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遅刻なんてありえない

少しだけ番外編のネタが入っております。

小ネタなので、本編のみでも問題はないと思います。

 土曜日。

 お弁当を作らなくても良いので、いつもより少しだけ早く登校する。

 今朝も良い天気で、帰る頃にはブレザーを着るには暑い気温になりそうだ。

 駅前通りを抜けて学校に近づくにつれ、同じ制服を着た、うちの学生が増えてくる。

 テレビの話題で盛り上がっている二人組や、なにやら追いかけっこっぽい事をしているグループなどが目に入る。

 ちょっと前までだったら少しうらやましかったけど、今はそんな事はない。

 マツリちゃんや林田さん、クラスメートの皆もいるし。


 何よりもコーイチがいるから--




 そう思っていた時期もオレにはありました。

 3~4日くらい前までは。

 むー、いったいどうしてこうなるんだ。

 コーイチがここ数日妙にそっけない!


 なにも小学生の時みたいに、登校してから家に帰るまでずっと一緒に遊ぼうって訳じゃない。

 でも数年ぶりに再会したのだし、もう少しオレと一緒に過ごしても良いと思う。

 それなのに全然オレに構ってくれない。

 例をあげると……。




『その1、お昼に誘った時』



「コーイチ、一緒にお昼食べよう」


「林田達と食えよ、俺学食だし」


「学食持ち込みオッケーだよね? だから一緒に食べよう」


「だが断る」


 と、非常につれない。

「ふぐぐぐぐっ……!」と目に涙を浮かべて脅してみても、「お前、それ嘘泣きだろ? だんだん俺もわかってきたからな」と軽く返されたり。

 泣き落としはコーイチに対して非常に有効な攻撃(主に言う事をきかせる)だったので、調子に乗って泣きすぎた。

 仕方ないので実力行使をしようとしたら、



「暴力反対! せんせえ、アキラくんがボクを殴ろうとしていますありがとうございます!」


 大声で叫ばれ無駄に注目を浴びて、硬直してしまった隙に逃げられた。




『その2、家の場所を聞いた時』



「コーイチ、家教えてよ。遊びに行きたい」


「悪いなアキラ、俺の家は3人用なんだ」


 変な髪型で有名な某永遠の小学生みたいな返事をされた。

 じゃあオレの家に遊びにおいでよ、と言ったら「それだけは断固として断る!!」と叫び、何故かガタガタ震えだした。

 ……オレなにかしたかな?

 と、あっけにとられている内にまたもや逃げられた。




『その3、一緒に帰ろうと誘った時』



「コーイチ、一緒に帰ろう」


「一緒に帰って噂とかされると恥ずかしいし」


「……なにそれ」


「俺と一緒に帰りたかったらパラメーターを全て100以上にするんだな!」


 そう言い捨てて、何故か女の子走りで去って行った。きもかった。




『その4、意を決して、何でオレを避けるんだと問い詰めた時』



「別に避けてる訳じゃない。ただ、俺は本来ボケる方なのに、お前と長時間一緒にいるとツッコミ役になるからイヤだ」


「ツッコミ役がイヤ?」


「おう。最初は、久しぶりに会ってテンション上がってるだけだと思ったけど、全然治らねえじゃねえか」


 天然にも限度があるだの、俺の身が持たないだのとぶつぶつ言ってる。

 ボケとツッコミ? 全然治らない?

 うーん……よくわからない。

 オレにつっこむのがイヤなの? と尋ねたら、



「別の意味でなら是非ともつっこませてもらいたいがな」


 と返ってきた。

 なんとなく邪悪な気配を感じたので後ずさったら、周りの女子が大騒ぎを始め、



「ちょっと林田さん呼んできて! 八神がハレンチな事を美里さんにしようとしてるわ!」


「美里さん、早く逃げて!」


「待ってなさい、今すぐ殺してあげる!」


 有無も言わさずコーイチがボコボコにされて有耶無耶になった。




 そういう訳で、せっかく再会したのに全然一緒に過ごせていない。

 本来なら登校から休み時間から放課後から家に帰るまでずっと一緒にいるべきなのに。小学生の時はそうだったのに。

 百歩譲って高校生だから色々あるし我慢するとしても、その半分くらいはオレを構うべきだと思う。

 それ以外にも、メールとかオレが10通送って、返してくるのは1通とか。

 10通送ったら20通返してくるのが礼儀だと思う。いや義務だと思う。親友として。


 むー……。

 冷たい!

 コーイチは冷たい!

 昨日なんか田中と一緒にトイレに行ったりしてたし!


 うー……。

 なんか納得いかない。

 段々腹が立ってきた。




「許せない!」


 思わず声に出してしまったら、



「うわ、すいません!?」


 と謝る声が。

 ん? と思って顔を上げたらモブAがいた。



「今日は部活のない土曜日なので、以前お話したゲームセンターにお誘いしたのですが、不愉快にさせてしまったようでホントすいませんでしたぁ!!」


 ヤキソバパンを2個ほど押し付けて去って行った。

 ごめん、考え込んでいて横にいたのに気付かなかった。

 でもなんであんなに怯えていたんだろ?



