表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/39

親友なんてありえない 【スーパー】

 顔を洗って教室に戻ったら女の子達に囲まれた。

 更衣室の悪夢を思い出して、ちょっと強張ってしまう。

 みんなして口々に色々と話し掛けてくるのだけど正直対応し切れない、と言うか全員同時に喋ってくるのを全部理解するなんて無理。

「彼氏?」とか「付き合っているの?」とか、謎の単語は聞き取れたんだけど……。


 いい加減に困り果てていたら「ただいま戻りましたですよ!」と元気の良い挨拶とともにマツリちゃんがダッシュで近寄ってきた。

 人垣をアクション映画のように飛び越えるという、その小ささに見合わない身体能力を見せつけて-ー

 ちょっ!

 避ける訳にもいかないのでキャッチ。マツリちゃんが軽くて良かった……。



「ほわぁ~……お姉様のエアバックは最高なのですよ」


 そのまま無言で降ろす。

 牛だのエアバックだの失礼な。



「お姉様! マツリは頑張ったのですよ!」


「なにを?」


「あの金髪の人とお姉様は何でも無いって学校中にふれまわってきたのですよ!」


 金髪の人……コーイチの事かな。



「お姉様に恋人が出来たという噂が、早くも駆け巡っていたのですよ……その幻想はぶち壊さないといけないのですよ……」


 よく聞き取れなかったけど、なにやらマツリちゃんが黒い表情をしている。ちょっと怖い。

 軽く引いていたら、また周囲が大騒ぎを始めた。



「婚約者って本当!?」「違うわよ、ただの友達でしょ!」「いいなあ……恋人いいなあ……八神君がうらやましい」「俺はまだ諦めない!」「金髪にしてきました!」「……実はボクもバカだったんですよ」「抹殺、抹殺、抹殺……」


 いつ戻ってきたのか、男子も混ざっているし。

 もしかしてクラス全員に囲まれている? イジメ?

 泣けば許してくれるかしら……って今日は泣きすぎ。



「はいはい、美里さんが困ってるでしょ? 少し落ち着いて? ちょっと黙って? ここは私に任せてね?」


 人垣を蹴散らしながら林田さんがやってきた。

 そのまま横に来て肩を抱いてくる。

 むむ、さっきから妙にベタベタしてくるな。



「端的に言うと皆はね、あのバカ……もとい八神の事が気になっているのよ」


「コーイチの事が?」


 事故の直後だし心配されているのかな? それとも金髪が気になるんだろうか?



「ほら、美里さんは八神と友達なんでしょう?」


 友達じゃなくて親友だけどと思いながらもコクコクと頷いて答える。

 それにしても耳元でしゃべるのはくすぐったいので止めて欲しい。



「単なる友達なのよね?」


「違う! コーイチは親友!」


 ここは流石に訂正しなくては!



「そ、そうね……親友だったわね? でもあくまで友達なのよね?」


「うん?」


 あくまで友達ってどういう意味だろう? 悪魔? 確かにコーイチは悪そうに見えるけど悪魔呼ばわりは……。



「要するに二人は付き合っているのかって事よ。恋人的な意味で? ラブ的な意味で? 彼氏と彼女の事情的な意味で?」


 うぇ……なんでそんな事を聞かれるんだろう。

 コーイチの事は好きだけど、そういう風に見られるような事はしてたかな?

 冷静に自分の行動を振り返ってみる。


 してた……かも?

 かもどころか、かなり変な言動をしてたような気がする。

 落ち着いて考えると結構すごい事もしようとしてた気がする。

 でもあれは友情的な物で、色々とうれしくて舞い上がっちゃった物でもあって……。

 男でも女でも親友だ、なんて言われたり。


 思い出して、にへらっとしていたら返事を急かされた。



「どうなの? 無いと思うけど? ありえないはずだけど? まさか二人は愛し合っているとか?」


 林田さんの言葉に、全員が物凄い緊張した様子でこっちを見ている。

 男子の何人かは血が出そうなくらい拳を握り締めているし。



「あ、ごめんなさい。えっと、そういうのは無い。コーイチとは普通に友達だよ」


 よっしゃー! とガッツポーズを取る男子達。何故かハイタッチをしている女子達。

 むむ?



