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親友なんてありえない 【その1】

『かわいくなったなアキラ、パンツ見せてくれ』




 ーーーーーーーーーーーー




「ヤンキーの転校生って紹介と海外からの留学生って紹介、どっちがええ?」


「三日でこの学校をしめる! って自己紹介とコニーチワニッポンのミナサンって自己紹介、どっちがいいっすかね?」


 教壇の上で担任の教師とボサボサの金髪頭が漫才を始めている。

 無造作に伸ばした髪は目にかかるくらいまで伸びているが、だらしない印象ではない。

 顔立ちは整っているけど、日本人そのものだ。

 黙っていれば女子にもてそうな感じだけど、まるで小学生のように大口を開けて笑っている。

 身長は170センチ後半くらいだろうか。

 ブレザーのボタンは外しているけどYシャツはズボンの中へ。意外ときっちりしており、結構脚が長い。



「引いてるヤツがいっぱいおるし、これくらいにしとこか。んじゃてきとーに頼むわ」


 そう促されて金髪頭が教壇の真ん中に進む。

 教室を見渡すと半分くらいが興味津々な顔、残りの半分は諦めとうれしさが混ざった複雑そうな顔。

 そして第一声。



「事故って入院していた八神紘一です! 今日は弁当を忘れたので食べ物募集中です!」


 小学校5年生の冬。

 黙っていなくなった初めての友達。



「財布も忘れたんでマジでお願いします!」


 親友、八神紘一が食べ物をおねだりしていた。




 ーーーーーーーーーーーー




 本当にコーイチだ……。

 教科書で顔を隠しながら、ちらちらと様子を伺う。

 アイツの席は机を二つほど挟んだ三つ目、ずっと空席だった場所だ。

 エレベーター組だったのか、既に何人かのクラスメートと親しげに話をしているようだ。


 どうしよう。話しかけたい。色々と聞きたい事もいっぱいある。

 なんであの日、約束したのに来なかったのか。どうして黙っていきなり転校していったのか。その後どこで何をして過ごしていたのか。


 だけど……。


 二ヶ月ちょっとの割には結構慣れてしまい、かなり適応してしまったけど元々オレは女じゃなく男だったんだよな。

 理由はまったく分からない、心当たりもまったく無い。ある日、目が覚めたら女になっていた。

 男で出されていた書類は全て女になっており、全部は調べていないけど親戚で交流のあった人達は、元からオレの事は女だと思っている。

 父さんと母さんは以前の男だったオレをちゃんと覚えているけど、全然違和感なく、むしろ女の子ができて嬉しいと喜んでいるくらいだし。

 家族や親戚以外の人間となると、親しい友達なんてアイツ以外いなかったので確認していない。


 アイツの中でオレはどうなっているんだろう?

 やっぱり元から女って扱い?

 その場合はどういった感じになるのだろう? 女友達とか幼馴染? 一緒に過ごした記憶は、色々と遊びまわった思い出はどうなるのかな……。


 父さん母さんと同じように、男だったオレを覚えていたら?

 その場合は思い出に関しては問題ない、勿論色々と問い詰めたい事はあるけど。ただその場合の問題は……。

 気持ち悪がられたりしないかな? 一緒に遊んでいた友達がいきなり女になっちゃってて。スカートとか穿いてるし。うわー……。

 どうしよう、ブスじゃないとは思うんだけど。自分ではよくわからないけど、周りの評価的には良い感じなんだけど。

 ってそんな事はどうでもいい。

 うーんうーん……


 それ以前に、オレの事をちゃんと覚えている?

 友達だ、親友だって思っていたのがオレの方だけで、アイツにとっては、オレはどうでも良い存在で……。

 だから何も言わないで転校していって……。



 どうしよう。話しかけたいのに。色々と聞きたいのに。




 ーーーーーーーーーーーー




 もうちょっと……机を寄せれば……会話が聞き取れる気がする!

