身体測定なんてありえない
クローゼットを開けたら洋服が全て女物になっていた。
という事は幸いにしてなかった。
良かった。持ち物まで改変されてて、ガソタヌのフィギュアがファンシーキャラのぬいぐるみになっていたとかじゃなくて本当に良かった。
ちなみにガソタヌとは、タヌキ型モビルキグルミーが活躍する大人気ロボットアニメだが、今はどうでもいい。あいつが大ファンだったな……。
どれを着ようかな。適当なシャツにジーンズでいいか。Tシャツと、薄青のコットンシャツをチョイス。黒のデニムジーンズと。
プチプチとバジャマのボタンを外す。胸が楽になった。ちょっときつかったんだよね。ズボンも脱ぐ。我ながらスラっとして長い脚。でも筋肉落ちてるか?ついでに腕も見る。むう……。
そういや身長はあまり変わってないな。袖口から覗く手足から推測して、だけど。オレはかろうじて160cmのチビだけど、女になったら140cmになった、とかいう事がなくて本当に良かった。
先にTシャツを着てと。胸のせいで微妙に丈が足りないな、どんだけでかいんだよ乳。気にしない。ジーンズをはく。む、おしりでつっかえるぞ……。でもいける。いけた!
途中でつっかえた割にはウェストは随分余ってるな。ん~、腰でぴっちり引っかかってるしベルトは無しでいいか。
コットンシャツを羽織ってボタンを留めていく。胸がきつい。ホント邪魔な脂肪だなこれ!仕方ない、第二ボタンまでは開けておこう。
靴下をはいて着替え完了。今回は泣かないで済んだ。ま、着替えただけだしな……。
ちょっと体力チェックしてみようかな。何かの本で見たけど、男性と女性では筋繊維の数は変わらないが、太さが最初から違うとかなんとか。そのせいで一定レベル以上では、どうしても差がついてしまうそうな。
こう見えても、何かあった時に男の意地を見せられるように、それなりに鍛えてたんだよね。容姿が容姿だったし、勉強だけだとなめられるから。
腕立て伏せ30回くらいはできたのだ。腕を大きく開いて、ゆっくりと、胸が床に付く寸前まで上げ下げするってやつ。結構つらいんだよ?
よし、腕立てだ。
ぐい~……、ぷにっ。ぐい~……、ぷにっ。
よし、速攻で胸が床についた。
気にしないでおこう。は~ち!きゅ~う!じゅ~う!髪の毛が邪魔だな、あとで母さんに切ってもらおう。
「貧弱な坊や、ちょっといいかしら?」
「誰が貧弱だよ!」
ノックもせず入ってきて、そのセリフかよ母さん。
「かよわいお嬢さん、ちょっといいかしら?」
「……なに?」
めんどくさくなってきたので、普通に返事をした。母さんこんなキャラだったかなあ。
「下着を買ってきてあげるから、サイズを測らせなさい」
オレは逃げ出した!
だが廻り込まれてしまった。
「い、いらない!このままでも別に困ってないし!」
「ブラジャーしないと型崩れするわよ?あと肩凝り対策にもなるし」
へーへーへー、肩凝り対策にもなるのか。ってどうでもいい!
「とにかくいらない!男がブラジャーだのパンティーだの変態じゃないか!」
「女の子でしょ、ノーブラでトランクスの方がよっぽど変態よ」
「クラスで着替えの時とかどうなるかしらね?すっごい目立つわよ?あっという間に有名人よ?いいの?」
「走ったりすると揺れて痛いわよ?男の子にもじろじろ見られるでしょうね?それとも注目されたいの?」
目立つ。じろじろ見られる。有名人。注目。嫌な単語が羅列される。全てオレが望まない事だ。でも……。女性用の下着……。
「でも……、男のプライド的な何かが…………」
「現実には女の子なんだから、それに合わせる努力をしなさい。母さんだって複雑な気分よ」
そっか、母さんも複雑な気分だったのか。仕方ないな……。こうなっちゃったら諦めて、見てくれだけでも女の子になる努力をするかな……。
俯きながらも『はい』と答えると、母さんがやさしく微笑んだ。
「わかってくれたのね。母さんも色々悩んでるのよ」
そっか、母さんも悩んでたのか。そうだよな……。いきなり息子が女になっちゃうなんて。普通ならもっと混乱するよな。ごめんよ母さん、無駄に大騒ぎして取り乱して。
「どんな下着がよいかしらとか。かわいい系かセクシー系か、とか。あ、髪型も色々試して遊びたいし」
「服もちゃんとした所で買いに行きたいけど、まずは下着を揃えてからね。試着の時、店員さんに見られると困るし」
オレは大騒ぎして取り乱した。
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「えっと、トップがきゅうじゅうの……」
「口に出さなくていいから」
「アンダーが……」
「だから口に出さなくていいから!」
「いいわね若くて張りもあって。形もいいし。母さんちょっと嫉妬しちゃうわね」
「だからそういうの言わなくていいからー!!」
主人公がちょっとキレすぎてるので次回は大人しくさせたい……。