「本当に? 実は好き合っているのなら隠さなくても良いのよ? 公表しても良いのよ? オープンにしても良いのよ? ……八神は抹殺するけど」


「無いってば、そんなのありえないよー」


 手をひらひらと横に振って、もう一度否定する。



「恋人になるなんておかしいよ、相手は男だよ? 友達ならわかるけど……」


 男同士で付き合うなんてちょっとあり得ないと思う。

 って今は女だったっけ……。



「そ、そうよね!? 男と付き合うなんてあり得ないわよね!? おかしいのよね!? ああ、良かったわ!」


 林田さんが歓喜の表情でオレの胸に飛び込んできた。

 ちなみにマツリちゃんは腰に抱きついてきている。

 他の女子も大喜びの様子で何故か万歳三唱してるし、男子の方はと見れば、力なく肩を落としお通夜みたいな雰囲気になっている。

 ……なにこれ?



「ちょっとなに見てるのよ男子、聞いたでしょ? 男と恋人になるなんて無いって。おかしいって。ありえないって。気持ち悪いって」


 林田さんが手でしっしと追っ払うポーズを取って睨みつけると、男子達は俯きながら三々五々に散っていった。

 こんなアスキーアートがあったなー、はっぴを着たネコが集団でトボトボ帰るやつ。


 ちょっと気の毒に思えたけど本音だからしょうがないかな、気持ち悪いとまでは言ってないけど。

 今は女だから男と付き合っても別におかしくはないんだろうな。

 色々と慣れてきて女性っぽくなった? とは思うけど、男子とどうこうってのは……。

 かと言って女子にも元々たいして興味が無かったから何とも……。



 ……だいたい恋人になるとか付き合うってなんなのかな?


 うーん……。

 深く考えると、なんとも言えない不安な気持ちになってきた。

 ちょっと怖い。

 色々な意味で混乱しそうだし止めておこう。


 何か別の事、別の事……そうだ、もっと男らしくしないとコーイチが無駄に気を使っちゃうんだよな。

 ここは一つ、男らしさをアピールして友情を深めたい。

 夕日の中で熱い抱擁とか?



「何を考え込んでいるの? 負け犬な男子達の事を気にしているの? 男なんて気にしないで女の子同士の事を考えましょ? 主に私の事とか」


 林田さんが謎の発言をしながら、更に強く抱き付いてくる。

 それだけじゃなく、あとほんの少しでも近寄ればキスでもしそうなくらい顔を寄せてきているし。

 うっすらと化粧もしているのかな? なんだか良い匂いがする。

 林田さんはちょっとキツいけど美人だよな……って近い近い、色々と近い。



「林田さん、ちょっとくっつきすぎ……苦しい」


 実はそんなに苦しくないけど恥ずかしい。

 正面から密着しているのでお互いの胸がなんだかすごい事に。

 むにむにとして、ちょっとくすぐったい。


 って誰だ、おっぱい同士の隙間に手を入れてくるのは?