 ガタゴトと席をずらす。マツリちゃんが何事かといった顔をしているけど気にしない。



「教科書忘れたのですよ?」


「持ってる。気にしないで。あと悪いけど少し静かにしてて」


「えぅ……わかったですよ」


 ごめんねマツリちゃん、今度コスプレでも何でもするから。ついでだしマツリちゃんを隠れ蓑にして観察しよう。



「はぅっ、お姉様がこんなに密着ですよ」


「静かにしてね」


 じー。聞き耳を立てる。耳を象にするイメージで!



「おー遠藤と鏑木も同じクラスか、今年もよろしくなあははー」


「木下さんも一緒か、少しでいいから弁当分けてくれ!」


 さっきから見ているとひっきりなしに人が寄ってきてコーイチに話しかけている。……ずるい。



「……久しぶりだね八神くん、体はもういいのかい?」


「おー田中か、相変らず眼鏡だな」


 む……田中も顔見知りなのか、ずるいぞ田中のくせに。



「一応退院おめでとうと言っておくわ。まさか高校でもあんたと一緒だなんてね。ところで何で金髪なの? バカなの? グレたの? ヤンキーなの?」


「おー林田か、相変らず眼鏡だな」


 林田さんまで顔見知りなのか、金髪はやっぱり気になるよなー。ところで何で殺気っぽい物を出しているのだろう?

 実は別れた彼女とか……。



「それだけはありえないわ!」


「うおっ、なんだいきなり」


「なんでかしら? 叫ばないといけない気がしたのよ」


 ……びっくりした。考えている事が解るのだろうか? ちょっと怖い。



「お、竹村! は眼鏡じゃないんだな……」


 何故かガッカリしている。相変わらず訳がわからない。




 ーーーーーーーーーーーー



 次の休み時間も同じような感じだった、と言うより更に人が増えた。別のクラスからも続々と。

 うー……。

 話しかけるきっかけさえ掴めない。

 こっちがヤキモキしているのにアイツはへらへらしているし。


 だいたい親友なんだから気付くべきだと思う。

 ちょっと女になっただけなのに。真の友達なら、さっくり気が付いて向こうから話しかけてくると思う。

 やっぱり忘れられているのかな?

 うー……うー…………。



「お姉様、お腹痛いですよ?」


「……お腹は痛くない」


 悲しくて心が痛い。なんちゃって。どちらかというと怒りの方が……自分でも理不尽な気がするけど。

 授業中もずっと見つめているのに、こっちを見向きもしない。

 なんでコーイチのくせに普通に授業を受けているんだ、きっと教科書にパラパラ漫画でも描いてるのだろうけど。



「あーもうっ!」


 ガタンッ!

 いてて……思わず興奮して机に膝をぶつけちゃったじゃないか。コーイチめ!



「村野、立ってなさい」


「ええー……」


「二度は言わないぞ?」


「えぅ……わかったですよ…………」


 うー、涙出てきた。結構派手な音がしたし。それもこれも全部コーイチのせいだ!

 膝をさすさすした後、もう一度コーイチの方を見ると教科書をパラパラめくってニヤニヤしている。やっぱりマンガを描いてたな。

 ところで何時の間にかマツリちゃんが立たされいる。どうしたんだろう?



 次の休み時間。

 一生懸命にオレに気付け念波を送っていたら、やっと目が合った。

 でもすぐ逸らされた。

 むー!

 なんで目を逸らすんだ!

 アキラだよ! 小学校の時の親友の! こっち向けー!



「えぅ……えぅ……お姉様がおかしいですよ、そのせいで何故かマツリが立たされたですよ」


 隣ではマツリちゃんがシクシクとえぅっている。ごめんね、今電波もとい念波を飛ばすのに忙しいから後でね。

 お、また目が合った。

 少しの間見つめ合った後、引いたような様子で目を逸らされた。

 なんで引くのかな、電波女はダメなのかな。いや、飛ばしているのは念波ですって自分でも訳がわからない!

 うー……。なんか近くに来た田中としゃべり始めたし。許せない田中許せない!



「なあ田中」


「……なんだい?」


「さっきから窓際にいる女子がガンを飛ばしてくるんだが、俺なんかしたかな?」


「……またパンツ見せろって言ったのかい? そのクセはいい加減に直した方がいいよ」


「言ってねえよ、まだ。あの娘パンツ見せたいのかな?」


 気付いてくれたらパンツでも何でも見せるから、こっちを向け! そして気付けー!