「お前今度は何をしたんだ?」


「普通にゲーセンに誘っただけなんだけど……」


「ところでヤキソバパンいくつ持ち歩いてんだ?」


「常時20個持ってる」


 サムズアップしているモブAと、呆れているモブB。

 仲良さそうだな……一緒に教室に行くようだし。

 ふん、うらやましくなんかないからな。


 とにかくコーイチが許せない。

 絶交だ!

 とりあえず2時間目くらいまでは無視してやる。



「よー林田、今日も良い天気だなところでパ――」


 む、この声は……。



「はいはいパンツパンツ。朝っぱらからバカなの? 懲りないの? 学習能力ないの?」


「……パープルと思われるお前のブラジャーを見せろ」


 コーイチと林田さんが後ろから来た。



「パープリンなアンタに見せるブラジャーなんてないわよ」


「それって褒め言葉か? 俺は少しだけ英語が苦手なんでな」


「そうよ? 自分はパープリンですって今度から自己紹介なさい」


「なるほど勉強になったぜ!」


 ……なんか仲良さそう。



「はあ……アンタなんかと一緒に教室に行きたくないからちょっと寄り道するわ」


「俺だって一緒に登校して噂とかされると恥ずかしいし」


 いやんいやんと身体をくねらせるコーイチを見て、「恥ずかしいのはアンタよ」と言い捨てて立ち去る林田さん。

 部室棟の方に行ったのかな?

 一人取り残されたコーイチはまだくねくねしている。

 登校中の他の生徒が、腫れ物でも扱うかのように避けて通行しているんだけど。


 じー。

 コーイチ無駄に身体柔らかいな。

 くねくねからヨガ体操みたいになってきた。



「邪悪な視線! 誰だ!?」


 邪悪じゃなくてバカを見る視線だったんだけど。

 きょろきょろと辺りをうかがい始め、すぐにオレと目が合った。

 ふん、2時間目までは無視してやるんだからな。

 顔をそむけて下駄箱に向かおうとすると、



「ってアキラか。おはよう、今日も良い天気だなー」


 普通に声をかけてきた。

 しょうがないなあ。

 挨拶されたら、ちゃんと返さないとな。



「お、お、おはようコーイチ!」


「おう」


 ちょっとどもっちゃった。

 コーイチは普通なのに恥ずかしい。

 えーっと、えーっと……。



「オ……オレの今日のブラジャーはグリーン!」


「……そうか」


 あれ? ついさっきまで普通の顔だったコーイチが何故かげんなりしている!?

 グリーンじゃダメなのか!?



「ごめん! グリーンでごめん! 今度パープルのを着けてくるから! ごめんね?」


「……いや別に何色でも構わんのだがな」


 その割に凄い暗い顔だぞ?

 安心してくれ、パープルは母さんの好きな色だから結構いっぱい買ってあるんだ。



「ちょっとあの金髪、女の子脅してブラジャーの色を聞き出してるわ」


「さいてー、なんか謝らせてるし」


「ちょっとクラスで広めてくるわ、気をつけましょうって」


 通りすがりの女生徒の会話を聞いてコーイチが更に暗くなった。



「アキラ」


「うん?」


「自重してくれ」


「?」


 自重って何を自重すれば?



「きょとんとした顔してんじゃねえ」


「むむ……」


「俺は自分で自分の評判を落とすのは好きだけど、人に落とされるのは嫌いなんだよ!!」


「?」


 更に訳がわからなくなった。

 自分の評判を落とすのが好き?



「……マゾなの?」


「そうかもしれん。ってちげーよ!!」


「じゃあなんなの?」


「はっきり言うとだな、アキラが変な言動をするせいで、俺の評判が棒グラフの底辺をぶち破って地下300メートルくらいまで下がってる」


 オレのせいで?