 マツリちゃんでした。

 ……何でそんなにおっぱい好きなの。



「林田さーん、あとマツリちゃん……」


「ごめんなさい、つい……でね、まだ聞きたい事があるのよ」


「とてもとても良い感触だったのですよ」


 やっと離れてくれた。

 ……と思ったら今度は横に来て、腕を組んできた。



「当てているんだけど、どうかしら?」


 どうと言われても……。

 返答に困っていたら、対抗するようにマツリちゃんも腕を組んできた。



「当たらないのですよ……」


 えーっと、なんとなく慰めておこう。

 頭を撫でていたら、林田さんが真剣な声音で話し掛けてきた。



「その、ね……ちょっと昔の事なんだけど」


 さっきまでとは打って変わって、なにやら言いづらそうな様子だ。

 えーっと、とか、あのー、とか、いつもハキハキとしゃべる林田さんには珍しく、声を出しては途切れさせ躊躇している。

 しばらくモジモジした後、意を決したのかオレの腕を離して正面に回る。



「入学式の自己紹介の時……友達なんていらない、って言ったわよね?」


 あ……。

 顔から血の気が引くのがわかる。

 コーイチに色々言われたからじゃないけど、今思い出してもひどい自己紹介だった。

 みんな優しいから、あんな事を言ったなんてすっかり忘れていたけど。

 急に自分が恥ずかしくなり、自然と頭を下げて謝罪の言葉を口にする。



「……ごめんなさい」


「あ、違うのよ!? 別に責めたりしている訳じゃないの! 謝ったりなんてしなくていいのよ!」


 違うのよ違うのよ、と慌てた様子で何度も繰り返した後、更に続ける。



「でも、ごめんなさいって言うからには、美里さんも本気で言った訳じゃなかったのね……悔しいけど八神が正しかったのね……」


「ふふん、マツリは最初からわかっていたのですよ」


 あの時は結構本気で言ってたんだけど……。



「私もまだまだね、でも今からでも遅くはないわ。それでね! 美里さん!」


 ガシっと肩を掴まれる。

 うう、なんだろう……。



「好きなの! 私の恋人になって!!」


 え……?

 怒られたり責められたりするのかと思っていたら告白された。

 林田さんは女の子。

 えーっとオレも今は女の子。

 ?

 ???


 なんて答えれば良いのだろう?

 ……お友達で?