「……で、どの女子かな?」


「窓際一番後ろの。ちなみにまだガン飛ばしてる、そんなにパンツ見せたいのかな?」


「……美里さんかな? 確かにこっちを見ているね。あとパンツは見せたがってないと思うよ」


「そうか残念だ……って美里? 美里……?」


 あ……。

 美里って言葉に反応した。

 こっちを向いて、今度は目を逸らさない。

 じっとオレを見ている。



「あの娘、美里っていうのか?」


「……うん。あ、先に言っておくけど彼女に変なちょっかい出すと、副委員長達が黙っていないから気をつけてね」


「達ってなんだ達って。それよりも美里……美里ね………」


 えっと、どうしよっかな……。

 こっちから素直に話しかけに行くべきだろうか? でも色々と面倒な事が……。

 コーイチはこっちを見つつ、顎に手を添えて考え込んでいる。



「……アキラ?」


 囁くようなその呟きは、本来聞こえないはずなのに。

 何故かはっきりと聞こえた。

 コーイチはオレを覚えている! オレを見てアキラと言ってくれた!

 とにかく話そう。今すぐにでも。細かい事はどうでもいいから。

 そう思って席を立とうと腰を浮かせた瞬間、勢い良く教室のドアが開いた。



「ちょっと早いけどすまんな、そのままでええから聞いてくれ」


 カッキー……。

 なんでこのタイミングで……。

 気勢を削がれたというか……なんというか……力が抜けた…………。

 思わず机の上につっぷしてしまう。もうカッキーの話なんて聞きたくないよ。



「次、ワイの授業やったけど校長に呼び出されたんで自習で頼むわ」


 ん? 自習?



「プリントだしとくさかい適当に埋めといてや、しかし誰がチクったんや……」


 プリント? それってもしかして1時間丸々自由なの?



「しかもPNPを人質にとるなんて……ワイはホームルームでしかやっとらへんで……」


 教卓にドサっと紙束を置いて、ぶつぶつ呟きながらカッキーが出て行った。ホームルーム中でも十分ダメだと思うけど。

 ってそんな事はどうでもいい! 時間ができたなら……!

 ガバッと顔を上げると、目の前にコーイチがいた。



 近くで見るとあまり変わってないな。

 でも身長は伸びたな、ずるいぞ。

 髪の毛なんで金色なのかな。

 あ、ポッケから携帯が見えてる。


 取り留めもない事を考えながらじっと見つめていると、ポリポリと頭を掻きながらコーイチが口を開いた。



「あー、その、美里……さん?」


 さん付けなんて他人行儀な、昔みたいにアキラでいいのに。



「変な事聞くけど--」


 コーイチが変なのは昔からだから気にしないぞ!



「双子の兄弟……は無いか。よく似ている親戚とかいない? おない年の」


 ………………。

 落ち着こう、冷静に考えればそう思ってもしょうがないし。

 逆に考えるんだ。あのバカなコーイチが兄弟とか親戚とか、高度な思考をするようになったんだと。

 覚えていてくれた! と舞い上がったオレがバカだったんだ。普通に考えれば男が女になる訳ないし。

 丁度良いから、このまま見知らぬ女子の振りをして色々聞いてみよう、うん。

 怒ってないよ? ああコイツなんでこんなヘラヘラした顔しているんだろ、いいからちょっとこっちに来い!



「ちょ、なんだなんだ。うわーい女の子に手を握られるなんてボクお金持ってないです……って教室から出るのか?」


「……いいから」


「俺を拉致るつもりか! さっきもガン飛ばしてたし、そんなにパンツを見せたいのかありがとうございます?」


「……違いマス」


「じゃあなんだ? 俺なにか悪い事したか? 身に覚えのない事でも俺はいつだって土下座をする準備はできているぞ!」


「……いいから黙ってきて下サイ!」


 ええい、いいからさっさと来るんだ! 土下座は話次第でいくらでもさせてやるから!



