姉妹だなんてありえない
年始は更新できないかもしれません。
皆さん良いお年を。
母さんが黙々とオレの髪の毛をミツアミにしている。
横で縛ったり、ポニーテールにしたり、盛り? にしたりと楽しそうだ。オレは退屈だけど。
どう? 気に入った? と髪型を変える度に聞いてくるが、正直どうでもいい。
頭が引っ張られる感じでイヤなんだよな。切らせてもらいたいのだが、『絶対に許さない』『絶対に許さない』と無表情に2回も言われたので諦めた。
ちなみに下着の件は今日は許してもらった。
散々、サイズチェックという名目で陵辱を受けたオレは、割と限界だった。
半泣きになって『せめて下着は明日からにして下さい』と頼み込んだ。交換条件として髪の毛をいじられているという訳。
「これはどうかしら?」
「よくわかんない」
この1時間、オレの発言は「よくわかんない」「んー……、普通」「つっぱる感じがヤ」の3つくらいだ。
母さん不満そうだけど実際よくわかんないし!切らせてくれないかなあ……。
「母さんはポニーが良かったと思うのよ、お揃いだし」
と言いながらミツアミをほどき始める。
母さんの髪型はポニーテールで、色はちょっと茶色がかってる。顔立ちは似てるのかな?オレが少し釣り目なのに対して、垂れ目だけど。
「できたわ、お揃いお揃い」
うれしそう。
なんか格闘ゲームキャラの1Pカラーと2Pカラーみたいだな。攻撃力がだいぶ違うけど。高い方は言うまでもない。
「まるで姉妹のようね。お姉ちゃんって呼んでいいのよ?」
なに言ってるんだよオバサン。確かに外見は若々しいけどさ。
「まるで『 姉 妹 』のようね」
やばいな、思った事が顔に出たらしい。超怖い。
「お、お姉ちゃん……」
「あらやだ、お姉ちゃんだなんて。今度から外ではそう呼んでいいのよ?」
それは命令ですか。
「ただいまー」
お、父さん帰ってきたな。思ったより混んでたのかな?いつの間にか4時を過ぎてるし。
「ちょっと買い物したので遅くなってしまいましたよ」
と言いながら包み紙を開けてる。なんだろう、デジカメ?
「アキラくん写真集が昨日で完結ですからねー」
デジカメだった。テキパキと取り出して、こちらに向ける。
「今日からアキラちゃん写真集を作るにあたり、デジカメを新調してみました!」
パシャパシャパシャパシャ!
父さんきもい。パシャ! 写真集ってなんだよ。パシャ! 無駄遣いするなと言いたい。パシャ! ええい、この短時間で何枚撮るんだよ! パシャ!
「楓さん楓さん」
母さんがオレの隣に座る。
「おお! まるで姉妹のようですね! 二人揃うと可愛さ2倍ですね!」
母さんご満悦。なんかポーズとってるし。オレにも強要するのはやめて下さい。なにその横チョキ。
「あ、メモリーが満タンになってしまいました」
早いな、おい!
「くくく……。僕のメモリーカードは108枚まであるのです」
どうでもよくなってきた。
ポニーは後頭部が引っ張られる感じでヤだなあ。母さんにほどいて良いか聞いてみるかな。
「母さん、もうほどいていい? なんか頭がつんつんする」
「あら、似合ってたのに。慣れれば気にならなくなるわよ」
「んー、ダメだ気になる。いいでしょ?ほどいても」
「まあ十分遊んだしいいわよ」
よし! ふい~、すっきりした。『プレーンアキラちゃんキター!!』と父さんが叫んで、またシャッターを切り始めた。きもい。
軽く頭を振る。長い髪がバサバサとうっとおしい。ん~、先っちょだけ縛れば頭もつんつんしないかな?
ポニーを結んでいたリボンで、毛先の方を一握りして縛ってみる。あ、ちょっといい感じ。
「あら、悪くないわね。明日大きいリボンも買ってくるわ」
「アキラちゃんはどんな髪型にしてもかわいいですよハァハァハァ」
買わなくていい。あときもい。もういっかい頭をふってみる。うん、やっぱりいい感じだ。これでいこう!
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母さんが夕食の準備をするとの事で、オレはお風呂掃除。父さんは編集作業だそうな。
凄く気になるけど、見せてもらうのも怖いので、写真集とやらはオレの中では無かった事にした。いつか忍び込んで消去しようと思う。
ちなみに家事は、父さんは基本的に免除。力仕事が発生した時だけ。
なんだかんだで一家の大黒柱だしね。ゴミ出しとかお風呂掃除なんかをオレがやる事になっている。
お風呂か……。トイレでだいぶ免疫はついた自信がある。が、少し不安だ。どうやって洗えばいいんだろうか?
何となくだが、男の時と同じようにゴシゴシ洗えない気がする。恥ずかしいけど母さんに聞くべきかな?う~む……。
そういやまだ自分の裸もじっくり見てないんだよな。ちょっと見てみようかな、風呂場から出れば大きな鏡付きの洗面所があるし。
変な意味ではないです。好奇心です。自分の裸を見て、万が一にも鼻血とか出したらみっともないですし。なんでオレ丁寧語なんだろ。
洗面台の前に立つ。上半身から腰まで見える大きな鏡。
シャツ2枚をぱぱっと脱いでと。最後の一枚を…………。ええい、男は度胸だ!
ん、鼻血は出なかった。つか冷静に見れるな。良かった……、のか?
細い首、きれいな鎖骨のくぼみ、その下にはお椀型のおっぱい。曲線を描いておへそ。腹筋一応割れてたのになあ、軽く縦にスジは残ってるけど。でっぱってないからいいか。というかキュッと締まってる。
「肩も凝るはずだよなあ、大きいわこれ……」
手で軽く持ち上げて見ると、ズシリと重い。やわらかいんだけどな。何が詰ってるのやら。
腰に手を当ててみる。細い。元から太ってはなかったが何でウエストだけこんなに細いんだ。女の子はみんなこうなのか?いや違うな、悪いけど。
中学の頃の、ちょっと太めな子の事を思い出して、何気に失礼な事を考える。
もっかいおっぱいを持ち上げて、鏡に近づいてじっと観察。
むう、なんか男の時より乳首とか乳輪? が、おっきくなった気がする。むー……。
体を捻って背中を見ようとしたり、腹筋に力を入れたり、おっぱいをムニムニしてみたりと、色々観察を繰り返していた。かなり慣れてきた。自分の体だし、どうって事ないかも?
二の腕をつまんでぷにぷにしていたら、ふと視線を感じた。くるっと右に90度。具体的には顔を右に向けて入り口を見ると……。
父さんがいた。
「や、やあアキラちゃん……」
「……………………………………………」
硬直した。おっぱい丸出しで。
硬直している。片手にはデジカメ。
父さんが動き出した。オレはまだ動けない。
「ハイ、チーズ」
パシャリ。
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オレは生まれて初めて親を殴った。
飛距離は中々だった思う。