 むむ、ちょっと動揺している。いやかなり動揺しているかも。



「マツリを差し置いて何を言っているですよ!?」


 ここで下から大声が。

 見ると、マツリちゃんが激怒しながら林田さんに詰め寄ろうとしている。

 でも頭の天辺を押さえられて、腕だけグルグル振り回している。

 かわいい。


 混乱しそうな時は小動物的なものを眺めるに限るって、ばあちゃんが言ってたな。

 と言う訳で冷や汗をかきつつマツリちゃんをひたすら眺めていたら、林田さんが慌てた様子で続けた。



「ちょっと間違えたわ! 物事には順序があるし……ごめんなさい、もう一度! って村野さん邪魔しないで!」


 びっくりしたけど、間違いだったのか。

 初めて女の子に告白されたと思っちゃったので、少しだけ残念な気がしないでもない。……少しだけ。

 男の時に、男から告白された事はあったけど。

 ……嫌な事を思い出しちゃったな。



「あのね!」


 ほんの少しの間、物思いに耽っていたら、どうやらマツリちゃんを落ち着かせたらしい林田さんが再度詰め寄ってきた。



「まずは! まずは友達からで! とりあえずそれで我慢するわ!」


「あ、はい……宜しくお願いします?」


 頭を下げながら差し出された右手。

 つい反射的に握ってしまい、流されるように答えてしまった。



「やったわ! これで一緒にお風呂とか入ってもいいのね!」


 林田さんがおかしな発言をしつつ、オレの手を握ってブンブンと上下させる。

 お風呂ってなんだ。



「ちょ! 親友のマツリがまだ友達じゃないのに、林田さんと先に友達になるなんてどういう事ですよ!」


 興奮しているのか、マツリちゃんの発言もちょっとおかしい。

 ムキーッという表現がぴったりな万歳ポーズで詰め寄ってくる。



「こうなったらマツリも友達になるですよ! コンゴトモヨロシクなのですよ!」


「あ、はい……コンゴトモヨロシク?」


「やたー!!」


 今度の万歳ポーズはヒャッハーッて感じ。

 こんなに喜んでくれると、ちょっと照れる。



「そして一緒にお風呂に入るですよ!」


「私も! 髪を洗ってあげるわね! 背中も流してあげるわね! なんなら前の方も--」


「入りません」


「「ええー……」」


 友達になって、と言ってくれたのはうれしいけど、なんでお風呂を一緒に入らなきゃいけないんだ。



「わかったわ……一緒のお布団で寝るので我慢する」


「そんな羨ましい事はマツリも参加するですよ!」


「……いやそれも無いから」


「「えええー……」」」


 えええー……じゃないって、と思わずジト目になってしまう。



「じゃあ今の段階では抱き付くだけで我慢するわ」


「いやそれも出来れば遠慮して欲しいのだけど……」


「何を言っているのですよお姉様、女の子のお友達同士なら抱き合うくらい当然なのですよ」


 そうなの? と思って周りの女子を見渡したら全員がウンウンと頷いている。

 そうなのか……女の子の友達って奥が深いな……。



「ちなみに気分が高まればキスとかもするから。もちろん友情的な意味でよ? フレンド的な意味でよ? お友達になった記念でしてみない?」


「それはさすがにウソだ!」


「林田さん、それはさすがにですよ……」


 マツリちゃんでさえ引いているじゃないか! と迫ってくる林田さんの顔を必死に押しのけていると、他の女子達も近寄ってきては口々に、私とも友達になってと言ってきてくれた。


 入学したての頃は変に警戒しちゃったけど、皆良い人達だし素直にうれしい。

 コーイチが戻ってきた事もあるのかな、我ながらちょっと現金かな。



 でも……まあ……許してくれそうな気がする。



 それはさておき。

 現在進行形で林田さんは唇を尖らせながら迫ってきている訳で。

 なんとか引き剥がしたいんだけど、悲しい事に林田さんの方が力が強い訳で……。



「いい加減にするですよ!」


 うあ、マツリちゃんがグーパンチ。

 ……あの林田さんが一撃で意識を持っていかれた?



「は、初めて人を殴ってしまったですよ……」


 両手を見つめてプルプル震えている。

 前から身体能力高いなあと思っていたけど、まさかここまでとは……。



「暴力をふるってしまったマツリは汚れてしまったですよ……この責任はお姉様にとってもらうしかないですよ」


 唇を尖らせながら迫ってくるマツリちゃんを必死に(以下略

 って怖いな女の子の友達!

 ……男の友達も欲しくなってきた。






 ↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓↑↓






 このままだとマジで3日で学校をしめれるかもしれないな等と思いながら教室に戻ったら、アキラが女まみれになっていた。

 俺がむさい男と拳で語り合っていた間にアキラはハーレムを作っていたのか、アキラ爆発しろ。


 まあいい、この怒りはむさい男共にぶつけよう。

 授業が始まるまで戻らなければ殺られなかったのに!


 ……しかし何で全員俯いてるんだ?



「さっき~八神君を~殴った人は~正直に手をあげなさい」


 とりあえず軽いジャブを……って反応がないな。

 大人しく手を上げれば先生は許したんだぞ!



「てめえらさっきはよくもやってくれたな絶対に許さねえぞ本当にありがとうございました!」


「…………………………あ、八神君」


 最初に田中が振り向いたが、目が異様に虚ろだ。

 その声で電池が入ったかのように他の連中も振り向く。

 そして、のろのろと立ち上がってこっちに寄って来る。

 やべえな、さっきよりも全然ゾンビっぽいぞ、気の弱いヤツなら失神物だな。



「お、八神か」「はは、八神だな」「さっきはすまなかったな八神」「八神も俺達の仲間だ!」「ごめん八神、俺誤解してたわ。ガム食うかい?」


 八神八神うるせえ。

 つかこいつらちょっとおかしくないか?



「お前らがたとえ悔い改めたとしても……俺の堕天使の翼が許さない……祈れ!」


 中二っぽく怒りをアピールする俺カコイイ。

 格好いいポーズも取ってみたり。

 たまたま目が合ったアキラハーレムの女子が凄い勢いで目を逸らした。何故だ。



「ははは面白いなあ八神は」「さすが八神だな」「うんうん八神は癒し系だ」「八神、ガム食うかい?」


 八神八神うるせえ。

 妙に優しいと言うか、生暖かい目で見てくるし何なんだ。

 俺が美少年すぎて変な趣味に目覚めたんだろうか?