「ちょっと美里さん!? そのバカとどこへ行くの? 危ないわ! 危険だわ! 危険が危ないから私も行く!」


「絶対に付いて来ないで下サイ」


 今だけは二人っきりにさせてもらいたい。付いてきたら林田さんでも許さない、3日は口をきかない。



「ごめんなさい! 我慢するから許して! 3日も美里さんとおしゃべりできないなんて死んじゃう!」


 ……林田さんはテレパシーでも使えるのだろうか? まあいっか、さあキリキリ行くぞコーイチ!



「えぅぅぅぅ……お姉様が、お姉様が男の人と仲良く手を繋いでいるですよ? ラブラブなのですよ?」


「あははー、これがモテ期ってやつかな? そこのちっちゃい人も手を繋いであげてもいいぞ?」


 手を離してと。首根っこを掴んでと。やっぱり耳にしておこう。これで良しと。



「待遇の改善を要求する!」


 五月蝿い。



「他の人達も--」


「すぐ戻るから付いて来ないで下サイネ?」


 クラスメート全員が何故か怯えた様子でコクコクと頷いた。




 ーーーーーーーーーーーー




 教室から連れ出すだけで一苦労だった。

 それはさておき、どこで話そうかな? 授業中だから人目はないけど先生に見つかったら怒られるだろうし。

 ちなみに今は耳をつまんでいない、待遇の改善を要求すると連呼して騒々しかったので。



「なあ、どこに行くんだ? 俺は知らない人にもひょいひょい付いて行く男だから構わんけど」


 心配になる発言だ……。えーっと、屋上開いてるかな?

 階段を登ってドアノブを回す。開いていた、ラッキー。ぐいぐい腕を引っ張ってベンチまで連れて行き、座らせる。

 オレは目の前で仁王立ち。こうしないと見下ろされるし。

 5月頭だけど既に結構暑い。ブレザーは脱いでくれば良かったかもと、思っていると少しだけ強い風がふいた。

 巻きあげられた髪の毛を押さえていたらコーイチがボソリと呟いた。



「……やっぱり似ているな」


 似ているんじゃない、本人だ、と言いたいのを我慢して質問の言葉を口にする。



「……ワタシは誰に似ているのですか?」


「友達だよ、ガキの頃の」


 目を逸らしてどこか遠くを眺めながら、またボソリと呟いた。



「仲は良かったのですか?」


「もちろん良かったよ。マブダチだったな、妙に気が合った」


 !!

 落ち着け……落ち着け…………。

 震える右手を、同じく震えている左手で押さえつけながら質問を続ける。



「その友達は、男の子ですか? 女の子ですか?」


「男だよ、女みたいに可愛いヤツだったけどな」


「……っ!!」


 女みたいは余計だ、って覚えている! コーイチは昔のままのオレを覚えている!



「アンタはソイツによく似ているんだよ、苗字も一緒だしさ。だから親戚かと思った訳」


 本人なんだから似ていて当たり前だ! えっと、それよりも、それよりも……!



「で、話を戻すけど親戚に--」


「そ、その友達の事! もっと良く聞かせて下サイ!」


 親戚の話なんかどうでもいいから!



「いつ頃出会ったとか、どんな人だったとか、何をして遊んでいたとか……!」


 思わず身を乗り出して詰め寄ってしまった。いきなり大声を上げて近寄ったせいか、コーイチはびっくりしている。

 軽く苦笑いを浮かべ、ポツポツと語りだしてくれた。



「最初に出会ったのは小学校5年の時だよ--」


「暗いヤツかな、と思ったけど結構いいツッコミを入れてきて--」


「運動はそれなりだったかな? 俺が無理矢理あれこれやらしたんで、サッカーはそこそこできるように--」


「カードゲームはすぐ上手くなった、というか誰も勝てなくなったな。俺が負けると、いらんと言ってるのに敵討ちに--」


 それ以外にも、消火器をぶちまけたり、排水パイプをよじ登って校舎の3階から落ちたり、公園の砂場を掘り出して池を作ろうとしたりだの、割と碌でもない話をうれしそうにしゃべっている。



