はほとんどいなかった。
5年生になって、隣の席に座ったアイツが話しかけてくるまでは。
明るくて運動もできて、愛されるバカとでもいうべき性格のアイツは、当然人気者だった。ちなみに勉強は本当にバカだった。うん。
「お、隣がこんなかわいい子なんてオレついてるなあははー! おじょうさんお名前は!?」
「……オレは男だよ」
「男だったのかあははー! お前ガソタヌすき?」
「……テレビはみないから、しらないよ」
「じゃあサッカーやろうぜ!!」
「……あと5分で授業だよ!」
「やべ教科書ないぞあははー! 見せてくれ!」
バカだったなー……。
行動力のあるバカに振り回されてる内に、オレも段々と明るくなり、それなりに皆と遊ぶようになっていった。
カードゲームはすぐ上手くなったな。サッカーは最後までヘタだった。無理矢理ガソタヌのDVDを見せられたな。公園で意味もなく走り回ったり、あれは疲れた。他にも色々と……。
そしてアイツは、オレを何故か一番の友達にしてくれた。オレも当然、アイツが一番の友達だった。……親友だったはずなのに。
「なんで、何も言わずに、転校してくんだよ……」
ベッドの上で膝を抱えながら思わずつぶやいた。
最後に会ったのは土曜日。日曜日には公園で集合な!と言って別れた。来なかった。月曜、火曜、水曜も。木曜日に先生が言った。『---ー君は転校しました』
ショックで一週間くらい、学校を休んだと思う。心配した母さんが転校の理由を調べてくれたが、わからなかったのか、オレには何も言わなかった。
他の遊び仲間は、徐々に慣れていった。アイツのいない状態に。オレはダメだった。元に戻っていった。アイツのいなかった頃に。
6年生のクラス替えで「元」遊び仲間とは別になり、中学に上がっては、学区の関係で顔見知りさえもいなくなり、と。
「今じゃネトゲ仲間だけが友達? だよあははー」
そのネットゲームも、受験前に引退しちゃったけど。これだけボッチで寂しいリアルなのに、よくネトゲ廃人とかにならなかったなオレ。
家族がいたからだけど。家族以外には壁を作るようになったから、だと思うけど。
「どこかで元気にやっているのかな、アイツ……」
何気に、女の子に『パンツ見せてあははー!』と言うクセがあったから、痴漢扱いされて捕まってたり。
今のオレに会ったら、パンツ見せろとか言ってくるのだろうか。もし会えるなら見せてやってもいいけどな、トランクスだけど。
くだらない事を考えて、落ち込んだ気分を慰める。
勉強……する気もなくなっちゃったな。マンガでも読もうかな。
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ゴロゴロと寝転がりながら一度読んだマンガをまた読む。まさにダメ人間。イカちゃんはかわいいなー。現実逃避できるかわいさだ。ゲソー。
「アキラ、そろそろお風呂に入りなさい」
現実に戻された。
「……一日くらい入らなくてもよくない?」
「生理でもないのに、お風呂に入らないなんて許さないわ」
いやな単語を聞いた。そのうちオレにもくるのかな。考えたくない。聞かなかった事にしよう。
「……洗い方がよくわからないから今度にする」
自分でも無理のある言い訳だと思う。つか言い訳になってない、あははー。
「母さんが一緒に入って教えてあげるわ」
「すみませんでした、一人でちゃんと入るので許してください」
冷静に考えればトイレであそこも見ちゃったし、風呂掃除の時に観察もしたしな。何も考えずにちゃっちゃと入ってこよう。
「男の子の時みたいにタオルでゴシゴシ洗うんじゃなくて、スポンジで泡を立てて、汚れを浮かせるの。一通り泡立てたら、髪の毛を洗って時間を置く感じね」
ふんふん。
「髪の毛は丁寧にね。頭皮だけは強めに指でよく洗って、他は揉むような感じで。シャワーでよくすすいだ後にコンディショナーよ」
めんどくさいな。
「せっかくキレイな肌と髪なんだからしっかり洗いなさい」
本人的にはどうでもいいんだけどな。
「……やっぱり母さんも一緒に」
やばい、考えてる事が顔に出てたっぽい!
「しっかり洗ってきます!」
脱兎のごとく風呂場へ。おっと下着とパジャマを忘れずに。なんか母さんがトランクスを見てる。超見てる。『サイズが合わなくても無理矢理私のを……』聞こえない!聞こえなかった!
ぽぽーんと男らしく素っ裸に。正確には髪の毛がひっかかったり、ジーンズが中々脱げなかったりしたけど。
バスチェアーに座って、手桶でお湯を体にかける。スポンジにボディソープを一押し、二押し。手で泡立てて、まずは首筋から肩へ。でもって腕と。どうもゴシゴシやらんと洗ってる気がしないなあ……。
背中はタオルじゃないと洗えないじゃないか。ボディタオルげっと。強くこすらないようにと……。
えーっと、おっぱい。無駄に出っ張ってて、柔らかくて洗いづらい。なんかくすぐったいし。ぷるぷると弾むので、片手で抑えて、円を描くようにして洗う。
持ち上げておっぱいの下も洗う。あひゃひゃひゃひゃ。いや声は出してないけどね。右乳終了。めんどくさくなってきた。
これ手に泡をつけて洗った方が早くないか? という訳で手洗いに変更。ぐにぐにぐに。楽な上にちょっと面白いな。色々形が変わって。もみもみもみ……。
……なんか乳首が立ってしまった。別に変な気分になった訳じゃないのだけど。自分で思ってるより敏感なのかな……。泡で隠せ! 見なかった。ピンク色で、ツンと立ってなんていなかった!