 こんなエクスカリバーどころか錆びたダガーみたいな連中のモノを飲み込む趣味はないぞ。

 いや聖剣でも飲み込まないけどな。



「……あのですね、八神君」


 田中がゾンビ共を代表するように話し掛けてきた。



「……美里さんが男性には興味は無いと……恋人とか付き合うとかありえないと……」


「「「うううっ!!」」」


 あー……それでこいつら落ち込んでるのか。

 ところで落ち込んでると、おちんこでるはちょっと似ているよな。



「それでお前らおちんこ出してるのか」


「「「出してねーよ!!!!」」」


 そうか、お前ら小さいもんな。



「……最初は我々も八神君に嫉妬していたのですが、その話を聞いてなんというか……」


「八神も仲間だからな!」「美里さん……男に興味がないなんて……」「もったいなさすぎる」「俺は遠くから見守る派だったから気にしないね! 気にしてないからね!」「元から付き合えるなんて思ってなかったけどな……」「レズっ子なアキラたんハァハァ」「アキラちゃんと林田の薄い本キボンヌ」


 うわコイツらきめぇ。

 まあ今のアキラはそういうのに興味はないだろうしな。

 コイツらが生ゴミみたいになっていた理由はよくわかった。

 問答無用で襲ってこなくなるなら、ありがたい話だな。



「一緒にすんなよクズ共、俺とアキラはマブダチだぞ? さっきも弁当食わせてもらったからな? 手作りの」


 なんで俺は挑発してるんだろう。


 周囲の空気が一気に氷点下まで落ち込んだ。

 落ち込んだと、おちん……今はそんな事はどうでもいい。



「まあ待て。待て待て待て。これは孔明の罠だ待て待て」


「……八神君、自爆するの好きですよね」


「おう、もしかしたらマゾなのかもしれん……ってそうじゃねえ、お前らそれでいいのか?」


 タニシみたいな眼でこちらを見ている連中に言い聞かせるように語る。



「まずは友達から……って言葉があるだろ?」


「「「!!!!!」」」


「……確かに。一理ありますね」


 ま、本当は野郎は近づけたくねえんだけどな。

 でも仲間は多い方が良いしな。



「一緒にしゃべったり、遊びに行ったりとか……どうよ?」


「「「!!!!!!!」」」


「……想像するだけでも楽しくなりますね」


 俺以外の男友達ってのも居た方が楽しいだろうし。

 これもアキラの為だ、我慢してやろう。



「そして俺はアキラとマブダチだ。なんならアキラの気を引けるような話し掛け方とか、教えてやってもいいぞ?」


「「「是非お願いします!」」」


 ゾンビの目に光が灯って人間に戻った。

 つか脚にしがみつくな田中、どんだけ必死なんだよ。

 しっかしコイツら無駄に下心が見えるなあ……今まで抑えてたのか?



「……だいたい最初っから恋人なんておこがましいんだよ不細工ども」


「「「ぶっ殺すぞコラあああ!!!」」」


 牽制はしとかんとな。あくまで友達だっつーの。

 しかし凄いブチキレ方だな。

 人間、事実を言われると傷つくもんな、ははは。

 俺? 俺はもちろんイケメソですよ。彼女いない歴=年齢の。


 つーか今のお子様アキラに恋人がどうとか言っても理解しねえっての。

 俺でさえ相手にされなかったんだから……。



「俺でさえ相手にされなかったんだから……」


「やっぱり八神も仲間だ!」「友よ!」「ははワロスワロス」「あー……すまなかったな」「八神はオワコン」「なんだよ最初っから仲間だって言ってくれよ」「アキラちゃんは男を見る目があるな!」「八神、ガム食うかい?」


 ちくしょう声に出してたか。

 その生暖かい目は止めろ!