「全部アイツに巻き込まれたんだけどな、俺は止めたんだけど」


 コイツは……。



「……というのはウソです」


 白い目で見ていたら速攻で訂正した。



「しかしホントにアキラに似てるな。アイツ、いつもはオレの言う事なんでもきいてトコトコ後ろを付いて来るのに、たま~に怖いんだ」


「それは……」


 心配だったんだよ、たまに本当に危ない事をするし。その場で止めても聞かないから、結局後で怒る事になっていたけど。



「ん?」


「それはさておき……」


 そうだ。一番聞きたかった事。今でもオレを覚えていて、今でも親友だと思ってくれているのは解った。

 じゃあ何でいきなりいなくなったんだ。 

 約束してたのに。

 一言も、何も言わないで。



「その友達とは、今でも、仲良く、しているの、ですか?」


 とぎれとぎれに、絞りだすように声を出した。



「……してない、どこで何をしているかもわからない」


 また目を逸らした。



「友達、だったのでしょう?」


「…………………………」


 何もしゃべらない。



「何か、あったの、ですか?」


「ケンカでも、したのですか?」


「それとも、やむを得ない、事情があったとか?」


 オレだけがしゃべり続ける。

 コーイチは何も言わない。



「黙って、何も言わず、別れたのですか?」


「なにか、約束とか、してませんでしたか?」


 最後の一言に、ピクッと反応した。



「そう言えば……」


「……そう言えば?」


 また長い沈黙。

 5分? 10分? 時間の感覚がなくなってきた。

 彫像のように黙り込む姿を見ている内に、感情が高ぶってくる。

 息が苦しい。

 視界がにじむ。

 体が揺れる--



「公園で遊ぶ約束をしたな、守れなかったけど」


「そうだ! ずっと待ってたのに!」


 我慢できなかった。拳を震わせながら、思わず叫んでいた。



「えっ?」


「2時間待って! 3時間待って! それでも来ないから電話をして! でも誰も出なくて!」


「えっ? えっ!? アンタなにを言ってるんだ?」


 コーイチは混乱している。それはそうだろう、でも止められない。



「次の日学校に行ったら転校したって! 先生に聞いても何も答えてくれないし!」


「ちょ、ちょっと待て」


「どうしてだよ……いつも一緒だったのに……」


 思いっきり叫んで、怒鳴って。

 コーイチがいなくなった日を思い出して、また悲しくなって。

 脚の力が抜けて、へたり込んで、床に座ってしまった。

 何時の間にか泣いちゃってるし。



「……お前、アキラなのか?」


「そうだよアキラだよ! 一目見て判れバカ!」


「無茶言うな」


 うー! コイツなんか冷静でムカつく! 人が大泣きしてるのに! こっちは一目で判ったのに!



「女……だよな? 女装じゃないよな? お前女だったっけ? いや、そんなはずはないよな……」


『確かにアキラが女だったらなあ、と昔何度も思ったけど……』とかブツブツ呟いている。

 ええい、そんな事はどうでもいい!



「それよりも……」


 グシュグシュと鼻をすすりながら続ける。うー、我ながらみっともない。



「なんで来なかったんだよ……なんでいきなり転校しちゃったんだよ…………」


「とりあえずほれ、ハンカチ」


 いいから答えろ! でもハンカチは借りる。チーン!



「お前容赦無いな!」


「五月蝿い、洗って返すし」


 自分でもハンカチくらい持っているけど。

 あー、なんかバカに気を使われたおかげで少し落ち着いてきた。

 昔から妙な所で気を使ってくれるんだよな。



「あの、な」


 ベンチから降りて、オレの目の前でしゃがみ込む。



「あの日来なかった訳や黙って転校した事なんだけど」


 うん。



「落ち着いて聞いてくれ、深い訳があったんだ」


 そっか、やっぱり何か理由があったのか。



「すまん、お前の事--」


 オレの事を?



「すっかり忘れてた」




 …………。

 頭が真っ白になって。

 気付いたら。

 右ストレートを叩きこんでいた。

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