お腹。おへそ。腰からお尻へ。お尻も男の時よりなんかやわらかいな。なんというかすごい丸っこい感じだ。尾てい骨のあたりを洗う時に、びりっとした感覚があって、またあひゃひゃひゃしてしまった。
次は脚。ちょっと開いて、太腿から下へと。う、屈んだら思いっきり見てしまった。ここは後だ、後。
太腿すべすべだな。ふくらはぎ。膝と体を折り曲げないとダメだな。おっぱいと太腿がむにむにあたって気持ちいい。これいいな。足首。足の指と……。
最後はアソコと。もう開き直ってるし、自分の体だから見る分には全然問題ないんだけど感触がなあ。全体的にふにふにしてて、くすぐったかったり気持ちよかったりで……。
終了。疲れた……。かなり疲れた……。あ、髪の毛洗わなきゃ。頑張ろう。体に比べればマシだと思う。
髪の毛をなるべく前に垂らして、頭からお湯をかぶる。鏡を見て一言。
貞子。クスクスクス……。プールに行く機会があったら一発芸として、是非披露しよう。行く友達いないけどね。
シャンプーを付けて、頭皮を指の腹で強めに揉んで泡立てて、それを髪に伸ばして、手のひらで揉むようにしてと……。水気が足りないなー。お湯をちょっとだけかけて、泡立てて、伸ばす……。
ここまで何分かかってるんだろ? めんどい、マジめんどい。というか風邪引いてしまうわー!
シャワー。あったかい。気持ちいい。泡が流れていく。軽く頭をごしごしとして、髪の毛を手にとって、よくすすぐ。
で、コンディショナー。使った事ないんだよな。えーっと、頭皮につけないように? そんな危険な物を髪に付けるのか、女の人は。
手のひらに出して髪の毛に塗り塗り。この髪の長さだとすぐ無くなっちゃうのではと思ったが、そうでもなかった。付けた後はすぐ流して良いのかな? 少しだけ待つか。
もっかいシャワー。危険薬品を塗ったので、さっきよりも厳重に流す。しかし水使いすぎじゃないかな? ロングヘアーは環境の敵だと主張して切らせてもらおう。却下されるだろうけど。
やっと湯船だ!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
色々ありすぎて疲れた心と体に湯が染みる。
ちょっとぬるいかな。熱いくらいが好きなんだよね。いつもどんどん温度を上げて我慢できなくなったら上がる、というスタイルだから。健康に悪い? しらなーい。
当然次に入る人には熱すぎる訳で。だからお風呂はいつも最後にされている。
「……なんでいきなり女の子になっちゃったのかなあ」
心当たりがまったくない。中国の秘湯で溺れた事はないし、神様がでてきた訳でも、変な科学者に拉致られた記憶もない。
しかも家族以外には元から女の子という事になってるし、元が男だと知っているはずの両親も順応っぷりが半端じゃない。
それに自分自身もおかしい。色々と慌てたり恥ずかしかったりもしたが、既に慣れてきている。
仮にも昨日までは思春期の男だったのだ。正直成長は遅かった、声変わりさえまだだったが、それでもこっそりエッチな本を買う程度には男だったのだ。
そういう気分にならない。いくら自分の体だとはいえ、どうにもおかしい。他の女の人の裸を見れば、少しは反応するのだろうか。
「考えてもしかたないかー……」
だいぶ湯だってきたので出よう。
浴室の備え付けの、少し湿ったタオルで軽く体を拭いてから出る。
出口の足ふきマットを踏み踏み。洗面所の近くにかかっているバスタオルを取って、全身の水気をぬぐう。髪の毛を拭きながら鏡の前に。
女の子が映っている。長い髪、小さな顔、大きな胸、細い腰。
客観的に見れば、可愛らしくて、かつ良いスタイルなのだろうか?
基本的なパーツは自分なので、どうにも判断しかねる。性的な物も感じない。
自覚がないだけで、精神的にも女の子になっているのだろうか? たった一日で? わからない。わかりたくない。
「男を見て興奮できるか試してみようか? あははー……」
鏡の中の女の子が自嘲的に笑った。泣き顔にも見えるけど。
暗くなっていてもしょうがないか。とりあえず服を着よう。母さんのあの様子だと、明日絶対に女物の下着を買ってきて、着せられるんだろうな。憂鬱だ…。
更に暗くなった。ええい、着替え着替え!
タオルをハンガーにかけて、着替えの置いてあるカゴの前に。下着を手に取ったタイミングで、何故か洗面所に入るドアが開けられた。
デジカメを片手に持った父さん
下着を片手に持ったオレ(全裸)
うん、男を見て興奮できるな。別の意味でだけど。
「お風呂上りの火照ったアキラちゃんを是非とも撮りたくてですね」
「……で?」
「中々出てこないので、もしかして何かあったのかと」
「………………………………」
「何もなさそうで安心しました!」
パシャリ。
あるよ。ありまくりだよ。どうしてくれようか。オレが殴っても大して効かないだろうしな。
そうだ、この手はどうだろう? ちょっと恥ずかしいけど女の子なら問題ないな。うん、オレ女の子だし。
「きゃあああああああああああああああ!お母さん!おかあさーん!!」
うん、我ながら可愛い悲鳴だったな。
そして、リアルで空中コンボって可能なんだ。母さんマジすごい。
一応『アイツ』の名前その他は考えてあります。いつになったら出せるやら、ですが……