「容姿にふさわしい言動をしろ。ちょっとでいいから。せめて人前でパンツとかブラジャーとか言うな。わかったな? な?」


「いつもパンツとかブラジャーとか人前で騒いでいるのは、オレじゃなくてコーイチじゃないか」


「お前も一緒になって言うのが問題なんだよ!! パンツ! プラジャー! 禁止!!」


 むー……差別だ。

 さっき林田さんもパンツだのブラジャーだのって言ってたのに。



「やだあの男さっきからパンツとかブラジャーとか大声で」


「先生に言いつけましょう」


 通りすがりの女生徒の声を聞いて、激昂していたコーイチが黙り込んだ。



「……ふん、これくらいで俺は負けん。パンツ! パンツー!!」


 立ち直った模様。



「とにかく、アキラはパンツとかブラジャー言うな。見せようともするな。うれしいけど禁止だからな」


「えー……なんでオレだけ……」


 ギロっと睨まれた。



「だいたい女らしくネコかぶりしてたんじゃなかったか? 最近じゃ他のヤツらの前でも、しれっと『オレ』で通してるし」


「む……」


 散々母さんに脅されたりして『ワタシ』とか言ってたけど、やっぱりこの方がしゃべりやすいし。

 特にいじめられる様子もないし、他の人も別に気にしていないみたいなので……。



「周りにも心を開いたって事だろうけど、知らない人が見たらすっげー違和感あるからな? ぶっちゃけると変な子扱いされてもおかしくないからな?」


「それは大丈夫。クラスの人達にしか、そういう喋り方しないから」


 どちらかと言うと、敏感に何かを察した母さんの方が怖い。

 昨夜も久しぶりに立ち振舞いで注意されたし。

 ……ちなみに、反抗したら2時間ほど着せ替え人形にされた。



「じゃあそれは置いておこう。他にもだな、お前最近暴力を振るうよな? 主に俺に」


「大丈夫。田中にも振るっているから」


「そうか……ってちげーよ! 暴力は良くないと思います!」


「だってコーイチ、最近妙に冷たいし、構ってくれないし、オレが林田さん達に酷い目に合わされてても助けてくれなかったりするからだ!」


 ちなみに林田さんは、この前お仕置きをしたら凄い変な事になった。



「林田は良い物見せてくれたよな林ぱねぇマジぱねぇですってその振り上げた拳を降ろすんだアキラ」


「……………………」


「まあ色々忙しかったんだよ。正直すまんかったと謝るから、また林田やちっこいのとのプレーを見せてくれ」


 パーン!

 何がプレーだ。

 あんな恥ずかしい事を……。



「すみませんでした」


「うむ」


「ってだから暴力は振るうなよ……俺がアキラに手を出せないってわかってるだろ」


「あ、うん、ごめん……」


 そうだった。

 コーイチは絶対オレには手をあげないんだよな。

 そう考えるとちょっと卑怯だったかも。



「別の意味では手を出したいんだけどな」


 パーン!

 あ、ごめん。

 なんか邪悪な気配を感じたからつい……。



「こんな往来でどつき漫才をなさるなんて恥ずかしくないのかしら」


「きっとあの金髪の殿方が無理矢理付きあわせているんですわ」


「まあ、お可哀想に」


「本当、ひどい殿方だこと」


 通りすがりのお嬢様達の会話を聞いてコーイチが(略



「話が進まんので、端的に俺の要望を言うから聞いてくれ」


「うん」


 ところで何の話だっけ?



「もっと女らしくしろ」


「え、ヤダよ」


 だって男らしくしないとコーイチが困るじゃないか、変に気を使っちゃうらしいし。



「……………………」


「……………………」


 お互いに沈黙。



「何故だあ!!!!」


「うわ、びっくりした」


「男の娘だった昔はともかく今は女だろ!? お袋さんだって心配してるんだろ!? 普通に女らしくしてもいいじゃないか!!」


 どうにも発音が気になる……。

 ま、いっか。

 仕方ない、おバカなコーイチの為に説明してあげよう。



「ほら、変に女の子らしくしちゃったらコーイチが気を使っちゃうじゃない? やっぱり親友に変な気遣いをさせるのは良くないでしょ? だから男らしくするんだよ。大丈夫大丈夫、この春まで男だったし。自分でもちょっと不安だけどね、中学の時には男なのに男から告白されたりもしたから……でも頑張る。男らしくする。夕焼けの公園で拳で語り合えるくらいにはなって見せるから――」


 あれ?

 なんだかコーイチが下を向いちゃっているぞ。

 なんでだろう。

 オレの熱い想いを聞いて感動しちゃったからかな?



「アキラ……」


「うん?」


「変に気は回さないから普通にしてくれ」


「わかった、普通に男らしくする」


 うがー! っとコーイチが暴れ始めた。

 なんなんだいったい……。

 とにかく話は聞いたから、これで良し。

 頑張って男らしくしよっと。

 コーイチが死んだ魚の目をしているのが気になるけど。



「アキラ……」


「うん?」


 濁った虚ろな瞳のままボソリとコーイチが続けた。



「ちょっとでも女らしくしてくれたら今日の放課後、遊びに連れて行ってやる」


「わかった女らしくする」


 やべ、反射で答えちゃった。

 ま、いっか。

 ちょっとで良いらしいし。パンツって言わなければオッケーと見た。


 しかしコーイチと一緒に出かけるなんて小学校依頼だなっ。

 小学校で別れたから当たり前だけど!

 楽しみだ!


 両手を握ってぶんぶん振り回していると何故かコーイチは溜息をついた。



「もうちょっと他の連中と仲良くなってからが良かったんだがな……」


 なんだろ? ぼそぼそと小声でしゃべったので良く聞き取れなかった。



「なに? よく聞こえなかったよー?」


「なんでもねえよ気にすんな」


「そっか」


「ああ、ボケてつっこまれたいよなあ……俺はボケ役なんだけどなあ……」


 なにやら遠い目をしている。

 変なの。



「つっこみならワイにまかせろ!」


 あら、カッキー。いつの間に。



「なんだゲームの先生かおはようございます試験範囲教えて下さい!」


「おはようございますカッキー、PNPが欲しいです!」


 コーイチがボケたので同じくボケてみたり。



「お前ら仲良いな! ……って、どっちもお断りや。それより」


 それより?



「お前ら遅刻や。放課後ワイのトコまでな」


 そういえば教室どころか校舎にも入ってなかった。

 ……しゃべりすぎたっぽい。

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