 なんだか段々腹が立ってきたな……。



「……で、その話し掛け方とは?」


 うむ、ちょうどいい質問だ田中。

 ちっとばかしコイツらを罠にはめてやろう。



「こんにちは今日もいい天気ですねパンツ見せて、とかだな……ってなんだよなんでそんな白い目で見やがる」


「……いや見るでしょう流石に。八神君もっと真面目に答えて下さい」


 凄まじいブーイングが飛び交う。

 流石に騙されないか。俺なら騙されるんだけどな?



「いやいやマジだぞ? 初めて会った時もパンツ見せてって言ったし。騙されたと思ってやってみそ?」


「マジか……?」「本気で言ってるっぽいぞ?」「八神だしなあ……」「美里さんもしかしてバカが好きなんじゃね?」「可哀想な子だと思って友達になったのかもしれんな」「八神、このガム食って正気に戻ってくれ」


 よーしお前ら屋上に行こう、久々に切れちまったよ。

 ビキビキ。


 って、なんか面倒くさくなってきたな、いいからさっさとアキラのトコ行ってこいよ。


 そういやアキラはどうなってっかな?


 視線を、少し離れた所でワイワイやっているアキラ達の方に向ける。

 ……見事に女子まみれだな、しつこいようだけどアキラ爆発しろ。



「お前らが愚図々々してるからアキラがレズ街道まっしぐらだぞ?」


 と、指差してみる。

 その先にはキャッキャウフフしている桃色空間が。心なしかアキラの顔はひきつっているけどな。

 つーかすげえな女子。あんな事をしても許されるのか女子。俺も女子になりたい。

 うおっ! マジ……?


 全員で生唾を飲み込みつつ鑑賞会。

 おいおい、ちょっとこれ許されるのかこれ? やばくないかこれ? アキラ悲鳴あげてないかこれ? エッチぃ声だなおいこれ? 抽象的ですまないが詳しく描写すると色々とやばい。アキラがエロ可愛くて地球がやばい。

 誰か撮影しろよ俺が許可だすから。


 …………………。

 ……………。

 ………ゴクリ。

 誰かが大きく喉を鳴らした……って田中か。


 スケベなヤツめ、おかげで醒めたじゃねえか。

 だが、そのおかげで正気に戻った。

 とりあえずコイツら全員を記憶が無くなるまでぶん殴ろう……って違う、今がチャンスだ。


 今 が チ ャ ン ス だ !



「いいのかお前ら!? このままだとアキラがマジでレズになるぞ!」


「「「!!!!!」」」


 その言葉に一瞬だけバカどもが正気に戻る。そこへ――



「行け! そして叫べ!!」


 俺のカリスマと煽動力、全てを注ぎ込んで--



「パンツ見せて、と!!!」


「「「おう!!!!!」」」


 良し。バカどもが引っ掛った。

 ……まさか田中まで行くとは思わなかったが。



 桃色ショーの後は、アクションショーの一人鑑賞会。


 林田すげーマジすげー、人って宙を飛ぶんだな、とか。

 アキラも中々いいパンチ打つよな、とか。

 ちっちゃい人、あれ分身してねえか、とか。

 女子も集団になるとエグい事するよな、とか。


 いやー良いもん見れた。

 アキラとはゆっくり友達になってくれ、うん。






 ーーーーーーーーーーーー






「コーイチ、メアド交換しよう」


「おう……ってなんで携帯奪うんだよ」


「いいからいいから。むー……オレ以外の名前がこんなに……」


「ちょ、勝手にいじるな。つか何してんだ?」


「オレ以外のアドレス名をモブA,B,C,etcに変えようかと……」


「おいバカやめろ」


「冗談だよ……『唯一無二にして永遠の親友アキラ』と、まずはこれで良し」


「……満足したか? んじゃ携帯返してくれ」


「いやまだ」


「はー……」


「ねーねー、ボイス着信ってどうやるの?」


「だからお前は何をしてんだよ!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